回復薬
「あ、でも待って。魔力をハーブティーに流すなら、水属性魔法が使える人の方が良いかも」
もう一度カルロスさん、ベアトリスさんと作ろうとしたら、紅緒ちゃんに止められた。
どうやら魔力を流すものは、適性のあるものの方が良いらしい。
ハーブティーはもちろん液体なので、水属性魔法を使える人の方が、魔力を流しやすいということだ。
ちなみにカルロスさんはと尋ねると、残念ながら持っていないと言われてしまった。
ならばベアトリスさんは?と視線を送ったが、元々第三騎士団所属で魔法自体があまり得意じゃないのよとため息をつかれた。
確かアルも水属性は使えなかった気がする。
陛下は……そういえば魔力がほとんどないって聞いたような。
あとは……。
「紅緒ちゃん?」
「え、あたし?」
水属性魔法も結構なレベルだって話だったよね?
聞けば、まあ良いけどと快く了承してくれた。
「……俺はそろそろ執務に戻る」
さて作りましょうかというところで、陛下が席を立った。
あれ、せっかく紅緒ちゃんが作るのに?
そう思ったが、ハーブティーのおかげで大分体も楽になったし、そんなに長時間休んでもいられないと言われてしまっては、引き止める理由がなかった。
「なかなか美味かったし、助かった。シーラ、結果はまた報告してくれ」
そうお礼を言うと、出て行ってしまった。
「青の聖女、今日もやらかすなよ?」
……しっかり釘を刺して。
仕事を増やすなよ、に聞こえたのは私だけだろうか。
ま、まあ回復効果を高める方法を見つけたのは良いことだもんね!
それ以外なんて無い、今日も大丈夫なはず!
よし、今度こそと思って振り返ると、思い付いたようにシーラ先生が声を上げた。
「あ、ねえ、ちょっと待って。それって別に水に流さなくても良いんじゃないかしら。例えば、ハーブ自体に流すとか」
なるほど、確かにそれも良い気がする。
元々効果があるのはハーブなのだし、むしろそちらの方が自然かもしれない。
でも植物なら何属性になるんだろう?
「土属性ですね。この中なら……アルバート?」
あ、アルバートさん!?
口に出す前に私の疑問に答えてくれたアルの言葉に、驚いてしまった。
アルバートさんが土属性魔法を使うことにではない。
作るのにアルバートさんを指名したことに、だ。
「……構わないが、ベニオ様から注意を逸らすわけにはいかないからな。あまり集中はできない」
しかも了承してくれちゃったよ。
まあハーブティーを作るのも魔力を流すのも、そこまで集中力のいる作業じゃないし、大丈夫だろう。
「じゃあ私はどっちに魔力流そうかな」
「どうせなら両方にやってみたら?どう変わるのか、比べるのも面白いし」
紅緒ちゃんがそう軽く答えるので、私もじゃあやってみようかなって返した。
のちに陛下に怒られることになるなんて、思いもしないで。
「レオンハルト、お前のところの聖女はアホなのか?」
「……いえ。その、確かに少しばかり浅慮だったかとは思うのですが。ただ、毎度申し上げますが、本人に悪気は……」
「あってたまるか!こんな国宝級回復薬作って、平穏無事でいられると思うなよ!」
「も、モウシワケアリマセン……」
私の保護者みたいなものだろうと呼び出されたレオン。
言い訳の仕様もなくて縮こまる私。
そして、漫画だったら顔中に怒りマークがついているであろう、頭を押さえてうなる陛下。
その手元には、最上級回復薬が握られていた。
あの後――――。
やってみればいっか〜ぐらいの軽い気持ちで、私はハーブティーを作っていた。
お湯にハーブを入れて、水とハーブの両方に魔力を流す。
そうやって、しばらく魔力を流しながら考えた。
これが成功したら、討伐などでも常用されるようになるかもしれない。
そうしたら、致命傷を負った人も助けられるかも。
そう思った時、ついこの前の遠征での、傷付いて意識を無くしたウィルさんを思い出した。
もし、レオンがあんな傷を負ったら?
もう助からないって判断されたら?
――――もう、会えなくなるの?
言いようのない不安が胸を襲い、そんなの嫌だと、つい力が入ってしまった。
結果。
************
*最上級ポーション*
癒やしの聖女手作りのポーション。
癒しの聖女の想いが込められている"
効果:HP全回復
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こうなった。
ブレンドと魔力により効果が上がったのは、紅緒ちゃんとアルバートさんの作ったものから実証された。
また、魔力を流すことで、ハーブティーではなく、回復薬となることも分かった。
そしてさらに私は、聖属性魔法特典までつけてしまったらしい。
そういえば、全回復のチョコを作った時も、レオンのことを考えていたらそうなってしまった。
思いの強さで変わる、分かっていたんだけど。
「つい……」
「ついで済むか!」
陛下に怒られ、突っ込まれる事態となってしまった。
しゅんと小さくなる私を、レオンとアルが苦笑しながら慰めてくれた。
「いやな、回復薬を開発してくれたのはとても有り難いことなんだがな。ちょっとその、効果が予想以上すぎて」
「ええ。私はここらでやらかすのではと思っていましたから、大丈夫ですよ」
いや、アルのは慰めではなかった。
もう慣れてますからとの微笑みに、思わず謝ってしまった。
「でもさ、実際ありがたいんだしさ。あんたもそんなに目くじらを立てなくても良いんじゃない?」
ついてきてくれた紅緒ちゃんがそうフォローしてくれる。
うう、ありがとう。
でもね、陛下は平穏を望む私のことを思って言ってくれてるのよ。
訳を話せば、うーん?と難しい顔をされてしまった。
そうよね、みんなそう思うわよね。
それならば、もう腹をくくるしかない。
「えっと、もうこの際、平穏とかはあまり考えないでおこうと思います。やりたいことをやった結果なのですから、自分で責任を取ります。ですから、陛下も私のことはあまり気にしないで下さい」
確かに波乱万丈は嫌だし、あまり目立つのも好きじゃないが、自分で決めたことなら、自分で責任を持ってやろう。
召喚してしまった負い目があるためか、陛下は私達をとても気遣ってくれるが、紅緒ちゃんはともかく私はいい大人だし、そろそろ守られてばかりではいけない。
そう思って伝えてみたのだが、じっと見つめられた後、はぁと深いため息をつかれた。
「……正直、これ以上ない程に助かる。討伐・遠征に出て、一生消えない傷を負う者や命を落とすものは、少なからずいる。その不安と戦う騎士や魔術師の家族は、数え切れない程だ。現時点では恐らく、この全回復ポーションはお前にしか作れないだろう。要請があれば、引き受けてくれるか?」
回復薬を作ろうと思ったきっかけ、それを思い出して、しっかりと頷く。
「はい、ぜひ、お手伝いさせて下さい」




