相性
「なっ……わ、私の娘は花の妖精だったのか!?」
カッ!とエドワードさんが目を見開く。
「父上、大げさでは……。確かにリーナはかわいいですけど」
リーナちゃんを褒めながらも冷静にツッコんだのは、レイ君。
「えへへ。るりせんせいにつくってもらったの」
「あらリーナ、かわいくしてもらったのね」
用意ができたと呼ばれたので、シートの敷かれた木陰に戻ると、みんなは口々に花冠を乗せたリーナちゃんを褒め称えた。
もちろんエドワードさんはがばっと抱き着いた。
かわいいかわいいと連呼するエドワードさんを呆れたように見つめるレイ君。
それを見て笑うエレオノーラさんとレオン、という構図になっている。
マーサさんとマリアも、控えめながら笑っているのが分かる。
「まあまあ。とりあえずみんなでお弁当、頂きましょう?」
予想通りすぎるみんなの反応に苦笑いしながらそう伝えると、そうだねと腰を下ろし始めた。
そうしてマリアがお弁当の蓋を開けると、感嘆の声が上がる。
「素敵!このお花、食べられるの?」
「これは以前リーナの誕生パーティでも使われていたピックですか?少しずつ色々な具材が刺してあって楽しいですね」
エレオノーラさんとレイ君が興味津々でお弁当を覗いてきた。
エドワードさんはさすがリーナとルリだな!とにこにこしている。
そんなみんなの反応に、リーナちゃんも満足そうだ。
「目にも楽しいとは、ピクニックに最適だな。リーナもありがとう。早速頂くよ」
リーナちゃんの頭を撫でるレオンの言葉を受け、みんなはそれぞれ好きな品に手をつけ始める。
美味しい!と声が上がって、私はリーナちゃんと目を見合わせて微笑んだ。
一生懸命作ったものを喜んでもらえるのって、嬉しいことよね。
しばらく忙しい日が続いていたから、こうやってみんなでのんびり出来るのが、すごく大切な時間に感じる。
「ふふ、みなさんたくさん食べて下さいね」
さあ、明日からも頑張ろう!って思えるから。
「そういえばルリ、この間ヴァイオレット殿下とアーサー殿下に会ったんだって?」
食後のお茶を頂いていると、思い出したようにエドワードさんが聞いてきた。
「あ、そうなんです。実は――――」
そこで、紅緒ちゃんや黄華さんとの会話から、回復効果のあるハーブティーを作れないかと思ったこと、薬草園を両殿下に案内してもらったこと、シーラ先生と一緒に試験的に作ってみたことなどを、かいつまんで説明する。
「でも期待したほどの効果はなくて。また明日、シーラ先生とカルロスさんにも相談に乗ってもらいながら、一緒に作る約束はしてるんですけど。あ、ちなみにおふたりの殿下はとてもかわいらしかったです」
仲良くなりたいです!と思いを込めて言えば、それが伝わったようで大人達は苦笑いを零している。
「聞いたところによると、アーサー殿下とはかなり会話も弾んだようだね?」
「弾んだ、のでしょうか?普通に薬草についてのお話とかはしましたけど。でも、ヴァイオレットちゃ……いえ殿下とは、ほとんど挨拶だけで。次にもし機会があれば、ぜひお話したいです」
妹殿下をちゃん呼びしそうになったことに、みんなは気付いたみたいだけれど、特に嗜められはしなかった。
その代わり、さすがルリだなとレオンに言われた。
さすがって何!?
「あ、そうそう、アーサー殿下はとても植物に詳しくて、リーナちゃんと話が合いそうだなって思ったよ」
「わたし?」
突然話を振られて、リーナちゃんがきょとんとする。
「うん、薬草をすごく大切に育ててるのが分かったもの。リーナちゃんと一緒だなって」
アーサー君の方が年も少し上で、やんちゃな感じじゃないから、お兄ちゃんみたいな感じで付き合えそうだなって思ったのよね。
リーナちゃん、女の子の友達は少しずつ増えてきているみたいだけど、男の子とはやっぱりなかなか話せないみたいだから。
レイ君と同じ位の年齢で穏やかな性格、似た趣味があるなら、馴染みやすいかなぁって思ったんだけれど……。
「ダメだ」
「ダメです」
父と兄にキッパリと拒否されてしまった。
なぜ?と思ったんだけど、どうやら年齢的に婚約者に選ばれる可能性があるらしくて……。
「「小さい時から目を付けられたくない」」らしい。
娘と妹を取られたくない父・兄心のようだ。
「……まあ、そうならないとは言い切れないな」
レオンもちょっと嫌そうに眉根を寄せている。
うーん、これだけの保護者がついていると難しい。
一時期モンスターペアレントなんて言葉が流行った時もあったけれど、一瞬その言葉が頭をよぎった。
リーナちゃん、お嫁に行けるかしら?
まあでもかなり未来の話だし、アーサー君はそう簡単にお会いできる立場の子じゃないしね。
ただの思い付きだったので、流してもらおう。
「あら、でもレイはアーサー殿下と同い年だから、学園に入ったら一緒に学ぶことになるわね。仲良くするのよ?」
エレオノーラさんの言葉に、ああそうですねとレイ君が返す。
そっか、同じくらいだとは思ったけれど、同い年かぁ。
「じゃあレイ君、友達になれると良いね」
「……まあ、そうですね」
ふふ、照れてるのかな?耳が赤い。
しかし、こうなるとアーサー君はともかく、ヴァイオレットちゃんとはなかなか接点が無いなぁ。
また会えると良いなとは思うんだけど。
そんなことを考えていると、話はハーブティーへと戻る。
どんな薬草を使ったのかとか、どんな効果があったのかなど、エドワードさんやエレオノーラさんからの質問に答えていく。
まあ、たった二種類でしか作ってないので、まだ分からないことの方が多いんだけど。
でも、私が思ったように、そういう薬効みたいなのがあると、病院などでも重宝されそうだと言われた。
「……それって、いろいろまぜてもいいの?」
と、ぽつりとリーナちゃんが言った。
え?とリーナちゃんの方を向くと、頭上の花冠を取って見つめていた。
「これ、しろいおはなだけでもかわいかったけど、ほかのおはなもまぜたら、もっとかわいくなった。その、はーぶてぃー?も、まぜるといいのかなぁって」
……なるほど。
確かに紅茶もブレンドしたりするしね。
そんなにハーブティーに詳しくないから、とりあえずメジャーなミントティーを作ってみたけど、混ぜても良かったのかもしれない。
ひょっとしたら、相性の良いものとかもあるかも。
「――――うん、明日やってみるね。ありがとうリーナちゃん!」
なんかちょっと希望が見えてきたかも!
「ううん。あ、あとね、――――」
リーナちゃんからのアドバイスを受け、明日の実験が楽しみになったのだった。




