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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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目通り

「――――成程な。その、ハーブティー?とやらを回復薬として使えないか実験したい、と。そして弟の管理している薬草園の薬草が見たいという訳だな?」


「はい、お願いできませんか?」


善は急げということで、交流会中に侍女さんにお願いして、陛下へのお目通りをお願いしてもらった。


すぐに許可が下りて、こうして陛下の執務室へとやって来たというわけだ。


相変わらず忙しそうに執務机に向かって判を押している姿を見ると、急に押しかけて申し訳なかったなと思ってしまうが、別段気にした様子はない。


多分、私が勝手にやらかす方が問題だからと訪問を許可してくれたんだろうけど。


「それにしても、青の聖女様は様々なことを思いつかれる。騎士達のためにと、その御心も美しいですね」


にこりと陛下の側に控えていたエメラルド宰相さんが穏やかに微笑む。


「いえ、言い出したのは確かに私ですが、紅緒ちゃんがたくさんアイディアをくれたんです。黄華さんも色々アドバイスしてくれましたし」


知識や経験はそれぞれ違うから、こうして出し合うと良いものが生まれたりするのよね。


三人寄れば文殊の知恵ってやつね。


それにまだ上手くいくとは限らないから、過度に期待されても困る。


「ご謙遜を。陛下、それではアーサー殿下にお伝えしましょう」


「ああ。今日はとりあえず見学だけになるだろうが、この後すぐに案内させよう。……頼むから、何もやらかすなよ?」


うっ、私陛下の信用ゼロですか!?


ま、まあ確かに色々やらかしてますけど、不可抗力の時もあるんですよ?


「ああ、あと公園事業の方も順調らしいな。シトリン伯爵がほくほく顔だったぞ。次は常駐して子どもの遊びを見守る人材の確保に乗り出すのだったか」


「あ、そうなんです。お陰様で公園は毎日賑わっているみたいで。訪れるお母さん達に聞いてみたところ、そういう人が子どもたちを見ててくれると助かるって。多少お金がかかっても、少しの時間でも、お願いしたい時はあるようです」


そう、少しずつ公園の存在が浸透してきたので、そろそろ人材探しをという話が上がっているのだ。


人を探して選定するのには時間がかかるので、早めから動いておこうという話になっている。


「あちこちで活躍してくれているのは有難いが、無理はするなよ」


思わぬ陛下の言葉に、目を瞬かせる。


書類を見ながらぶっきらぼうに言っているが、私を気遣ってくれているようだ。


そんな陛下の素直じゃない優しさに、ふふっと笑いが零れる。


「はい、体調には気をつけます。でも、陛下も一緒ですよ?目元に疲れが出ています。よかったらこれ、食べて下さいね。たくさん作ったので、もしよければ宰相様も」


そう言って手持ちのバスケットからクリームチーズたっぷりのパウンドケーキを取り出す。


レオンやイーサンさんの所にも差し入れようと、多めに持って来ていて良かった。


わずかでも回復効果がついているはずだし、少しでも疲れが取れると良いんだけど。 


興味なさげに、ああと返事をされたが、その口元が緩く弧を描いているところを見ると、少しは喜んでもらえていると思う。


「騎士団へ向かうのだろう?こちらの準備ができたら、呼びに行かせよう」


「ありがとうございます。では先にイーサンさんの所へ行ってこれを渡したら、第二の団長室で待っています。お忙しいのに、お時間取って下さりありがとうございました」


長居しては迷惑なので、そのまま退出させてもらう。


それにしても陛下、だいぶ疲れてそうだったな……。


ハーブティー、成功したらHPの回復だけじゃなくて、疲労回復とか鎮静効果とか睡眠促進みたいに、元の世界でも言われてきた効果がつかないか、色んなハーブを試してみよう。


そうすれば騎士さん達だけじゃなくて、医療機関でも使えそうだしね。


書類仕事に追われてるレオンにも良いかもしれない。


「また何か考えていらっしゃいますね?」


陛下の前では静かに控えていたアルが、やる気満々な私の様子を見て、そう様子を窺ってきた。


そしてアルからも、今日はやらかさないでくださいよと釘を刺される。


今までは困り顔だったのに、今回は真顔で。


まあ言っても無駄でしょうけどね……と遠い目をされた。


そんな達観したみたいに言わなくても。


今日はちょっと薬草を見せてもらうだけなんだし、何も起こらないわよ。


起こらない……はずよね?






「おう、悪いなわざわざ。いつもみたいに切らせて休憩所に置いておく。ま、俺の分は別でもらっとくけどな!」


差し入れのパウンドケーキを渡すと、イーサンさんはがははと豪快に笑って、いつものように私の頭を撫でた。


うーん、相変わらずだ。


「ルビー団長、その辺りで。ルリ様の髪が乱れてしまいます」


アルの指摘にイーサンさんは、お?と一度手を止めたものの、悪りぃ悪りぃと言いながらまたぐしゃぐしゃに撫でた。


アルはため息をつくが、実のところ私はそんなに嫌ではない。


こうしてフレンドリーに接してくれる人ってなかなかいないから、お兄ちゃんみたいだなって思うし。


以前そのことを伝えたら、イーサンさんは喜び、アルはドン引きした。


『ルビー団長をお兄ちゃんみたいなんて言う人、貴女くらいですよ……』と。


確かに訓練の様子とか見てると騎士さん達に厳しいし、掴み所のない人だなぁと思うことはあるけれど、すごく頼りになる人だなとも思う。


そういうのも、上に立つ人には必要なことだと思うし。


私なんか、新人ちゃんや後輩の指導って言われても、大変さとかも分かる分、なかなか厳しく出来なかった。


子どもを育てるのとはまた違って、大人を育てるのは難しい。


そう考えると、私とほとんど年の変わらないレオンが第二騎士団をしっかり纏めているのはすごいことだと思う。


「せっかくだから、茶でも飲んでくか?」


「あ、お気持ちは有り難いのですが、この後約束があって……」


それは残念とイーサンさんは笑う。


近いうちに訓練に参加させてもらうことになっているので、また今度と挨拶を交わし、次はレオンのところに向かう。


そういえばあれからウィルさんは元気にしているだろうか。


ハチミツケーキを差し入れた時は、心の整理がついたように見えたが、できれば今日も様子が見れると良いなと思う。


そしてちらりとアルを見ると、こちらはもうすっかり普段通りだ。


どうかしましたか?と首を傾げて微笑む様子は、心穏やかそうに見える。


「ううん。やっぱり平穏が一番だなぁって思ってたの」


「それを言うなら、この後の薬草園の見学が無事終わることが、私の心の平穏を保つことに繋がるのですが」


は、は〜い。気をつけま〜す。

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