感謝
さて、まずはシシ肉?ボア肉?の下処理だ。
塩水で数回洗い、酒に漬け込んでおく。
血抜きは恐らく完璧。
でも、この処理をきちんとすればさらに臭みを取ることができる。
騎士さん達が手伝ってくれたので、量は多いがすぐに処理を終えることができた。
さて、漬け込んでいる間に唐揚げの下準備をしよう。
こちらも一口サイズ……よりも男性向けに大きめに切っておき、塩や酒、醤油、ニンニクに生姜を加えて漬け込む。
こちらは揚げたてを振る舞えるように、夕食前までこのままにしておく。
味もしっかり馴染んで美味しくなるはずだ。
次に野菜を適度な大きさに切る。
やっぱりシシ肉ときたらぼたん鍋だよね!
具沢山にしたいところだけど、野菜は節約して鍋と言うより味噌汁に近いものにする。
出汁が出て、汁だけでも十分美味しいはずだしね。
大鍋にたっぷりのお湯を沸かして控えめだけど野菜を煮込む。
あとはみんなが帰ってくる一時間前くらいに、ボア肉も入れて灰汁を取り、味噌を溶かせば完成だ。
あ、そうだ。
念の為、処理後のボア肉を鑑定してみようかな。
処理が上手くいってるか気になるし。
「鑑定」
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*ビッグボアの塊肉*
Cランク魔物、ビッグボアの処理後の肉。
食用可。臭み微量あり。
猪肉風味で弾力があり、煮込むほど美味しくなる。
効果:HP回復中程度
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よし、臭みは微量になってるから美味しくなりそう!
それに検証も成功のようだ。
そんな私の様子を見て、アルもにこりと笑った。
「その顔は、どうやら上手くいったようですね」
「うん!処理は上手くいったみたい。まあ、またやっちゃった感はあるけど……でも、絶対これからの為になるしね」
「勿論ですよ。貴女は突拍子もないことをさらりとやってのけるので、驚かされてばかりですが、いつだって誰かのためにやっているし、結果そうなっていることも、ちゃんと分かっています」
まあ、護衛としては少しは自重して欲しいと思いますがね、と言われてしまった。
うん、私もアルにいつも苦労かけてるのは分かってるんだけどね?
……だから、少しでも力になりたいって思うんだけどね。
エリーさんのこと、本当は聞きたい。
でも、下手に首を突っ込んで良い問題じゃないことも分かってる。
それなら、私は少しでもアルを笑顔にできるように、努力したい。
「私も、いつもアルがたくさん助けてくれてること、ちゃんと分かってるよ」
それに、いつも私のことを考えて動いてくれていることも。
「ありがとう。アルが私の護衛騎士で良かった」
心を込めて感謝を伝えれば、アルも笑顔を返してくれた。
その微笑みは、いつもより少しだけ優しくて、嬉しそうだったのは、気のせいだろうか。
「あ、帰って来た!みんな、お疲れ様ー!」
夕方。日が落ち始め、いつも通り森が薄暗くなってきた頃に、続々とみんなが帰って来た。
今日も見た感じ、多少の傷はあるものの、重症な様子の人もいなかったし、順調に進んでいるみたい。
さて、じゃあ始めますか!
ぼたん鍋は一時間程前からしっかり煮込んでいる。
ちょっと味見してみたけど、……控えめに言って最高。
臭みも全然気にならないし、出汁がしっかり出ていてすごく美味しかった。
魔物なんてきっと誰も思わないだろう。
ぜひ紅緒ちゃんと黄華さんにも食べてもらいたいものだ。
ということで、唐揚げも食べずにはいられない出来にしないとね!
まずは下味をつけておいた鶏……じゃなかった、バード肉に片栗粉をまぶす。
ぽってりとして、表面がお肉の水分でベタつくくらいでOKだ。
薄力粉はその後、しっかりまとわせる。
今回は量が多いので難しいけど、本当は一切れずつしっかり薄力粉をつけた方が良いんだって。
私は面倒くさいので、いつもポリ袋に肉と粉類をざーっと入れて揉み込んでいたが……やっぱり丁寧にするとカリカリ度は増すだろう。
アルやお手伝いしてくれる騎士さんにも教えて、この工程をやってもらう。
さあ、では私は揚げていこうかな!
温めておいた油にそっとバード肉を入れると、ジュワッと良い音がしてきた。
うーん、この音、食欲出てくるわぁ!
時々ひっくり返して、2分程揚げる。
揚がったらバットに出して、しばらく予熱で火を通す。
その間に次のバード肉を揚げる。
そう!今日は二度揚げしちゃいますよ〜。
大量の肉が揚がったら、もう一度油の中へ投入!
勢いよく揚がる音がまた、期待を膨らませるわよね〜。
今日は大きめサイズなので4、5分程揚げると良いかな?
「瑠璃さん、ただいま。今日は……やったぁ!唐揚げだ!」
「まあ、美味しそうな匂いと音ですねぇ。お腹ペコペコです」
「紅緒ちゃん、黄華さん、おかえりなさい!もうすぐ出来ますからね」
楽しみー!とワクワク顔の二人だが、ここで事実を伝えなくてはいけない。
「あら?でもまだそんなにお肉残っていたんですの?鶏肉なんてあったかしら……?」
はい、黄華さんよくお気付きで。
「えーっと、今日のお肉は……ごめんね、魔物です」
「「……………」」
「「えええええーーー!?」」
だってお肉もう少ないし。
てへ、と首を傾げてみたが、多分全然かわいくないので効果はないだろう。
それでもぜひこの味を食べてもらいたいので、説得にかかる。
「で、でもすごく美味しいんだよ?ほら、調理後だから見た目は普通の唐揚げと変わらないし。一口だけでも、どうかな?どうしても無理なら、パックのチキンで照り焼きチキンサンド作るから」
難しい顔を見合わせるふたりを、ドキドキしながら見つめる。
しばらく考えていたふたりだが、意を決したように紅緒ちゃんが口を開く。
「……まあ、確かに見た目は普通だし、食べてみようかな」
「そうですね、せっかく作って頂いたし、それに瑠璃さんが作ったものなら美味しいはずですものね」
や、やったーー!
「ありがとう!あ、無理だったら遠慮なく言ってね!代わりのもの作るから」
よし、じゃあ盛り付けてみんなで食べましょう!
「みんな、ご飯できましたよ!」
今日も一日、お疲れ様です。




