危惧
これが魔物の肉……という目でふたりが料理を見つめている。
「見た目は普通の唐揚げね」
「はい。こちらもぱっと見は、ただのぼたん鍋?ですね」
見た目に抵抗はないけど、いざ口に入れるのは勇気がいるらしい。
それならば、まずは私が。
「まず唐揚げからね。――――ん、美味しい!!揚げたて最高!」
やはりピリッとした刺激はあるが、それが良いアクセントになっていてジューシーなお肉に合っている。
続いてボア鍋。
「ん〜こっちもほっとする味だわ。お肉も全然臭くないし、大成功!」
ぱくぱくと口に入れていく私を見て、ふたりもおずおずと箸を動かす。
うん、一口食べて無理だったらそれで良いですから。
紅緒ちゃんは唐揚げ、黄華さんはボア鍋を口に入れる。
すると、ふたりとも驚いたように目を見開いた。
「……!おいしいわ。あ、本当だ、ピリッとくる」
「こちらも、臭みもないですし、お出汁が出ていてとても美味しいです」
「本当ですか!?わー良かった!嫌じゃなければ、たくさん食べて下さいね」
良かった、ふたりとも二口目からは抵抗なく口にしている。
見た目が見慣れた料理と変わらない、ってのもあるかもしれないよね。
いかにも魔物の肉〜なやつは、私も多分無理だと思うもの。
抵抗なく食べられるなら、あとは美味しく頂くだけだ。
しかも回復量まで増えるっていうんだから、お得よね。
拠点地にいる私はともかく、さすがに連日討伐に参加しているふたりはかなり疲れているはずだもの。
そこで、お腹も落ち着いてきたので、討伐の様子も聞いてみることにした。
「うーん、やっぱり今まで参加してきたものよりも魔物の数は多いし、ここに来て強いやつも時々出てくるようになって来たわね」
「ええ。ですが、思っていた以上に騎士さん達が活躍していまして。怪我人も少ないし、いつもよりも疲れが溜まっていないとリオが言っていました。数日がかりの討伐が初めての私達には分かりませんが、普段とはかなり疲れ方に差があるようです。きっと、この回復効果のある美味しいご飯のおかげですね」
「そ、そうかな?役に立ててるなら良かった」
今のところ私の出来ることと言えば、ご飯を作ることくらいなので、そう言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
話を聞いていると、どうやら今は目指している所の中間くらいにいるらしい。
ゆっくりめに進んでいるため、最奥までもう数日というところだ。
ここにいると、魔物に襲われることがほとんどないのであまり分からないが、ふたりは結構な量の魔物と対峙しているらしく、毎日くたくたになって帰って来ていると言う。
でもご飯を食べると結構回復するし、疲れもそれほど溜まってないようだ。
ただ、テント生活だから寝起きは体が痛い、って言っているけれど、それは分かる。
私も体がバキバキでちょっと辛いもの……。
普段フワフワの広いベッドで寝てるからね、体が贅沢に慣れてしまっているようだ。
「でも思ってたより順調だし、このままいけば無事に帰れそう、っては思うよね」
「ですが、油断は禁物ですよ?紅緒ちゃん」
黄華さんの注意に、分かってる、と紅緒ちゃんは笑い飛ばしてまた次の唐揚げにかぶりつく。
そして、一緒に行動しているイーサンさんが嬢ちゃんと呼んで馬鹿にしてくるのが腹立つ、と愚痴り出した。
仲良くやってるように聞こえるけどね?
それにしても、確かに話を聞いていると順調に進んでいるようだが、スタンピードってこんなものなのかな?
本当に、このまま何事もなく終われば良いけど……。
二日後。
新たな拠点地にたどり着き、軽く昼食を取った私達は、いつものようにみんなを見送り、治療用のテントの設備を整えたり、夕食の準備をしていた。
「今日も魔物、取って来ますか?」
「そうですね、今のうちにお願いできますか?」
はい!と元気に答えた騎士さんが数名、さっと準備を整えて狩りに出る。
一昨日以来、魔物の肉が普通に食事に使用されるようになった。
鑑定を使うと、やはり魔物によって回復量が違ったり、処理によってそれが変わるのは間違いないようだった。
普通の豚肉や牛肉なんかもそうなのかな?と疑問に思ったので、町に戻ったら鑑定してみようと思う。
「ルリ様、私達は野菜の皮むきをしましょうか?」
「あ、うん。ジャガイモは結構量あるし、大変だから今のうちからやろうか」
そしてアルとも相変わらずだ。
ああいう話を聞いた後だから、表情の変化とか、思い悩む様子がないのかなと、気になってチラチラと見てしまうんだけれど、特別悲壮感はないんだよね。
うーん、尚更このまま何も知らないフリをした方が良い気がする。
ふたり並んでジャガイモを手に取り、皮を向いて魔法で出した水に浸していく。
しばらく何でもない話をしていたのだが、会話が途切れた時、アルが徐に口を開いた。
「……どなたかから、私の異母姉の話でも聞きましたか?」
「えっ!?な、なんのこと?」
分かりやすい人ですねとクスクス笑われた。
うっ……相変わらず鋭い。
いや、私が分かりやすいだけなのか?
「アクアマリン副団長とのことで、ご心配をおかけしてしまったようですね。申し訳ありません。彼とはもう、何年もあんな感じになってしまっていて」
「それは別に良いんだけど……。仲直りは、難しいの?」
「さあ、どうでしょう?事件が起こってすぐは、確かに私も動揺して彼に強く当たってしまいましたからね。それは悪く思っています。しかし、その後の彼の考えが気に入らなくて、結局こんな感じになってしまっているんです」
そう言って、苦笑いをしたアルは、皮むきをしながらぽつぽつと話してくれた。




