呼び出し
そしてラピスラズリ邸に戻って来た私は、夕食までの時間をリーナちゃんとレイ君と一緒に過ごしていた。
「ーーーってことがあってね。リーナちゃんが言ってたこと、本当だった!すごいね」
「えへへ」
「へえ……あのカーネリアン殿が」
素直に喜ぶリーナちゃんと、まだ疑っている様子のレイ君。
レイ君はカルロスさんのことをどこで知ったのだろうと不思議に思って聞くと、一度カーネリアン家でのパーティーに招待された際に会ったことがあるのだと言う。
その時彼はとっかえひっかえ女性に声をかけたりかけられたりしており、またそれを噂する人々の声を聞いて、だらしない人間だと判断したらしい。
確かに身近な夫婦、つまり両親があれだけラブラブなのだから、そういう姿に眉を顰めてしまうのも分かる。
「ですが、あの軽薄さはやはり僕には受け入れ難いです」
キッパリとそう言うレイ君に、私も曖昧に笑うしかなかった。
まあ、誰にでも好かれるってのは、普通ありえないことだからね。
人間だもの、苦手な人がいるのは当たり前。
「それでも、彼に救われている人も多いっていうのは本当みたいだから、あまり嫌わないであげてね」
「……はい」
レイ君はちょっぴりシュンとしながらも了承してくれた。
うーん、素直でかわいいなぁ。
思わずレイ君の頭をなでなでしてしまった。
「あ!おにいさまだけ、ずるい!」
そう言って混ざりに来るリーナちゃんも、安定の天使さだ。
リーナちゃんの柔らかい髪をふわふわと撫でると、くすぐったそうに笑って、それも相変わらずかわいい。
「好き嫌いがあるのは仕方のないことだけれど、だからってその人の全部を否定しちゃダメだからね」
私の言葉にふたりはしっかりと頷いてくれ、そのかわいさに、私はふたりをぎゅっと抱きしめたのだった。
翌日。
今日は紅緒ちゃん、黄華さんと一緒に第三騎士団の訓練に混ざっての練習に参加していた。
因みに私が慣れてきたこともあって、シーラ先生とカルロスさんは不在。
別の用事があるんだって。
まあ、イーサンさんがそれを狙って、私達の訓練参加を願い出た可能性もあるけど。
真相は分からないが、こうして何事もなくいるのだから、まあ問題はない。
紅緒ちゃんが騎士さんたちと訓練をしているのを見つめながら、私と黄華さんはカルロスさんのことを話していた。
「その時に思い出したんですけど、検証会でカルロスさんが誰に差し入れようか迷っている時、黄華さん女性の名前を聞いて何か引っかかったような顔してましたよね?」
「ああ、はい。クリスティーンさんにイザベラさんですよね?どちらも妊婦さんだったので、ひょっとして回復効果のある料理を渡してあげたかったのかな、と思いまして。まあ、一瞬いけない関係?と思ったりもしましたが」
うふふと黄華さんが笑う。
なるほど、やはり思っていた通りのようだ。
……いけない関係とやらも、ありえなくはないかもしれないけど。
「ですが、あのヘラヘラした態度に何か理由があるのかは分かりません。魔法の話をしている時は、どちらかと言うと思慮深さも感じられたのですが」
うーんとふたりで考えてみるものの、結局答えは出ない。
オーラの見える黄華さんでも、彼のことはよく分からないようだ。
「まあでも、女性に優しいのは、ただ遊びたいからというわけではないのは確かのようですね」
何か思い当たることがあるのか、黄華さんはそう言うと頬を少し赤らめた。
おや?これは何かあったのかな?
追求したい気持ちにかられたが、ぐっと我慢する。
安易な一言で、黄華さんがカルロスさんを避けてしまうことも考えられる。
多分彼女は色恋には慎重、というかトラウマがあるだろうから、ここは静かに見守った方が良いのだろう。
もちろん相談された時はちゃんと一緒に考えたいけどね。
しかしカルロスさんもだが、イーサンさんも気になる。
ちらりとそちらを見るが、イーサンさんは相変わらず訓練中の騎士さんに、やいのやいのと指示?ヤジ?を飛ばしている。
紅緒ちゃんはというと、以前よりも格段に魔法を上手に使って騎士さんたちを援護しているのが、素人の私にも分かる。
うーん、この関係、いったいどうなるのだろう……。
暢気にそんなことを考えていると、けたたましい足音がして、数名の騎士さんたちが現れた。
驚いてそちらの方を振り返ると、イーサンさんが顔を顰めて、現れた騎士さん達に近付く。
「おいおい、いきなり何だぁ?お前等、第二の騎士だよな?見て分かるように、訓練中だぞ」
「申し訳ありません、ルビー団長。ですが、陛下からの緊急の呼び出しで。良かった、聖女様方皆さんお集まりですね。どうか、陛下の執務室までお願い致します。ルビー団長も」
陛下、緊急、という単語に、その場に緊張が走る。
「仕方ねぇな。おい、訓練はこのまま続けてろ。俺達がいないからって、気の抜けたことすんじゃねぇぞ」
ボリボリと頭を掻くと、ため息をついてイーサンさんが第三の皆に指示をする。
「瑠璃さん、黄華さん、行こう」
紅緒ちゃんが少し不安気な様子で近寄る。
「何だろう。あいつ、普段はこんな呼び出し方しないんだけど……」
それだけの何かがあったということだろうか。
「三人一緒だから、大丈夫よ」
「……うん」
努めて明るい声を出したが、不安なのは私も同じだ。
そうして私達は、陛下の執務室へと急いで向かった。




