追求
それから、しばらく私は回復魔法の練習のために騎士団の練習に参加したり、公園事業の拡大のためにシトリン伯爵と会議を行ったりと、忙しい毎日を送っていた。
公園は、控えめに言っても幼い子を持つ親子に大人気となり、天気の良い日は毎日賑わっている。
いつもの孤児院の子たちもよく遊びに行っているみたい。
そして、お年寄りの散歩コースにもなっているのか、ベンチでゆるりと過ごす姿が見られるらしい。
こんな所は元の世界と同じのようだ。
小さい子の一生懸命遊んでいる姿に、元気をもらえるんじゃないかな。
視察に行った所とは別につくった公園も、毎日賑わっていると聞く。
そのため、王都にもう何ヶ所か公園の設立を検討中だ。
今は王都内だけだけど、こういう公共の遊び場が少しずつ増えていくと良いなと思う。
それと、私の回復魔法の練習のことだが……。
「ほほぉ〜。青の聖女殿の回復魔法はさすが、素晴らしいな。こりゃ遠征でも頼りになりそうだ!」
とか何とか言って、イーサンさんに練習中よく絡まれる。
いや、第三騎士団との練習の時だけならともかく、第二騎士団の中で行っている時もどこからともなく現れて何かと話しかけて来るのだ。
……仕事、しているのかしら?
まあ、絡まれるのは私だけじゃないんだけど。
紅緒ちゃんには、あからさまに警戒を見せているのでそうでもないが、黄華さんもよくイーサンさんにつかまっている。
そういえば黄華さんが倒れたあの日、お姫様抱っこで医務室に運んでくれたのはイーサンさんだ。
あの時はちょっとドキドキしてしまったものだが、こうしてふたりの様子を見ると至って普通だ。
黄華さんはお姫様抱っこ知らないし、いつも愛想笑いでかわしている感じ。
でも、イーサンさんの黄華さんを見る目は、何となくだけど優しい気がする。
因みに私に対しては、すぐ頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜたりポンポン叩いたりと、完全に妹をいたぶる兄のような感じだ。
……まあ、この世界でそんな風に接してくる人なんて今までいなかったから、ちょっと嬉しいかも、と思わなくもないけど。
「いや、そこは嫌がってほしいのだが」
「あれ、今声に出てた?」
「無意識ですか?相変わらずですね」
第二騎士団団長室。
お昼休憩のため、レオンと私、そしてウィルさんの三人でサンドイッチなどが置かれたテーブルを囲んでいた。
ここ一ヶ月くらいの出来事をつらつらと思い返していたら、どうやら色々と口に出してしまっていたようだ。
ウィルさんと言えば、あの後黄華さんのことでお礼を言いに行ったのだが、それは良かったですと微笑まれただけで、それから特に何事もない。
アルと言い争いになったことも、嘘のように。
リーナちゃんが『こころが、かなしいっていってる』と言っていたが、正直こうしていると全く分からない。
でも、アルとのやり取りから察するに、何かがあるのは間違いない。
けれど、それを私に話すかと言われると……答えは、否だろう。
リーナちゃんに助けてあげてと言われたが、どうしたものかと頭を捻る。
「ルリ、聞いているか?」
「あ、え?ごめんレオン、何?」
慌てて声のした方を向くと、レオンはむっと眉根を寄せた。
「恋人の嫉妬心を無視するとは、ルリ様は随分と冷たいお方だったのですね」
嫉妬心?
ウィルさんてば何を言っているのだろうと首を傾げると、苦笑いが返された。
「ルビー団長のことですよ。気安く触れられているのに喜ぶ貴女に、レオンはやきもきしているようです。全く、この男がまさか女性関係でこんなに感情豊かになるとはね。ルリ様は罪なお方だ」
「……うるさい」
ふん、とそっぽを向くレオンの目元がちょっぴり赤い。
そうか、レオンは嫉妬してくれていたのか。
拗ねたような横顔に、胸がじんわりと温かくなるのが分かる。
「では邪魔者は退散しましょうか。レオン、言っておくが時間厳守だからな。あと節度を忘れずに」
「……さっさと行け」
ではまた後程と言って、ウィルさんはパタンと扉を閉めた。
そう言えばこの展開の時はいつもウィルさんにああやって注意されている気がする。
確かに、ふたりきりになるといつも甘い空気になるから……「ルリ」
「ふひゃぃっ!?」
変なことを考えていたからか、変な声が出てしまった。
レオンも驚いて目を見開いている。
それが恥ずかしくて、真っ赤になった顔を両手で押さえてその場にうずくまった。
すると、こほんとひとつ咳払いをしてレオンが近付いてくる気配がした。
そして隣に座ると、私の顔を覗き込む。
「何故、そんなに顔が赤いんだ?」
「な、ななな何でもない!」
何でもないことはないだろうと手を取られそうになる。
顔を隠すために力いっぱい抵抗したのに、呆気なく取られてしまい、先程よりも温度が高くなった顔が晒された。
せめて目だけは!とぎゅっと瞑ってぷるぷる震えていると、ふっと笑われた。
「何を考えていたんだ?」
「だから別に……あっ」
甘い声の追求に顔をそらすと、頬を撫でられた。
びっくりして目を開けると、そこには意地悪に微笑むレオンがいて。
恐ろしいほどの美貌と色気に、頭がくらくらする。
「ふぅん?俺に隠し事とは。ひょっとして、こんなことを想像してた?」
さらに距離を詰めてきて、唇が重なりそうになった。
その上そろりと耳朶をなぞられ、そのくすぐったさに身体が震える。
「さて、どこまで黙っていられるかな?」
こ、これは白状するまで止めてもらえないやつだーーー!!
涙目の私に、レオンはくすくすと笑って何度もキスを落とした――――。




