第二騎士団団長の憂い
私はレオンハルト=ラピスラズリ。
前ラピスラズリ侯爵の次男だ。
侯爵家はすでに少し年の離れた兄が継いでいるため、何のしがらみもなく、職務に専念出来ている。
住まいも侯爵家から騎士団専用独身寮に移っており、気ままな生活を過ごしている。
特に不満もなかった毎日が崩れたのは、ほんの二週間前。
王都から少し離れた街の近くにある森で、魔物の大量発生が確認され、その討伐に出向いてからだ。
魔物自体はそれ程強くなく、数が多いだけだと油断していたのがいけなかった。
そろそろ終わりか、という頃に強い魔力を持つ個体が現れた。
不意の一撃に、少し反応が遅れた。
何とか避けて致命傷とはならなかったが、鋭い爪が左肩を掠めた。
苦戦はしたが何とか討伐し、回復魔法に心得のある部下が応急処置を行ってくれた。
王都に戻ってからも十分に手当てを受け、傷はもうほとんど綺麗になっている。
だが、傷を負って以来、満足に睡眠が取れていなかった。
忙しいという理由からではない。
寝入ったかと思うと、悪夢を見るのだ。
それは、私の心も身体も蝕んだ。
何度魘され、何度叫び起きたことだろう。
身体は睡眠を欲しているのに、頭は眠ることを拒絶する。
次第に窶れ、頭も上手く回らない。
そんな折、聖女召喚の儀式が行われた。
召喚士に選ばれたのは、魔術師団の団長。
国で一番魔術に精通していると言っても過言ではないその知己にも、相談したことがあった。
しかし、結果は不明。
しかも魔術師団団長は、聖女召喚での魔力枯渇の為、意識不明となってしまった。
二人もの異世界人を喚んだのだ、仕方の無いことなのだろう。
しかしそれが、さらに私を精神的に苦しめた。
症状の改善には至らずとも心から私を心配し、励ましてくれたその人を喪うかもしれないという恐怖は、耐え難いものだ。
しかも、カイン陛下の温情で聖女様にこの症状を診て頂くことが出来たのだが、二人は揃って首を振った。
『私達には分かりません』と。
聞けば、二人は聖女と言ってもそれぞれに得意分野があるようで、治癒や呪いを解く聖属性魔法のレベルはあまり高くないとの事だった。
もう、長くは持たないかもしれない。
それでも何とか力の入らない身体に鞭を打って、職務に当たる。
騎士団長用の執務室で、霞む眼を擦りながら書類に目を通していた時、不意に扉が開いた。
「…っ!何て顔をしているんだ、レオン」
久しぶりに見る、兄だった。




