差
「今日のメニューは、サンダーバードの唐揚げと、ビッグボア鍋です。それと、今日はご飯を用意しました」
やっぱり鍋に合うのはご飯だよね。
味噌ベースだし、この組み合わせは間違いない。
紅緒ちゃんと黄華さんも配膳を手伝うと言ってくれたので、終わったらみんなで食べようと約束する。
魔物の肉と聞いて驚くかと思いきや、騎士さん達からすればいつものことのようで、町で調達した肉が無くなったんだなーくらいの認識だ。
でもみんなビッグボアに関してはちょっぴり眉をひそめている。
臭いんだよな……とため息まで聞こえる。
うーん、今までは正しい処理をせずに食べてきたんだろうし、仕方ないよね。
「んーでもさ、ルリが作るものは何でも美味しいし、今回も期待していーんじゃない?」
そこにカルロスさんのひと言が。
それを聞いてみんな、それもそうだなと気を取り直して食事を取りに並び出した。
「たまには良いこと言うわね」
本当、ありがとうカルロスさん!
いつも美味しいって思ってくれているのも嬉しいぞ。
紅緒ちゃんは素っ気なく言うけど、何だかんだいって、やっぱり彼は優しいと思う。
「何だこれ!?めちゃくちゃウマいぞ!?」
「これがボア!?嘘だろ!?」
「臭みもないし、噛めば噛むほど肉の甘味が感じられて、すごく美味い」
「サンダーバードもしっかり味がついててうまいぞ。くそ、酒が欲しくなる……!」
おっ、食べ始めた人たちから驚きの声が上がり出したわね。
ふっふっふ、そうでしょうとも。
どちらの料理も、味見の時にアルやお手伝いの騎士さんから絶賛されたんだもんね!
そんな声に反応して、並んでいる騎士さん達が早く食べたい!まだか!?と騒ぎ出した。
わ、ちょっと待って、落ち着いてーーー!
「喧しい!整列しろ」
「うるせーなぁ。ガキじゃあるまいし、順番ぐらいちゃんと待てよ」
レオンとイーサンさんだ。
た、助かった……。
押した押されたの言い合いになったら、私では収集つけられないもんね。
彼らの団長様が来てくれて本当に良かった。
第二のみんなはいつものことだから分かるけど、第三の厳つい騎士さん達までピシッと並び出した。
……この国の騎士団長様って優秀なのね。
「ルリ、悪いな騎士達が」
「ホントにな。おっ、でもマジでうまそーだな!」
ふたりが鍋を覗いてくる。
くんくんと匂いを嗅いで、騎士さんの言葉に納得したようだ。
「いい匂いがする。まだ食べてはいないが、いつもの獣臭さが無いな」
「俺もそう思った。こりゃあカルロスの言う通り、期待できそうだな!」
はっはっはと笑うイーサンさんを満足させられる程の量があるかは分からないが……。
とりあえず、味は自信を持っておすすめします。
そんなイーサンさんは、しっかりとした量の夕食を持って去っていった。
さて、これで終わりかな?
配膳を粗方終えると、ぽつりと誰かがこんなことを言い出した。
「というか、何でだか、いつもよりも回復量が多い気がするのですが」
「あ、自分も思いました。いつもより体が軽くなったと言うか……」
ぎくっ。
あ、やっぱり分かる人には分かったのね。
「……ルリ?」
怪訝そうにこちらを見るレオンに、実は……と説明する。
そう、どうやら魔物には、種類や肉の質によってHP回復量に違いがあるようなのだ。
以前市井で鑑定したサンダーバードの肉は、回復量が微弱だった。
因みに今回狩りたてのものも同じく微弱。
しかし、丁寧に血抜きした後は、“弱”になっていた。
そしてビッグボアは狩りたてなら回復量は“弱”。
しかしその後、“適切な処理を行えば中程度に上昇”と書かれていた。
ご丁寧に処理方法まで、タップすれば教えてくれましたよ。
つまり、サンダーバードとビッグボアでも回復量に差が出るが、処理の内容でもかなり変わってくるということ。
アルによると、そんなことは初めて聞いたとのことなので、恐らく他の人の鑑定には載っていない事柄なのだろう。
「それって、瑠璃さん特有の鑑定内容ってことね?私が魔物を鑑定しても、そんな項目出てこないもの」
「そうですわね。この鍋も、私の鑑定結果には“非常に美味”とは書いてありますが、回復量のことなんてどこにも見られませんもの」
紅緒ちゃんや黄華さんがそう言うので、やはり間違いないらしい。
以前三人で鑑定について話した時も、そんなことを言っていた。
鑑定にも得意分野があるってやつね。
私は料理に癒やしの効果を付与しているからなのかな?
理由は多分、そんなところだろう。
それにしても“非常に美味”なんて、鑑定さんにも認められた感じで嬉しいぞ。
「……とにかく、これは王都に帰ったら陛下やシーラに報告する。まあ、また陛下にため息をつかれることになるかもしれないな」
うっ、それは覚悟しています。
レオンの言葉に、隣でアルも苦笑いだ。
「まあ、仕方ないですね。ですが、それが実証されれば、間違いなく国や我ら騎士団のためになります。ルリ様には、本当に感謝しないといけませんね」
「え!?いや、たまたまだからね?」
「それでも、ですよ」
アルにそう言われてしまっては何も言えない。
ありがたく感謝の気持ちを受け取ることにしよう。
「その話はまた王都でな。取りあえず私達も頂こう。せっかくの料理が冷めてしまうからな」
「あ、レオン。今日は紅緒ちゃんと黄華さんも一緒に良い?」
「ああ、それなら三人だけで食べて来ると良い。たまには同郷の者だけで話したいこともあるだろう」
こういう気配りできるところは流石だなって思う。
それを聞いて、護衛のみんなも少しだけ離れた所でいただきますねと遠慮してくれた。
ふたりの料理を食べた反応も気になるし、討伐はどんな感じとかも聞いてみたい。
たまには三人も良いよね。
というわけで。
「「「いただきます!」」」
日本風の食前の挨拶をして、私達は料理に箸をつけた。




