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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第四章

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日常と変化、そして前を向く

王都に帰って来てから二日後。


今日は紅緒ちゃん、黄華さんといつものようにお茶会、と言うかお疲れ様会をするために、王宮に来ていた。


でも、ひとつだけいつもと違うことがある。


それは。


「ベニオちゃん、オウカさん、こんにちは!」


そう、リーナちゃんも一緒なのだ。


料理の回復効果の実験の際、ふたりとも仲良くなったリーナちゃんが、ぜひ会いたいと言うので、レオンが陛下に許可を取ってくれた。


相変わらず陛下は意外と優しい。


そしてリーナちゃんの手には、甘い香りの漂うバスケットが握られている。


これには、パパとママからも許可が下りたリーナちゃんが、ふたりにお菓子をプレゼントしたいと言って、私やマリアと一緒に作ったものが入っている。


中身はハチミツのパウンドケーキ。


ほんのり甘くて、子どもにも優しい味になっている。


「わざわざありがとうございます。リーナちゃんも、また会えて嬉しいです」


「こんにちは。あれ、お土産?嬉しいわ!」


にこにこと挨拶するリーナちゃんに、三人でほんわかした気持ちになったところで、お茶会は始まった。


侍女さんにお茶を淹れてもらい、持って来たケーキも早速カットしてもらう。


「それにしても、何とか無事に帰って来れて、本当に良かったですね」


お茶を一口飲んでほっと息をつくと、日常が戻って来たなぁって思う。


「ほんとだよ!さんにんとも、けがしないでかえってこれて、よかった。おかえりなさい!」


すると、私の言葉に同意するように、リーナちゃんがそう声を上げた。


優しい微笑みが、私のハートに突き刺さる。


「ちょ、こんな天使すぎるお嬢様、反則だわ」


「まだ婚約者はお決まりじゃないんですよね?これは厳密な査定が必要ですわね」


訂正。


紅緒ちゃんと黄華さんのハートも、もれなく撃ち抜かれていたようだ。


ありがとうねと、ふたりがリーナちゃんの頭をなでなでしている。


うーん、リーナちゃんたら着々とファンを増やしているなぁ。


まあかわいいんだから仕方ない。


そう思いながらハチミツのケーキを一口頬張る。


うん、優しい甘さで、まるでリーナちゃんみたいだ。


そんなことを思いながら二口目をもぐもぐしていると、紅緒ちゃんが爆弾を投下した。


「ところで黄華さん、あの毒舌副団長とはどうなってるの?」


ぶっ。


「っ、な、なな何ですかいきなり!」


げほげほと黄華さんがむせた。


慌ててソーサーに置いたカップが、ガシャンと音を立てる。


「え、だって何かあったんでしょ?ふたりの間の空気?何となく変わったもんね」


一方紅緒ちゃんは、しれっとそう答えてケーキを頬張っている。


おお、鋭い。


これはお墓参りでのことを言ったら、かなり盛り上がりそうだ。


いやいや、駄目だ。


レオンと話をして、お節介はしないと決めたしここは黙ってそっとしておいた方が――――。


「それに人命救助のためとは言え、キスまでした仲だし?」


「ちょっと何それ!?紅緒ちゃん、詳しく!!」


前言撤回、こりゃ聞かずにはいられない。


「そ、そそそれは関係ないですよね!?」


「えー、でも黄華さん躊躇いなかったし?それに、副団長だってそうまでして助けようとしてくれた女性のこと、普通は気になるものじゃない」


「それを言うなら紅緒ちゃんだって!知ってるんですからね!?帰ってきた後すぐカイン陛下の部屋に呼ばれたこと!」


「ちょっと待って、紅緒ちゃんも詳しく!!」


そんな感じでわーわー言い合っている私達のことを、リーナちゃんがポカンとした顔で眺めていた。


はっ、いけない。


小さい子の前だったと、我に返る。


ごめんねと謝れば、リーナちゃんはううんと首を振ってくれた。


「オウカさん、げんきになっててびっくりしただけ。やっぱり、るりせんせいはすごいね」


にこっとリーナちゃんが笑う。


天使か。


「それに、れおんおじさまのところによったときも。えーっと、うぃるさん?もう、かなしいってかおじゃなくなってた!」


そうか、ウィルさんも本当に心の整理ができたのかもしれない。


ここに来る前、一緒に来たレオンを送りに第二騎士団を訪れた際、ウィルさんにも挨拶をした。


差し入れにと渡したハチミツケーキも、穏やかな笑顔で受け取ってくれた。


リーナちゃん、ふたりの心の傷のことを察して、すごく心配していたから、やっぱり今日一緒に来ることができて良かった。


「うん、元気になって良かった。でも、私のおかげじゃなくて、ふたりとも、自分達が頑張ったんだよ?」


きっとこれから、ふたりは前を向いて歩いて行く。


その先の道が交わるかは分からないけれど、幸せになれると良いなと思う。


もちろん、紅緒ちゃんもね。


未だに赤い顔で言い合う紅緒ちゃんと黄華さんを見つめて、リーナちゃんとふたり、微笑み合いながらケーキを口にする。


うん、美味しい。


これぞ日常、やっぱり平穏って良いわね。


「ふたりとも、ケーキなくなっちゃうよ?」


初夏の爽やかな日差しと風が、部屋に差し込んだ。





******


「今日も賑やかですね、楽しそうだ」


「会話の内容は気に入らないけどね」


リオの顰めっ面に、アルフレッドは苦笑する。


アルバートは特別それに何も反応しない。


「あ、ねえねえここにオウカいる?」


そこへ、いつもの軽い調子でカルロスがやって来た。


何の用だと、眉間に皺を寄せたリオの代わりに、おりますよとアルフレッドが返事をした。


「良かった。中、入れてくれる?ルリとベニオもいるんでしょ?オレ、色々聞きたいんだよね。魔法のこととか、あと、純粋にオウカには興味あるし」


「はあ!?」


たまらずリオが叫ぶと、そこへイーサンも姿を現す。


「おーお疲れさん。中に聖女サマ、いるんだろ?俺も入れてくれ。特にあんだけキレッキレの支援魔法かましてくれた、キイロの聖女サマには興味あるからな!ちょっと話をするくらい、良いだろ?」


ニヤリと笑うイーサンに、アンタもかよ!とまたリオが叫んだ。


ギャーギャー言って追い払おうとしているが、狡猾な狐と狸につっかかる仔犬のようにしか見えない。


「……やかましい」


はあ、とため息をつくアルバートに、アルフレッドも苦笑を零す。


「はは、リオだけかと思えばこれは……。どうやらアクアマリン副団長、敵が多そうですね」


そして、さて義理姉との約束を守るかどうか、悩みどころですねと少し楽しげに笑うのだった。







同時刻。


「支援魔法の連続詠唱に強力な光の攻撃魔法、それに瀕死の者を回復させ、広範囲の者を一度に回復させる治療(ヒール)、か」


誰もいない部屋で、報告書に目を通した男がそう呟く。


「なかなか面白いことが書いてあるじゃないか」


そう言って報告書をぱさりと机に放り、笑みを深めた――――。

ということで、第四章終わりです。

予想してはいましたが、主人公の影が薄くなりましたね、特に後半^^;


この後黄華さん目線で何話か書こうかなと思ってます。

この先の黄華さんの恋愛模様は、また五章でちらほら出てくる……かも?です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リーナちゃんは皆の癒やし。 [気になる点] リーナちゃんお嫁に行けるだろうか…過保護な保護者達が行かせてくれない気がする。 [一言] 最後の謎の男に瑠璃が目をつけられてしまいましたね。 こ…
[気になる点] 紅ちゃんは意外と一途。 [一言] 他国の貴族がちょっかい出すかな?第4王子の国とか。
2021/05/29 08:33 退会済み
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