ピクニック
「るりせんせい、たまごのからむけたよ!」
「ありがとう。じゃあ次はこのピックで、ミニトマトとキュウリとチーズを順番に刺していってね。こんな風に……」
「わあぁ!かわいい!」
「ピックってこんな使い方もできるのね……。すっごくかわいい!」
翌日、私とリーナちゃん、そしてマリアは朝からお弁当作りに勤しんでいた。
理由は、レオンとレイ君、エドワードさんやエレオノーラさんと一緒に、ピクニックに行くからだ。
もちろんテオさん達、ラピスラズリ家の料理人さん達も作ってくれているんだけど、ピクニックと言ったらやっぱり手作りお弁当よね!
昨日の夕食時――――。
『子ども達も連れて外へ行くなら、私達も一緒に行きたい!』
『あら、じゃあみんなで近くの湖のある高原にでも行きましょうか』
侯爵夫婦のこんな言葉から、みんなで揃ってピクニックに行くことが決まった。
どうせならお弁当作りを手伝いたいと言う私に、リーナちゃんも一緒にやりたいと言ってくれたのだ。
人数が多いからさすがに全部は無理だけど、何品かだけなら楽しく作れる。
リーナちゃんの包丁を持つ手付きもずいぶん危なげがなくなって、頼もしい限りだ。
私達が作るのは、おにぎりにゆで卵、あとは日本ならではの簡単デコおかず!
以前ミニハンバーガーのために作ってもらったピック、これは定番のアイテムだ。
それを使って、先程リーナちゃんに頼んだ、ピックに小さめに切った具材を刺すものだったり、薄焼き卵やハムに切り込みを入れてくるくる巻くと花の形になるものなど、初心者やリーナちゃんのような小さい子でも簡単にできるものばかりをチョイス。
マリアもすぐにコツを掴んで、具材を次々とかわいい花の形に巻いている。
「こんなの初めて見たわ!ルリたちの住んでいた世界って、楽しいアイディアに溢れてるのね」
言われてみれば、確かに……。
普通に作っても手間をかけてデコっても、味はほとんど変わらないはずなのにね。
でも折角なら!って思っちゃうのよね。
人によっては無駄、と言う人もいるかもしれない。
でもその無駄こそが、人生を豊かにしてくれることって多いんじゃないかな。
余裕がないと、そういう無駄って出来ないからね。
だからこれは必要なことなのだ!と思うことにして調理に戻る。
みんな揃って出かけるなんてなかなか出来ないことだから、今日くらい良いだろう。
近くで他のものを作ってくれている、テオさんからの視線が痛い気はするけど……。
きっと後から色々聞かれるんだろうなぁ。
お弁当も完成し、身支度を整えると馬車に乗り込む。
私はレオンとリーナちゃん、マリアと一緒だ。
わいわいと楽しくおしゃべりしていると、あっという間に景色が変わる。
「わあっ!るりせんせい、みえてきたよ、みずうみ!」
「ほんとね。水面がキラキラしてて、とっても綺麗!」
窓にぴたっとくっつくリーナちゃん、わくわくしているのが良く伝わってきて、微笑ましい。
パパとママ、それにレイ君とレオンも一緒だもんね。
初めてだというピクニックに、胸が躍るのも分かる。
「着きましたよ。足元に気を付けて降りて下さいね」
御者をしてくれているラピスラズリ家の護衛さんが声をかけてくれて、順番に降りる。
さり気なくレオンが手を取ってくれて、ちょっぴり照れてしまったのは秘密だ。
「るりせんせい、見て!」
「わあ……!」
リーナちゃんに促されて周りを見ると、そこには一面に広がる草原と花畑、それに澄みきった湖があった。
絵に描いたような素敵すぎる景色に、しばらく見とれてしまったのも仕方のないことだ。
夏の日差しが厳しいと思っていたのだが、木陰も多く、涼しい。
日よけの帽子を被れば、快適に過ごせそうだ。
「この木陰の辺りにお昼の用意をしてもらっている間、しばらく散策でもしていようか」
「素敵ね!エド、一緒に湖を一周りしてきましょう」
エドワードさんの提案に、エレオノーラさんが目を輝かせる。
仲良し夫婦の邪魔をしてはいけない。
私は子ども達を引き受けよう。
「じゃあ、リーナちゃん一緒に花摘みに行こうか。レイ君もどう?」
「えっと、僕は……」
「レイモンドは私と剣の稽古の約束をしていたな。丁度良い、近くの木陰でやろう」
「!はい、叔父上!」
そうか、レオンとの稽古を楽しみにしていたのね。
キラキラした目でレオンを見上げるレイ君に、思わず笑みが零れる。
ということで、お昼の用意はマーサさんとマリアに任せ、護衛さんが付いてくれてそれぞれに別れる。
すぐ側の花畑には、色とりどりの花が咲いていて、花好きのリーナちゃんも大喜びだ。
ふと見ると、そこには元の世界で見慣れた白い花も咲いていた。
「!そうだ」
「どうしたの、るりせんせい?」
きょとんと首を傾げるリーナちゃんに、ちょっと見ててねと言って、その白い花をたくさん摘む。
それを一本一本丁寧に組んでいくのを、リーナちゃんが目を見開いて見つめている。
コツをつかむまでがちょっと難しいんだけど、女の子なら一度はやったことがあるだろう、この遊び。
「長さはこれくらいかな。よしっ」
最後に端と端を繋いで出来上がったのは、シロツメクサの花冠。
所々に黄色やピンクの花も飾れば、さらにかわいさがアップする。
「はい、リーナちゃんにプレゼント!」
そっと帽子を取ってそのキラキラ輝く金の髪に乗せれば、花の精もかくやというお姫様がそこに!
「かわいい!るりせんせい、ありがとう!」
きゅーーーん!!
満開の笑顔に胸を貫かれた。
び、美少女の笑顔の破壊力よ……!
護衛さんも、いい仕事しましたね!と親指を立てて褒めてくれた。
て、天使すぎる……。
この世界にカメラがないのが残念で仕方がない。
後からエドワードさんが見たら、絶対かわいいを連呼してリーナちゃんに抱き着くに違いない。
そしてその予想がもちろん大当たりだったのは、言うまでもない。




