増加
「いや、お前ひとりにやらせて飲み食いするのは気が引けるからな。座って、鑑定しながらお前も飲め」
ずっと黙って見ていた陛下が、ぶっきらぼうにそう言った。
口は悪いが意外と気配り屋さんなのは、相変わらずのようだ。
ちょっとお行儀は悪いかもだけど、その気遣いが嬉しくて、それならばと椅子に腰掛けた。
そんな私達のやり取りを見て、他のみんなも席に着く。
確かに時間がたつと薄くなっちゃうしね。
ここはお言葉に甘えて出来たてを頂こう。
誰とはなしにグラスに口をつければ、微かなレモンの爽やかな香りと、ミントの清涼感が口の中に広がった。
キンキンに冷やされたそれは、今日のような夏の暑い日にはピッタリだ。
「美味しい!」
「ええ。ミントだけのものよりも、私はこちらの方が好みですね」
先日ミントとローズマリーのお茶を飲んでいたシーラ先生とアルも、気に入ってくれたみたい。
別の席を見れば、カルロスさんやベアトリスさんもごくごくと飲んでくれている。
「なんかめっちゃ体力回復してる気がする」
「本当。それに頭もスッキリするわ!」
そしてしっかり効果も感じているようだ。
そして陛下はと言うと。
「……まあ、悪くない」
多分だけど、割と好きな味だったんじゃないかな?
心なしか目の下のクマさんも薄くなった気がする。
「おかわりもありますし、クッキーも合わせてどうぞ。さて、私は……“鑑定”」
概ね好評、期待できそうなのを確認したので、今度こそお仕事だ。
とりあえず私が作ったハーブティーから。
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*レモンバームとペパーミントのハーブティー*
癒やしの聖女手作りのハーブティー。下記の効果が増加している。
またブレンドにより、効果が増加。
効果:HP中回復、鎮静作用(中)、消化促進作用(中)
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「ええっ!?」
鑑定結果に驚いて声を上げれば、みんなからどうしました!?と心配された。
いやいや全ての効果がひとつ上がっているのは、かなり嬉しい。
カルロスさんやベアトリスさんが作ったものはどうだろう。
こちらも鑑定をかけてみたが、HP回復が“小”で、他のふたつが“弱”だった。
ちなみにカルロスさんの作ったものは“HP小+回復”だった。
聖属性持ちだから、他の人よりも少しアップしているということなのかな?
どうやら効果の高さは、[微<弱<小<中]ということらしい。
それにしてもミントティーの効果が“微”だったことを考えると、かなり効果がアップしている。
「なるほどねぇ。ハーブを組み合わせることで効果がアップするとなると、色々と試してみたいわね」
「そうですね。ひょっとしたら、その相性によっては増加の大小が変わるかもしれませんし、場合によっては無くなることもあるかと。闇雲に何でも混ぜれば良い、という訳ではないと思います」
シーラ先生とベアトリスさんの意見に、私も頷く。
薬とかも混ぜたりするけど、飲み合わせとかあるしね。
こういうのはやっぱり、何度も何度も検証して調べていくしかないだろう。
「お前の元いた世界には、他にどんなハーブとやらがあったんだ?こちらでも探してみるが」
なるほど、あちこち探し回るよりも、名前がほぼ同じなら、それを伝えて探してもらった方が早い。
陛下ってば、冴えてる。
「あ、えっと、私もそこまで詳しい訳じゃないのですが……。ラベンダー、カモミール、あと……ジャスミン?ローズヒップ?ルイボスティーなんてのもあったなぁ。あれ?でもそれってハーブだっけ?」
なんだか思い出していて訳が分からなくなってしまった。
ジャスミンは花だよね……ローズヒップって何だろう。
ルイボス?葉?花?実?
「……形状が分からんことはよく分かった」
あはは、伝わったようで何よりです。
そんなこんなでハーブティーについてみんなであれこれと話し合っていると、不意に扉が開かれて、聞き慣れた明るい声が響いた。
「瑠璃さん、ここに……って。あれ、大集合ね?」
紅緒ちゃんだ。
「あ、今例のハーブティーの検証してたの。良かったらこっち座って、一緒にどうぞ。アルバートさんも」
「……ありがとうございます」
おお、寡黙なアルバートさんが返事してくれた。
紅緒ちゃんは最初からそのつもりだったようで、すぐに私の隣へと腰を掛けたので、二杯分のハーブティーをグラスに注いで手渡した。
「だからこのメンツなのね。……なんであんたまでいるのか分からないけど」
「ただの休息だ。すぐに仕事に戻る」
胡乱な目つきで紅緒ちゃんが陛下を見つめると、素っ気なくそう返された。
確かにこんな所に陛下がいるなんて、珍しいもんね。
シーラ先生に脅されて来ているとは言えないけど。
クッキーとハーブティーを美味しそうに口にする紅緒ちゃんが、それで結果はどうだったのかと聞いてきたので、簡単に説明していく。
「へえ、やったわね。飲み物として常備すれば、遠征や戦闘中にも使いやすいし」
「そうなの。あと欲を言えば、もうちょっと回復量が上がると良いなあって。あとは、MP回復できるやつもあると良いなって思うのよね」
「まあねぇ。ゲームなら当たり前のようにあるけど、1からつくろうと思うと難しいわね」
うーんと紅緒ちゃんが、ハーブティーをごくごく飲みながら何やら考えてくれている。
ゲームの知識が豊富な紅緒ちゃんの意見は、かなり参考になるから、ついつい頼ってしまう。
「あ、そうだ。こっちに来る前、友達が貸してくれた転移モノの小説を読んだことがあるの。ゲーム好きなあたしに合わせて、冒険とかそっち方向の話だったんだけど。その本では、ポーション作るのに、魔法を使ってたわよ」
ショウセツ?ポーション?とみんなが首を傾げる中、私は想像してみる。
魔法かぁ……確かに効果ありそう。
でも何の魔法を使えば良いんだろう?
「あ、えーっと魔法を使うっていうか、魔力を流す?液体に自分の魔力を流して作るの」
こんな感じかなぁ?と紅緒ちゃんが徐に私の両手を取る。
何?と思うとすぐに体を何かが巡っていくのが分かった。
「どう?分かる?」
「分かる!すごい、紅緒ちゃん!」
ちょっとコツをつかめば、ある程度魔法が使える人なら誰でも出来るらしい。
私も何度かやってみたら、すぐに出来るようになった。
よーし、じゃあ今度はこれもやってみよう!




