紅緒
今日から新タイトルに変更となりました。
そして第五章も始まりましたが、瑠璃達をこれからもよろしくお願いします♡
あたしは、日暮紅緒。
平凡な一般家庭に生まれて、パパとママ、それにお兄ちゃんの四人暮らしでごく普通に暮らしてきた。
まあ、普通の女の子っぽくないのは、ゲーム好きってことかな?
お兄ちゃんの影響で、小さい時から格ゲーにRPG、パズルゲームとかも好きだった。
巷では乙女ゲームなんてのも流行ってるらしいけど、そういうのは興味がない。
そんな趣味と性格のせいか、男友達も多かったけど、好きとかそういう気持ちになったことはない。
周りの女友達が彼氏を作って幸せそうにしてる姿見ると、いいなぁっては思ったよ?
だけど、好きって何だろう?
あたしにはよく分からない。
ある日、いつものように夕方学校から帰って来た時に、それは起こった。
まだ誰も帰っていない家。
鍵を開けて、ただいまって言って。
靴を脱ごうとしたその時。
『な、何!?』
足元から眩しい光に照らされたかと思うと、あっという間にその光に包まれた。
持っていたカバンも、スマホもみんな落として。
あたしは、異世界へと喚ばれた。
異世界転生とか転移とか、そんな小説が流行ってるのは知ってた。
そういうのが好きな友達がいて、紅緒も読んでみなよ!って貸してくれたこともあったから。
一冊だけ読んでみたけど、……なんて言うか、都合良すぎじゃない?っていうのが素直な感想。
周りはイケメンだらけで、みんなから好意を持たれて?
チートな能力があって、世界を変えて?
……そういうもの?
よく分からなかったけど、まあまあ面白かったよって本を返すあたりは、あたしも事なかれ主義の多い日本人なんだなって思う。
まあとりあえず、それが自分の身に降り掛かってきたワケだ。
はじめは呆然、よね。
信じられなかった。
周りを見れば、ゲームに出てくる魔法使いみたいな格好をした人ばっかりで。
足元を見れば魔法陣みたいなものも書かれてるし。
『はああああ!?』
一瞬の沈黙の後、思わず叫んでしまったのも仕方のないことだ。
隣には、喪服姿の女の人。
同じく呆然としている。
混乱していると、燃えるような真っ赤な髪の、黒づくめの軍人みたいな人が現れた。
『ようこそ、“聖女殿”。ふたりとは想定外だったが……。アレキサンドライト国は、貴女方を歓迎する』
聖女?アレキサンドライト国?
何よ、それ。
『はああああ!?』
あたしは、二度目の叫び声を上げた。
とまあ、こんな感じで召喚されたあたしだけど、もう元の世界には戻れないって聞いて、そりゃあもう泣いた。
だって、普通に楽しく暮らしてたんだもの。
家族や友達にもう会えないなんて信じられなかったし、こんなワケ分かんない世界に、知らない人に囲まれて生きていくなんて、不安しかない。
一冊だけ読んだ異世界転移モノの本の主人公は、そんな憂いなんかなく次々と功績を上げてたけど……。
ほらね、実際はそう上手くなんでもいかないのよ。
確かに顔面偏差値の高い人は多いわよ?
それにあたし達聖女は、能力値も高いみたいね?
でも、だからって転移して良かったーなんて浮かれるほど、あたしはおめでたくない。
普通に、帰りたい気持ちで一杯だった。
泣き暮れるあたしに声を掛けてくれたのは、黄華さん。
一緒に転移させられた人。
最初はすごく優しかったんだけど、どんどんからかうようになってきて、あたしが一方的に怒ることもしばしば。
……まあ、そういうのもあたしを元気付けようとしてるんだろうなっていうのは分かるけどね。
そうやって、少しずつこの世界を受け入れられるようになってきた。
ずっと泣いて引き籠もるってのも、あたしの性分じゃないしね。
落ち着いて周りを見れば、ちょっと気に食わないヤツはいるけど、みんな良くしてくれるし、食事も美味しい。
最初はきらびやかな王宮で暮らすなんてと思ったが、案外居心地は悪くない。
ただ、やることが無さすぎてヒマだった。
魔法が使えるっていうんだし、ここは大好きだったゲームの世界に入り込んだつもりで、戦いの練習でもしようかな?
最初は、そんな軽い気持ちだった。
随分こちらの世界での生活に慣れてきた頃、もうひとり聖女がいるって紹介されたのが、瑠璃さんだ。
親しみやすい美人さんで、料理も上手。
頼りになるお姉さんって感じで、すぐに仲良くなれた。
黄華さんと三人で過ごす時間は、あたしにとって大切な時間になった。
そんな瑠璃さんが、元保育士という経歴を活かして、この国の幼児教育を改革しようとしていることを知って、すごいなって思った。
あたしは子どもで、ただゲームの延長みたいに魔法を学んでレベルを上げてただけなのに。
ちゃんと先を見て、“聖女の自分”に頼らずに生きていこうとするその姿は、とても眩しかった。
それから、あたしも自分が何をしたいのか、何ができるのかを考えるようになった。
多分だけど、黄華さんも瑠璃さんに影響を受けたんじゃないかな。
無理をして倒れたけど、過去を教えてくれて、三人で泣いて、強くなった。
このところ支援魔法も冴えてるし、表情も柔らかくなった。
……あと、ここ最近なーんか恋愛の匂いがする。
早々に第二の団長とくっついた瑠璃さんはまだ良いとして、黄華さんが面白いことになってるのよね。
まあまだどうなるか分かんないけど。
え、あたし?
……別に、あいつとはそんなんじゃないわよ。
そう言いたいところだけど……。
正直言って、ちょっと気にはなってる。
あんなに横暴で口も悪いのに、時々優しいんだもの。
ちゃんとあたし達に召喚してしまったことを謝ってくれたし、嫌がることはしないし、できる範囲で好きにさせてくれる。
それだけじゃなくて、たまに気遣うような言動もあるし、その……。
あ、あたしのこと、す、好きなのかなって思うようなこともする訳よ!
この間の遠征の後も、黄華さん達を下がらせた後に…………いや、これはいいわ!
と、とにかく気にはなるけど、そんな関係じゃないの!
それに、相手は一国の国王。
そう簡単に好き合って良い相手じゃない。
これ以上はダメだって分かってる。
自分が傷つくだけだって。
それに、もしそうなれたとしても、あの子達と仲良くなれる気がしない。
だから、あたしはこのままで良い。
まだ若いんだし、もっと普通の人と恋をして、できれば結婚して、子どもができれば。
きっとあいつのことは忘れられる。
この気持ちは、やっぱり気のせいだったんだって思えるはずだよね。




