初めての友達2
「まずは材料を混ぜましょう!」
小麦粉やバター、砂糖など、予めマリアに計ってもらっておいた材料を二人にボウルに入れてもらう。
「溢さないように、そうっとね。そう、上手!」
生地がまとまったら、三つに分ける。
「あれ?ルリ、二つじゃなくて三つ?」
「うん、食べ慣れた味もあった方がいいかと思って」
やっぱり野菜入りは受け付けませんでした、ってなったら食べられないの可哀想だしね。
そのうちの二つにはニンジンとカボチャを混ぜる。
「さて、じゃあ二人にも混ぜてもらおうかな。やり方は見てたから大丈夫かな?どっちがやりたい?」
「わたし、ニンジンの!」
「かぼちゃのほうが、たべられるから…こっち」
上手いこと分かれたなぁ。
二人とも始めは怖々だったけれど、触ってみると感触が面白かったらしく、楽しく捏ねてくれた。
そして次はみんな大好き、型抜きターイム!
実はなんとこの世界、型抜きなんてなかった。
それに気付いてすぐテオさんに相談し、知り合いの職人さんに作ってもらった物が、昨日出来上がったのだ。
間に合って良かった。
案の定、二人とも楽しそうにポンポン抜いている。
「かわい~!はやくたべたいね」
「うん、たのしみ」
リーナちゃんの反応も上々だ。
形とか色も子どもには大事なポイントだよね。
「さて、クッキーを焼いている間に、次はサンドイッチを作ります!」
「「「はーい!!!」」」
マリアも楽しくなってきたようで、子どもに混ざっている。
「これがパン、具材も色んな種類を用意したので好きなものを挟んで作りましょう。ちなみに、後からエレオノーラさんとレイ君も一緒に食べるから、頑張ってね」
「おかあさまと、おにいさまも?」
「そう、みんなで外でピクニックよ」
二人には事前に許可を頂いている。
俄然やる気になったリーナちゃんと、ママと一緒に作るのが楽しいアリスちゃんは、女の子らしく、色取り取りの具材を挟んで上手に作っていた。
「二人ともとっても上手でびっくりしたわ!」
「たのしかった!!はやくたべよー!!」
「わたしも、おなかすきました」
うんうん、良いことだ。
「クッキーも焼き上がったし、そろそろ着替えて外に行きましょう」
「ルリ、俺の分は残していけよ」
「テ、テオさん…分かってますよ!」
ずっと見張ってたんですか!?
こわっ!
「まあ、これ全部貴女達が作ったの?すごいわね、美味しそう」
「はい、いろいろのせて、ぎゅってしました」
「どれどれ…うん!とっても美味しいよ、リーナ」
外に出ると、丁度約束した時間ぴったり。
作り立てのサンドイッチを二人に振る舞い、リーナちゃんはお母さんとお兄ちゃんに褒められてとっても嬉しそう。
エレオノーラさんとレイ君も、リーナちゃんがアリスちゃんと仲良くしているのを見て、ほっとしたようだ。
一緒の席で食べるなんて…と恐縮していたマリアも、アリスちゃんと嬉しそうに食べている。
うん、みんなで食べると美味しいよね!
たくさんあったサンドイッチがなくなると、マーサさんがお皿に綺麗に並べたクッキーを持って来てくれた。
「あれ?今日のは変わったクッキーだね。色んな色と形だ」
「本当。これも貴女達が?」
「「そうでーす!」」
マリア親子が自慢気に返事をした。
「あのね、かたにゅき、っていうんだよ」
「型抜き、です。ルリが考えた道具で作ったんですよ。どうぞ召し上がって下さい。何が入っているのか考えて下さいね」
突然のクイズに、みんなワクワクしだした。
リーナちゃんとアリスちゃんも期待でいっぱいの表情だ。
まずはエレオノーラさんがニンジンクッキーを口に運ぶ。
「優しい甘さでとっても美味しいわ。でも、何が入っているのかと言われると…?」
「こっちの黄色っぽいやつも甘さ控えめで美味しいです。いつものクッキーよりもずっしりとしていて、男性にも好まれそうですね。でも、何が入っているのかまでは…」
かぼちゃクッキーを口にしたレイ君も悩んでいる。
もうひとつはいつものアーモンドクッキーだとすぐに分かったようだが、やはり野菜が入っているとは思わないみたい。
「正解はー?」
「ニンジンでーす!」
「おにいさまのは、かぼちゃです」
マリアが促すと、リーナちゃん達はイタズラが成功したような笑顔を浮かべ、正解を発表する。
ええっ!?と驚く二人の表情に、また満足気だ。
「るり、くっきーどっちもおいしい」
「ほんとー!やさいもあまいのね!」
そして食べても満足。
そんな風に、楽しい笑い声が絶えない一時となった。
二人は一緒にお昼寝もして(子守唄はもちろん歌いました)、すっかり仲良しに。
しかし、楽しい時間はあっという間だ。
夕方、マリアとアリスちゃんが帰る時間になった。
「ままー!かえりたくないー!!」
「そんなこと言わないの。ほら、一緒に遊んでくれてありがとう、しましょう?」
「…また、あえる?」
暫く黙っていたリーナちゃんが口を開いた。
少し俯いて、寂しそうにしている。
「あえるよー!だってともだちだもん!!」
「…ともだち?」
ぱっと顔を上げ、目を見開いた。
「そ、そんな恐れおお…もがっ」
「そうよ、リーナちゃんとアリスちゃんは、もうお友達。言ったでしょう?一緒に遊んだりお喋りして、楽しいって思えるのが友達だよ、って」
余計なことを言いそうなマリアの口を塞いでそう伝える。
すると、二人は綻ぶような笑顔で握手をした。
「またね!また、おえかきしようね!!」
「うん、またあそびにきてね」
その時のリーナちゃんの笑顔は、今までで一番のものだったと、後でエレオノーラさんが教えてくれた。
その夜。
いつものようにリーナちゃんを紙芝居と子守唄で寝かしつけ、自室に戻ろうと廊下を歩いていると、玄関からバタバタと足音が響いた。
「エドワードさん?」
いつも余裕のある侯爵様の焦った様子に、只事ではないと目を見張る。
「ルリ、頼みがある」
必死の形相で私の両肩を掴むと、苦しそうな声でこう懇願した。
「私の弟を、助けてくれ…」




