ミントティー
手摘みのハーブを持って、早速シーラ先生の所へと向かう。
陛下に許可をもらった時に、シーラ先生にもハーブティーのことを知らせていたのだ。
『薬草が手に入ったらすぐに私のところに来なさい!』って通信魔法で連絡が来たからね、きっと実験に協力してくれるのだろう。
シーラ先生も鑑定が使えるし、魔法についての知識はこの国で一番と言えるらしいので、とても心強い。
まあ今日はお試しなので、そこまでの結果は期待はしていないけれど。
「シーラ先生、失礼します。ルリです」
団長室の扉をノックすれば、どうぞとすぐに返事が返ってくる。
扉を開くと、待ってましたと言わんばかりに興奮した様子のシーラ先生に出迎えられた。
「よく来たわね!あら、薬草も無事に手に入ったみたいね。じゃあ早速作りましょ!」
おお、シーラ先生ったらやる気満々ね。
わくわくしている姿が、年上だけど何だかかわいい。
その時、ふっと職場の先輩の姿が脳裏をよぎった。
そういえば以前も、椎名先生に似てるなぁって思ったことあったっけ。
子ども達と一緒にはしゃいでいる時の姿と、今のシーラ先生がちょっぴり重なった。
「どうしたの、ルリ?早く始めましょ」
「あ、そうですね」
いけない、ぼーっとしてしまった。
折角時間を取ってもらっているのにダメだと、首をぷるぷる振る。
よし、気を取り直してまずはハーブの鑑定からね。
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*ペパーミント*
多年草。食用可。独特のメントール臭あり。
効果:鎮静作用(微)、消化促進作用(微)
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そんなにハーブに詳しい訳ではないけれど、大体予想通りの結果だ。
うーん、でもこのまま使っても回復薬としての効果はあまり期待できないみたい。
そう伝えてみると、すこし拗ねたようにシーラ先生が口を尖らせる。
「ふーん、ルリにはそんな効果の欄まで見えるのね」
どうやらシーラ先生の鑑定には、そこまでの記述が無いらしい。
視えた効果について口にしていくと、良いわね〜と羨ましがられた。
残念ながらミントにはHP回復の効果はなさそうだけど、鎮静、消化促進の作用って需要ありそうだし、いっちょ作ってみますか!
シーラ先生の団長室には、簡易的なキッチンみたいな場所があったので、今日はそこをお借りして実験することになった。
「ところでハーブティーってどうやって作るの?」
「え、まずひとつかみ分くらいの葉っぱを洗って千切り、お湯に入れます」
「ふんふん。で?」
「蒸らす。終わり」
それだけ!?それだけですか!?と、シーラ先生とアルの声が重なる。
「そうですよ?フレッシュな葉っぱなら、子どもでも料理が苦手な人でも作れるんです。ですから、上手く回復薬としての効果があったら便利だなぁと思ったんですよね」
そう言いながら千切ったミントの葉を、手近にあった小鍋に沸かしておいたお湯に入れる。
「ちょーっと待って!鍋に直接!?」
「あ、はい。もちろんティーポットに入れても良いんですけど。実験だし、そのまま入れても良いかなって。洗い物増えるの嫌ですし」
「……まあ、お茶を楽しむためでは無いので、良いのではないでしょうか」
嘘でしょ?という顔のシーラ先生と、僅かだが顔を引きつらせるアル。
そうは言うけどね、限られた時間で効率よくやるのも大切なことなんですよ?
決して面倒くさいからではない。
呆れたようなふたりの視線は無視して、蒸らしている間にカップの用意をする。
一人分の量だが、味見なら十分だ。
「はい、かんせーい!色も綺麗に出てますよ」
薄く黄緑色に色付いたそれは、しっかりとミントの香りがついている。
葉っぱを漉してカップに注げば、立派なミントティーの出来上がり。
「あ、私は鑑定してから頂くのでふたりは先にどうぞ」
シーラ先生とアルがミントティーに口を付けると、その爽やかな香りに表情が輝いたのが分かった。
良かった、見た目は普通のミントだったけど、味も大丈夫だったみたい。
それを確認して、湯気の立つミントティーに鑑定をかける。
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*ペパーミントティー*
癒やしの聖女手作りのハーブティー。下記の効果が増加している。
効果:鎮静作用(小)、消化促進作用(小)
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あ、やばい。
そうだった、私が作ったものは癒やしの効果が増加してしまうんだった。
でも、それでも“小”かぁ……。
「何だか頭がスッキリしてきたわ」
「はい、それに心が安らぐというか、落ち着くというか……」
どうやら僅かに鎮静の効果を実感しているようだ。
とりあえず鑑定の結果をふたりにも伝えることにした。
「そうだったわね。ルリが作るとそうなっちゃうんだったわ」
「ルリ様が作っても効果が“小”ということは、恐らく我々では……」
ということでシーラ先生とアルが作ってみたミントティーの効果は、やっぱり“微”だった。
ちなみにローズマリーでも作ってみたが、効果の種類は若干変わるものの、ミントとほぼ同じ結果だった。
そしてローズマリーは、ちょっと個性的な香りがするので、好き嫌いが分かれそうだ。
薬だと思えば飲めるだろうが、ハーブティーとして飲むなら美味しい方が良いに決まっている。
「そう簡単には上手くいかないか」
「そうですね」
「だけど、ハーブティーに様々な効果がある、っていうのはひとつ、大きな発見よ。また色々実験してみましょう?」
今日はもう時間がないのでここまでとなったが、確かにもっと色々試せば何かしらの発見があるかもしれない。
子ども達にだって、すぐに諦めないように教えてきたんだもの。
たった一日で挫けてちゃだめよね。
あと、紅緒ちゃんや黄華さんにも何か考えがないか聞いてみよう。
それと、他のハーブも探したい。
あ、植物に詳しいリーナちゃんに聞いてみるのもアリかも?
ヴァイオレットちゃんやアーサー君とも少しずつ仲良くなりたいな。
あと、公園に常駐してもらう人を探すのも手伝いたいし。
あーーー!色々やりたいことが多すぎて困っちゃう!
まあ、それだけ人生が有意義だってことなんだろうけど、ね。




