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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第一章

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癒しの力

本日2話目の投稿です

「私の、すぐ下の弟だ」


「これは…」


一刻を争う、と言われて連れて来られたのは、弟さんが住んでいるという、立派な寮のような建物の一室だった。


綺麗に整頓され、程よく物が置かれたシンプルな部屋だった。


しかし、足を踏み入れた途端に嫌な空気に包まれ、思わず顔を顰めた。


ベットに横たわる男性は、顔色が悪く、窶れていた。


意識が無いようだったが、息が荒く魘され、眠っているとは言い難い。


「彼は…どう、されたんですか?」


「分からない。どうやら、魔物との戦いで負傷して以来、夢見が悪くろくに眠れていなかったらしい。傷自体はすでにほぼ完治しているようだが…」


そう言って服をずらして左肩を見せてくれたが、確かに傷はもううっすらとした物しかなかった。


「ルリ、無茶を承知で頼む。貴女の子守唄には何か不思議な力があるのではと、屋敷の者達が言っていた。気休めでも何でもいい、弟のために、歌ってくれないか?効果がなければそれでいい。私達には、もう何をしてやれば良いのか分からないんだ…」


エドワードさんはそう言うと、弟さんの手を握って俯いた。


自分に何が出来るのか、分からない。


でも、私のステータスには"癒しの聖女"という称号が書かれていた。


ひょっとしたら…と思う。


しかし、これは秘密にしておきたい話だ。


それを考えると、断るのも一つだ。


でも…


『目の前に、困っている人や、苦しんでいる人がいたら、どうする?』


『うーん、だいじょうぶ?ってきく!』


『どうしたの?っていう!』


『たすけてあげる!』


『そうね。もし、自分に出来ることがあるのなら、やってあげたいね。みんなも、できる?』


『はーい!るりせんせー!!』


私は、子ども達に誇れる私でいたい。







「…色々やってみたいので、しばらく部屋を出ていて頂けますか?」


「ルリ、力を貸してくれるのか?」


「私に、何が出来るかは分かりません。でも、だからって見て見ぬふりはできません。やれるだけ、やってみます」


「ああ…!それで十分だ!!」


私の両手を力強く握ってありがとう、と繰り返すと、エドワードさんは部屋を出ていってくれた。


たった数週間前に会った、何が出来るか分からない人間と、大事な弟さんを二人っきりにして。


それだけ、私を信用しているという事だろう。


今は、それが嬉しい。


「鑑定」


************

レオンハルト=ラピスラズリ

第二騎士団団長

青銀の騎士 Lv.42

HP:120//5560

MP:352//826


状態:キメラの呪い

************


キメラの呪い…きっと、これだ。


"キメラの呪い"をそっとタップしてみると、さらに詳しい情報が開示された。


************

*キメラの呪い*

魔物"キメラ"が殺される際、

対象者を恨んで施すもの。

悪夢を見せ、少しずつ

心身を弱らせる。

聖属性上級魔法により解呪可能。

************


聖属性上級魔法…


何だろう、それ。


でも、私の聖属性魔法レベルはMAXとなっていたのだから、出来るはずだ。


やれるだけ、やってみよう。


「えーっと、とりあえず手を握って、魔力を流し込むイメージで…」


そっと手を取る。


ゴツゴツして、大きな手だ。


今は少し、冷たい。


「はやく、治りますように…。お兄さんが、心配していますよ」


祈るように目を閉じ、きゅっと両手で手を握る。


すると、頭に言葉が浮かぶ。


「ディスペル」


唱えた瞬間、体から少し多めの力が抜けたような感覚がして目を空けると、キラキラと銀色の粒が降っていた。


「きれい…」


その粒は例の左肩に集まり、やがて静かに消えた。


すると、魘されていた声は少しずつ収まり、息も落ち着いてきた。


「きっと、これで大丈夫、だよね?」


念のため鑑定で確かめたが、呪いの文字は消えていた。


「でも、体力は戻ってないから、ちゃんと休まないとね。あ、そうだ」


歌ってやってくれ、とエドワードさんに言われた事を思い出す。


やっと眉間の皺が取れた顔を見て、ああ、本当はとても整った顔をしているのだと思った。


青みのかった銀色の髪、きっとマーサさんの言っていた、私に似た髪色の弟さんだと思い至る。


温かい夢を見てほしいと願う。


語りかけるように、リーナちゃんに歌っていたものとは違う歌を口にすると、自然と歌に魔力が乗るのが分かった。


どうか。


彼に、優しい眠りを。


その時。


両手で握っていた手が、少しだけ握り返されたような、気がした。








「…もう、大丈夫だと思いますよ」


起こさないように、そっと扉を閉めてからエドワードさんに向き直る。


「本当か!?歌声が微かに聞こえたが…」


「あ、はい。ええと、とりあえず歌ってみたら、少しずつ眠りが穏やかになってきたんです。今はよく眠っているので、そっとしておいてあげると良いのかと」


「ああ!ルリ、ありがとう!!感謝してもしきれないよ。弟にも、目を覚ましたら必ずお礼に行かせる!」


あ、それはちょっと。


大事にはしたくない。


「いや、私はただ歌っただけなので。ただの偶然かもしれませんし。あと、その…出来れば、私の事は誰にも言わないで頂けると…彼にも」


ちらりと弟さんが眠っている部屋を見る。


「…ああ、成る程。君は国外から来たのだったね」


私の表情を見て、察してくれたようだ。


「分かった、他言はしない。レオン…弟は知りたがると思うがね。レオンや他の者には何だかんだと誤魔化しておくよ。しかし、エレオノーラだけには、構わないか?やはり、妻に隠し事は、ね」


ポリポリと頬を掻く仕草に、この世界も女性は強いのだなと苦笑を返す。


「ありがとうございます。そうですよね…それなら、エレオノーラさんだけ、ということでお願いします。では、私はこれで…」


「ああ、私はもうしばらく弟についているよ。馬車に残っているセバスには伝えてあるから、先に帰っていてくれ」


ありがとうございます、と会釈をして玄関へと向かった。







瑠璃を見送った後、エドワードは静かにレオンハルトの部屋へと足を踏み入れた。


ベッドからは、もう呻き声はしない。


聞こえるのは、安らかな寝息だけだ。


安心しきった様子で眠る弟が、少しだけ幼く見えた。


「ああ、もう大丈夫だな。しかしこれは…もしや聖属性魔法、なのか?」


瑠璃の姿を思い浮かべて、エドワードは呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「たった数週間前に会った、何が出来るか分からない人間と、大事な弟さんを二人っきりにして」 えっ、いつのまにか数週間も過ぎ去ってしまったの。リーナに、お友達ができた翌日のことかと思ったよ。
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