洞窟
すみません、キリの良さの関係で今回短めです。
小休止を終え、再び隊列を整える。
怪我等の確認も行い、必要がある者にはカルロスの聖属性魔法や、水属性の回復魔法をかけていく。
「よし、では進むぞ」
「気を抜くなよ。行くぞ」
レオンハルトとイーサンの声で、一行は出発する。
そこから数分間は何事もなく進むことができた。
危惧していた魔物も時折数体現れる程度で、十分に対応出来ていた。
この、一見収まりつつある状況が何よりも恐ろしいとレオンハルトは思っていた。
「嵐の前の静けさじゃないと良いのだがな」
その呟きを聞いて、イーサンも眉根を寄せた。
一方、後方でも同じことを黄華が考えていた。
(おかしいですね。瘴気はますます濃くなっているのに、この小康状態。この後何かが起こる予感しかしません)
そして、隣を歩く紅緒を見る。
酷い空気に自分はじっとりと嫌な汗をかいているというのに、紅緒は緊張した面持ちだが、特別変わった様子はない。
これは、光属性の力がMAXになっている自分だけなのだろうか。
そういえば同じく光属性を持つリリアナも、悪意に敏感だと言っていたことを思い出す。
光属性持ちの特性だと言うのであれば、きっと異常にいち早く気付けるのも、自分。
今まで以上に周囲に気を張らなくてはいけないなと、僅かに緊張の色を強くする。
「……オウカ様、そんなに気負わなくてもよろしいのですよ」
「そーそ。オウカの魔力に期待はしてるけど、一人で戦ってるわけじゃないんだからさ」
そんな時かけられた、ウィルとカルロスからの思いもよらない言葉に、黄華は驚き目を見開く。
「異変に気付いた時は、すぐに私達にお知らせ下さい。光の魔力を持つ貴女は、確かに我々よりも敏感なはずですからね」
「っ!オウカ様、ちゃんと守りますから、僕達のことも頼って下さい!」
さらに言い重ねるウィルに、リオも身を乗り出す。
ぽかんとする黄華を見て、隣を歩く紅緒がにやにやとした顔で口を開いた。
「黄華さん、モテ期到来?」
「なっ!何言っているんですか、紅緒ちゃん!変なこと言わないで下さい!」
いつもからかわれるお返しよと、紅緒はべーっと舌を出す。
そしてその後すぐに、はしたないですよとアルバートに嗜められ、ムッと頬を膨らませた。
(全く……でも、何でしょうね。今まで何でも一人でやってきたからか、不思議な気持ちです)
落ち着かない胸の鼓動にふるふると頭を振ると、はっと何かに気付く。
その様子にいち早く気付いたのは、カルロス。
どうしたのかと声をかけると、黄華は険しい顔である方向を指差した。
「……向こうから、とんでもない濃さの瘴気を感じます。恐らく、この現象の発生源であると考えられます」
絞り出すような声は、少し掠れていた。
それでも気持ちを強く持とうと歯を食いしばり、震える足に力を入れる。
「これは……洞窟?」
「ひでぇ瘴気だな。さすがに魔力ナシの俺でも分かるぜ」
黄華が指差した方へと進むと、そこには洞窟があった。
明らかに禍々しい空気が漏れ出ているのに、騎士達も青い顔をしてごくりと息を飲んだ。
「行くぞ。ここが正念場だ」
イーサンの声に、恐怖心や緊張を振り払うように騎士達は大きな声で返事をする。
「分かっているな。全員生きて帰って、町で祝勝会をするんだろう?」
必ず、自分も――――。
レオンハルトもまた、そう言って自らを奮い立たせるのだった。
洞窟の前に来て、火属性持ちに松明を用意させようとすると、思い付いたように黄華が声をかける。
「もし良かったら、光源は私が魔法で用意しますよ?火は何かと危ないですし。ランプをイメージすれば……『照明』」
そう呪文を唱えれば、松明用の木の棒に光が灯る。
「すごっ!これだけ広範囲照らせるなら、何個もいらないし、やっぱり火は何かあったときに恐いものね」
現代日本の便利な物を知る紅緒がうんうんと頷く。
洞窟なんかでは有毒なガスが漏れていたりするから、火の扱いは気を付けないといけないと、昔、冒険家のお客さんに聞いた話だったのだが、覚えていて良かったと黄華は思う。
騎士達は黄華の魔法に驚きつつも、これならば安心だなと感心していた。
これで視界は良好だし、松明を持つ人間が数人で良いのは助かる。
ただでさえ洞窟は閉ざされた空間なので、少しでも戦いに備えておいた方が良い。
そんな騎士達の声に、頼り頼られる関係が、こんなにも心を温かく満たしてくれるのだと知った今、自分に何ができるのかを常に考えていきたい。
そう思いながら、黄華は洞窟の中へと足を踏み入れた。
中に入ると、やはり瘴気が急に濃くなっていった。
しかも奥に進むに連れて、さらに濃度が増している。
早く何とかしなくては、そう思った時だった。
それが現れたのは。
まさに一瞬。
一瞬で、魔物が爆発的に湧き出てきた。
一体の親玉が、魔物達を従えるようにして現れたのだ。




