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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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出会い

そうして第二騎士団団長室へとやって来れば、いつもの警備の騎士さんが扉を開けてくれる。


差し入れを持って行くことはレオンに伝えてあったので、笑顔で迎えてくれた。


「思っていたよりも遅かったな?そんなに聖女様達との話が弾んだのか?」


レオンの疑問に実は……と答えると、成程なと苦笑いされた。


「それにしても薬草やハーブ?を使ったお茶か……。確かに飲み物ならば戦闘中でも摂りやすいな。後は手軽に作ることができるならば、日中の休憩時間にも普段のようにお茶として飲めるから、通常の訓練時にも普及するかもな」


ふむとレオンがその考えを述べる。


そうよね、日常的に使えると便利だ。


「そうなの。それで、HP回復だけじゃなくて、疲労回復とか鎮静効果とか、色んな作用のあるものが作れると良いなって思って。元々私達のいた世界のハーブティーって、微量ではあるけど、そういう効果があるって言われてるの。魔法のあるこの世界なら、複数の材料を混ぜることで、効果が高くなる何かが起こるんじゃないかなって思って」


私の意見に、レオンもそうかもしれないなと頷いてくれた。


そのためにも、まずは材料を集めて実験よね!


とその時、ノックの音がして扉が開き、ウィルさんが顔をのぞかせる。


「おや、ルリ様。しばらくぶりですね。今日も差し入れですか?」


良かった、元気そうだ。


その穏やかな表情にホッとしていると、ウィルさんは私の持って来たパウンドケーキを見て、眉をひそめた。


「騎士達の分もあるのですか?いつもありがとうございます。ですが、たまにはレオンだけに渡す特別な日がないと、そこの意外と狭量な男がヤキモチを焼きますよ」


「……だれが狭量だ」


うん、かなり元気そう!


あははと適当に笑って返すに留め、良かったらウィルさんもどうですか?とティーポットを手に取る。


「では、一杯だけ」


書類を手にレオンの隣に座ると、ウィルさんは頼んだぞとその束をレオンに押し付けた。


またかとため息をつくレオンを見て、やっぱり疲労回復効果のハーブティーは需要がありそうだなと思う。


それに反して紅茶を口にするウィルさんは意外と元気そうだけど、あまり書類仕事はしないのかな?


イメージではすごくきっちりと仕事をこなしそうだけど、彼の目元には疲労感を感じられない。


「ルリ様、アクアマリン副団長はほとんど書類仕事をされないのですよ」


「え、そうなんですか?」


うしろに控えていたアルが、私の疑問を察知したようで、そう答えてくれる。


アルは職務中ですからと言って、一緒にお茶してくれることはほとんど無いのだ。


相変わらず私の思考を読むのが上手いのはこの際置いておいて、意外な事実に、ぱっとウィルさんを見る。


「歴代の団長は実践重視で選ばれているので、書類仕事が苦手な者が多いんです。ですから副団長は、代わりにそれを行えるような人選をすることが多い。だが、幸いレオンはどちらも優秀でね。私の出る幕はないのですよ」


はははと笑っているが、レオンは苦い顔をしている。


あ、これきっとウィルさんが上手いこと逃げ回ってるやつだ。


これまたイメージだけど、やれば上手くこなすのに、面倒くさいことを嫌いそう。


「正解です、ルリ様」


ジト目の私を見てアルが答える。


やっぱり……。


何で私の考えていることが分かったのとかいう疑問は、アルにはもう持たない。


「誤解のないように言っておきますが、私は本来の自分の仕事はきっちり行っていますよ。団長の補佐という仕事がありますから、副団長に課せられている書類仕事はかなり少ないのです。まあ、第三の副団長は毎日死にそうな顔をしていますが。レオンが上司で本当に良かったです」


キラキラした笑顔は、それだけ見ると魅惑的で、女性達が黄色い悲鳴をあげそうだ。


言っていることは間違いないが、レオンが不憫だ。


それだけレオンが優秀であるということでもあるけれど……。


そんな話をしていたら、コンコンとノック音がして、扉の外から声を掛けられる。


「青の聖女様、薬草園の見学の準備が整いました」


「あ、ありがとうございます。今行きます」


薬草園?とウィルさんが怪訝な顔をしたので、回復薬を作るヒントにしたいんですとだけ伝えた。


一から説明している時間はないので、後はレオンに任せよう。


またねと挨拶をして席を立つと、レオンもソファから腰を上げた。


「今度の休みの前日にはラピスラズリ邸に泊まりに行く。天気が良ければ子どもたちも連れて、外に出掛けよう」


「!うん、行きたい!」


そんな約束をしながら、レオンが開けてくれた扉から部屋を出た。


そして、ありがとうとお礼を言って扉を閉める。


このところ忙しかったから、レオンがラピスラズリ邸に来てくれるのも久しぶりだなって思ったら、もう頬が緩んでしまう。


「ルリ様、顔」


「はっ!ご、ごめんなさい。それでは参りましょう」


ひとり百面相をする私をアルが嗜め、案内役の侍女さんがそれを見てくすくすと笑う。


わ、笑われてしまったわ……。


ぴしぴしと叩いて、緩んだ頬を戻す。


本物のお姫様と王子様に会うんだもの、ちゃんとしなきゃ!






と思っていた時が私にもありました。


「初めてお目にかかります。ヴァイオレットですわ」


「……アーサーです。よろしくお願いします」


か、かわいいい〜!


片やちょっと気の強そうな、高貴な佇まいの美少女。


片やお姉ちゃんのうしろから少しだけ顔を覗かせている、繊細な顔立ちの美少年。


弟妹って言うから、2、3歳くらいずつ離れているのかな?と思っていたのが大間違い。


お姉ちゃんは見た目12、13歳くらいだし、弟くんもレイ君と同じ7、8歳くらいかな?


ちびっこという程ではないけれど、意外と年の離れた弟妹に驚きはしたが、素敵なお姫様と王子様に違いはない。


しかも、人見知りの弟を庇うお姉ちゃんなシチュエーション、萌える。


ちょっぴり警戒気味なふたりだが、是非とも仲良くなりたい!


「ルリ様、顔……」


はっ!


アルから数分前と同じ注意を受け、こほんと咳払いをする。


「えっと、和泉瑠璃と言います。ルリと呼んで下さい。今日は突然ごめんなさい。大切にしている薬草園、案内してもらえるなんて嬉しいです。こちらこそ、よろしくお願いします」


そして恐がらせないようにと、アーサーくんの背丈に合わせて少し屈み、そう声を掛けた。


するとふたりは少し驚いたような表情をしたが、すぐにこちらですと歩いて行ってしまった。


そして案内役の侍女さんが、焦ったようにそれについて行く。


おや?


そういえば紅緒ちゃんが『瑠璃さんだったらあのふたりも心を開くかもしれないわ』と言っていたのを思い出す。


なるほど、ちょっと気難しい子達なのかな?


前を行くふたりは、しっかりと手を繋いでいる。


すると、ちらりとアーサー君がこちらを振り向いたのが見えた。


――――うん、悪い子達じゃないはず。


急いては事を仕損じるって言うからね、少しずつ距離を縮められると良いな。

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