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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第四章

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優しい約束

遠い所から声が聞こえる感じからすると、これは恐らく通信魔法だろう。


『突然すまない。もう眠るところだったか?』


「ううん、大丈夫。リーナちゃんに添い寝していたの」


『そうか。……リリアナも、不安だろうからな』


声のトーンが落ちた様子から、レオンもリーナちゃんの気持を察したらしい。


水盤を張れないかと言われ、そっと部屋を抜け出し、近くの水場で水を拝借する。


たとえ通信魔法でも、レオンの顔が見たい。


桶に入れた水をテラスに運んで置くと、しばらくしてレオンの姿が浮かび上がった。


「レオン。ありがとう、忙しいのに」


『いや。すまない、本当は側にいたかったのだが……。ようやく準備が一息ついたから、せめて通信でと思って』


レオンも同じ気持ちでいてくれたのだと思うと、じんわりと胸が温かくなる。


その優しさに、自然と笑みがこぼれた。


『案外、落ち着いているんだな?』


レオンも、私が不安になっていると思ったようだ。


少し驚いた様子で目を見開いている。


「うん、レオンが一緒だからかな。あとは、リーナちゃんにも励ましてもらったし。約束したの」


『約束?』


そこで先程のやり取りを伝えると、レオンは苦笑いで口を開いた。


『まさかリリアナに役目を奪われるとはな。こんな時くらい、俺がルリを抱き締めて眠りたかったのに』


「っ!もう、そんなこと言って……」


本気だぞ?というレオンに、ますます顔の温度が上がる。


そんなこと言われたら、あのドキドキするけれど、安心させてくれる腕の中に包まれたいと思ってしまうじゃないか。


『ルリ?どうかしたか?』


「!ううん、何でもない!」


危ない危ない、うっかり意識が想像の世界へ旅立ってしまった。


ぷるぷると首を振って水盤へと目をやると、その向こう側でレオンがふっと笑いを零したのが分かった。


『想像でもした?』


「ち、違う!」


何だってこう、見透かされてしまうのだろう。


レオンの表情がだんだん意地悪なものに変わってしまった。


『本当に可愛いな、ルリは。遠征から戻ったら、たっぷり甘やかすから覚悟しておいてくれ』


「や、それは……。っ、あの、お手柔らかに……」


きっと先程よりも真っ赤になったであろう顔を俯かせて、そう答える。


いりません!と否定できないのだから、仕方ない。


くすくすとレオンが笑うのに気付いて、涙が出そうなくらい恥ずかしくなる。


『俺とも、“約束”だ。ちゃんと、無事に戻って来れるように』


そんな優しい言葉に、私は小さく頷きを返した。






同時刻、同じように明日の準備を終えた黄華は、風に当たるため、部屋に備え付けられたバルコニーへと出た。


「満月、ですね」


元の世界で見上げたそれと何ら変わらない月を見て、はあっとひとつ息をつく。


想いを馳せるのは、誰からも愛されていないと思っていた、あの頃のこと。


そして、こんな私に一緒に幸せを探そうと言ってくれた、ふたりの友人。


「無事に帰ることができると良いのですが」


雲が出て、にわかに月が翳った。





次の日。


ふっと目が覚めると、微睡みの中で温かくて柔らかいものが、腕の中で身動ぎした。


ああ、そうだ。


レオンと話した後、リーナちゃんが眠るベッドで一緒に寝たんだった。


ふふ、気持ち良い。


まさにお布団から出たくない!と思ってしまうこの状況。


でも、今日は行かなきゃ。


レオンとリーナちゃんのおかげでよく眠れたし、体調も良い。


そろりとベッドから抜け出し、うーんと伸びをする。


すやすやとよく眠っているリーナちゃんを見ると、自然と頬が緩む。


さて、今日から頑張らないと!





朝食を終えると、ラピスラズリ家のみんなから、散々あれは大丈夫かこれは持ったかと聞かれた。


まるで本当の家族みたい、とちょっぴり涙が出そうになったのは内緒だ。


と言うか、出発間際にエレオノーラさんに『絶っ対に無事で帰って来るのよ!』と抱きしめられた時は、耐えきれずに泣いた。


レイ君に、留守中寂しくなりますと言われた時も、みっともなく涙を流した。


そんな私達を見て、マリアやマーサさん、セバスさんも涙ぐんで見送ってくれた。


そしてリーナちゃん。


『やくそく!やぶったら、はりせんぼん、だよね?』


そんなかわいいセリフを言いながら、小指を立てて私の前に差し出した。


それに自分の指をしっかりと絡めて、“約束”をもう1度する。


ちゃんと“ただいま”ってレオンと一緒に笑って言えるように、頑張るからね。






「ルリ様は、本当にあの家の方々から大切にされているのですね」


王宮へ向かう馬車の中で、ぽつりとアルが呟く。


「なあに、今更。うん、この世界に来てから、ずっとそうなの。見ず知らずの、正体不明で怪しい人物のはずなのに、すごく良くしてくれた」


そう答えると、アルはくしゃりと笑った。


「ラピスラズリ団長がついていますから、大丈夫ですよ。それに、微力ながら私も精一杯お守りします」


「……うん、ありがとう」


アルだって、私のこと大切にしてくれてるって、自分で分かっているのかしら。


「まあ、戦場でのあの方には少し驚くかもしれませんがね……」


そつと目を逸らすアルに、既視感を覚える。


確か紅緒ちゃんも、討伐の時のレオンの話をしている時に、こんな反応をしていた気がする。


うん、どうやらレオンにはアルにすらもこう言わせてしまう二面性があるようだ。


でも、きっとアルもそんなことを言って、私の緊張を解してくれようとしているんだろうな。


こうやってみんなの優しさに触れていると、絶対に帰ってきたいと思う。


「言っておくけど、アルもちゃんと無事に帰るんだからね。私のこともだけど、自分のこともちゃんと守ってね」


ここでもひとつ、“約束”をしておく。


それに一瞬面食らったような表情をした後、「了解しました、ルリ様」と笑うアルに、私も微笑みを返した。

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