士気
ギースさん達、今頃食べてくれているかしら?
そんなことを考えながら、はむっと町の奥様手作りの唐揚げを頬張る。
家庭の味って感じで、温かい味がする。
大勢で食べるご飯って何でこんなに美味しいんだろう。
あちらこちらから美味しいという声が聞こえたり、お代わりに行く姿が見られたりする。
こうやってみんなでご飯を食べると、仲間意識が育つって言うよね。
よく見ると、貴族出身の第二の騎士さんと平民出身の第三の騎士さんが仲良く話している姿もある。
みんなで協力して、今回の件を解決できると良いな。
「ところでルリ、先程子ども達が持って来たアレは何だ?」
和やかな食事風景に頬を緩めていると、レオンが作業台に乗せたものを指差して尋ねてきた。
「ああ、あれはね――――」
私の答えに、レオンは目を見開いた後、ぷはっと笑った。
「全く君は。いや、しかし助かる。ありがとう、ルリ」
その甘い声と表情に、私はレオンの顔を直視することが出来ず、俯いて大したものじゃないとしか言えない。
不意打ち、ずるい……。
「しかし、他の騎士にまで優しくしすぎると、妬けてしまうからな。あまりその笑顔と優しさを安売りしないでくれると嬉しいのだが?」
「そ、そんなことないよ?それに、妬けるとか、そんなレオンが、まさか……」
しないでしょ?と思いながら目線を上げると、綺麗に微笑むレオンと目が合った。
「へえ?私の気持ちが信じられないと?これは王都に戻ったら、十分に分からせてあげないといけないかもな?」
「へ……!?」
どこか楽しそうなレオンに、私は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えるのだった―――。
「やれやれ。ゾッコンだな、ありゃ」
「あの青銀の騎士殿も、あんな顔するんすね」
「ルリ様と一緒にいる時はいつもあんな感じだぞ?見ろ、騎士達がレオンの見慣れない姿に驚きを通り越して、引いている」
そんな瑠璃とレオンハルトの姿を、呆れた様子でイーサン、カルロス、ウィルの三人は眺めていた。
しかし料理はとても美味いし、肉に野菜にと栄養を考えてくれているのも分かるので、瑠璃にはとても感謝していた。
「いつの間にか町の人達も巻き込んでるしね。遠征行ってこんな歓迎ムードって珍しくない?まあ、感謝されることはあるけど、どっちかって言うと遠巻きに見られることが多いし」
よく見れば、いつの間にか町の人達の姿が増えている気がする。
普段なら騎士達もさっさと食事を済ませて休むものだが、今日は談笑しながら食事をとっている者が多い。
かと言って、気が抜けているのかという訳ではない。
明日からの討伐に、町の人達からお願いしますと差し入れをもらいながら言われ、やる気を向上させている騎士もいる。
「ルリ様の人柄でしょうね。いつもああして人に囲まれている」
いつの間にかオウカ様もすっかり落ち着いたようだしな、とウィルは思う。
気に掛けてやってくれとは言ったが、あれ程吹っ切れるとは思っていなかった。
ただ異変に気付いただけの自分とは違う。
ウィルがそんなことを考えていると、イーサンが急に真面目な顔をして口を開いた。
「まあ、それは良いんだけどな。問題は明日からだな。果たしてあいつらに耐えられるか」
「……そうっすね。ルリもそうだけど、ベニオとオウカも、今までみたいにはいかないって、油断しないでくれると良いんだけど」
カルロスもそれに同意する。
いくらふたりは討伐の経験があるとはいえ、それほど強い個体と戦ったことはないし、スタンピードなどもっての外だ。
全員無事に戻って来れると良いんだけどな、とイーサンが呟く。
何かあれば、その時は自分達が彼女達を守らなくてはいけない。
「気を引き締めなければいけないな」
ウィルの言葉に、イーサンとカルロスも静かに頷いたのだった――――。
次の日の朝。
「うん、こんなものかな」
宿の一室でいつもより早く目覚めた私は、昨日作ったものを小分けに包み、身支度を整えていた。
今から森に入るのだと思うと、正直まだ怖い。
けれど。
「みんながいるから。リーナちゃん達とも約束したしね」
小さな指と絡めて約束した、自分の小指を見つめる。
困っている人を助けて、無事に帰る。
うん、私がすることはそれ。
焦らず、恐れず、自分に出来ることをする。
「さあ、頑張ろう」
そう気合を入れ、私は部屋の扉を開けて騎士のみんながいる広場へと向かった。
「それでは準備は良いな?」
「第二と第三、今回は隊を混ぜて構成している。それぞれ協力して討伐にあたれ。――――できるな?」
レオンとイーサンさんがそう言うと、はい!おう!と、広場に騎士さん達の気合の入った声が響く。
いよいよ森へと出発だ。
「それでは出発の前に、ひとりずつにこれを配る」
そう言ってレオンが取り出したのは、先程私が渡したたくさんの小さな包み。
「青の聖女様からだ。中身はさつまいものクッキー。もちろん回復効果付きだ。何かあった時の非常用の携帯食として、全員に渡しておく」
そう、昨日おまけで頂いたさつまいもを使って、私はクッキーを作っていた。
全員に分けるとそれ程数はないけれど、何かあった時に使えるかもしれないと思ったのだ。
……本当は、その何かなんて起こってほしくないけどね。
備えあれば憂いなし、って言うじゃない?
「私は直接戦いには参加できませんが、雑用とか、料理とか、怪我の手当なら何でもします!でも、出来るだけ怪我のないようにして下さいね」
いざ出発となると不安が湧き上がる。
十分に気を付けてほしいと伝えれば、紅緒ちゃんと黄華さんもそれに応えてくれた。
「ルリさんが毎日美味しいご飯作って待っててくれるんだもの。戻らない訳にはいかないわよね」
「ええ。鎮圧して戻って来れたら、またここでみんなでご飯、食べましょうね」
そりゃあ楽しみだ!と騎士さん達から歓声が上がる。
うん、みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫。
そんな私達に、レオンとイーサンさんもしっかりと頷いてくれる。
「では、出発するぞ」
「間違っても死ぬなよ、お前等!」
それに応える騎士さん達の声に後押しされながら、私も森へと出発した。




