祝勝会
「騎士様達が帰って来たぞ!」
「聖女様方も一緒だ!」
森を抜けて町に戻って来ると、わっと歓声が上がり、町の人達がたくさん出迎えてくれる。
行きは魔物を倒しながら慎重に進んでいたので数日かかったが、帰りは二日程で戻れた。
ウィルさんもあの後すぐに意識を取り戻し、一晩眠れば体調が戻ったらしく、大丈夫そうだからとみんなと同じように歩いて戻って来た。
森の入口や町に配置していた騎士さんに、通信魔法で討伐の完了を伝えていたので、私達が帰ってくることをみんな知っていたみたい。
今日はご馳走を用意したよと、先日お借りしていた広場でおばさま達が食事の用意をしてくれていた。
「みなさんありがとうございます。今日はお言葉に甘えます。皆の者、有り難くご厚意に預ろう」
レオンが代表して挨拶をすると、若い女性達から悲鳴に似た声が上がる。
そうよね、美形の騎士様に憧れる気持ちは分かる。
ちょぉっと胸が痛むのには、気にしない振りをしておこう。
すると、町長さんにお礼を述べるウィルさんや、きびきびと騎士さんに指示を出すイーサンさん、笑顔でひらひらと手を振るカルロスさんにも、同じように女性の黄色い声が掛かった。
かと思えば、寡黙なアルバートさんや可愛らしい容姿のリオ君、クールに控えているアルにも熱い眼差しが注がれていた。
……忘れていたけれど、美形揃いの集団だったね。
しかも町の窮地を救ってくれたのだ、そりゃ尚更キラキラと輝いて見えるに違いない。
聖女の方がオマケみたいなものかもね。
「いやー聖女のお姉さん達もありがとうな!あ、いや、ありがとうございましたでした」
「あ、いえ、普通で結構ですよ!あまり畏まられても困ります」
さつまいもをオマケしてくれたおじさんに敬語を使われて、慌ててそう返す。
紅緒ちゃんと黄華さんも同じように頷いてくれて、おじさんがほっとした顔をした。
「本当に気さくな聖女様方だね。ま、その方があたしらは嬉しいけど。さあ、話もいいけど、まずは料理を取りに来ておくれ!お酒はないけど、みんな腕によりをかけて作ったから、たくさん食べておくれよ」
おば様の言葉に、わっとみんなが笑顔になり、料理の前に列を作る。
ずっと気を張っていたのだ、今日一日くらいは良いかとレオンやイーサンさんも顔を緩めた。
「お前等、ちゃんと順番守れよ。あと、無礼な行為は許さねぇからな!」
分かってまーす!と第三のみんなからの返事が上がる。
みんな、お疲れ様。
そう心の中で呟き、私達も料理を頂きに列へと並ぶのだった。
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「アクアマリン副団長」
「アルフレッド?……どうしたんだ、珍しいな」
祝勝会の盛り上がりも最高潮の頃、傷の癒えたばかりのウィルは、大事をとって早々に休もうと宿に向かおうとしたところを、アルフレッドに呼び止められた。
少しだけ話したいという言葉に、戸惑いながらも頷き、人の少ない場所を選んで腰を下ろす。
しかし、一向にアルフレッドは口を開かない。
気まずく感じたウィルが、ルリ様の護衛はいいのかと聞けば、ラピスラズリ団長がついていますからと返される。
そしてまた沈黙。
つい最近も同じ体験をした気がする、とウィルは汗を流した。
そしてこの微妙な雰囲気に、落ち着かない気持ちになっているのが自分だけだという点も同じだ。
そちらから誘ったのならば、早く用件を言ってほしいと切に願った。
そんなことをひとりで悶々と考えていた時、アルフレッドがやっと口を開いた。
「……何をひとりで百面相しているんですか」
怪訝そうな顔で。
素直に白状する訳にもいかず、ウィルは何でもないと答えたが、無性に悲しくなった。
しかしこれでようやく話が始まるはずだと少しだけほっとする。
「一度死にかけて吹っ切れたんですか?今の貴方になら、話が通じそうなので声をかけたんですが。聞きたくないのなら、それでも良いです」
失礼なことを言われた気がしたが、あれ以来ようやくアルフレッドがまともに話してくれているのだ。
ここは変に突っ込まずに黙って聞こうと背筋を伸ばした。
そんなウィルに、アルフレッドは体の向きを変え、しっかりとウィルを見据えた。
「話とは異母姉の、エリーのことです」
アルフレッドの口からその名前が出てきたことに、ウィルは驚き目を瞠った。
そして、その後紡がれる話に、静かに耳を傾けたのだった。
「――――では、確かに伝えました。この話を聞いて、今後どうするかは、貴方の自由です。あと、最後にひとつだけ、私から」
エリーとのやりとりを話して、これで終わりだとアルフレッドは立ち上がると、軽く頭を下げた。
「あの時、行き場の無い怒りを貴方に向けてしまったこと、後悔しています。申し訳ありませんでした。……そして、こうしてきちんと謝ることが出来たことに、感謝します。――――生きていてくれて、良かった」
半ば一方的にそう言うと、アルフレッドは立ち去る。
そのうしろ姿をしばらく呆然と見送り、ウィルはハハッと笑った。
まさかアルフレッドに、“生きていてくれて、良かった”と言ってもらえる日が来るなんて。
聖女様方のおかげだなと、ウィルはひとりごちた。
そして、もうひとつ。
『“心が奪われる”って、そういうことなのよ』
『理屈ではない感情を持つから、相手を誰にも譲れないと思うのではないでしょうか』
「まさか、あの方とエリーが同じことを言っていたなんてな」
ウィルは、まるで子どもを見るような目で、自分を馬鹿だと言い放った彼女の姿を思い出した。
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