パジャマパーティー
陛下の許可は、紅緒ちゃんがもぎ取ってくるわ!と言ってくれたので任せることにした。
そんな気軽に陛下に会えるなんて、紅緒ちゃんと陛下はやっぱり……と言おうとしたらすごい目で睨まれたので、口をつぐんだ。
なんだかんだで仲が良いんだろうなとは思うけど。
それにしても医務室の前にカルロスさんがいたのには驚いた。
きっと黄華さんのことを心配して来たんだよね。
みんながそうやって黄華さんのことを想っているんだよって伝わると良いな。
「ルリ様?」
「あ、うん。アルごめんね。悪いけどラピスラズリ邸に行って、また王宮に戻って来たいの」
「ええ、分かっています。パジャマパーティー?でしたっけ。部屋の中から聞こえました」
あれ、聞こえてたんだ。
確かにその辺りは声が大きかったかも。
ちなみにその前、黄華さんの過去についても聞こえてしまったのだろうかと恐る恐る聞いてみたが、そちらはボソボソと何か話しているというのが分かるくらいで内容までは、と言われた。
良かった、黄華さんは聞かれたくない話かもしれないしね。
とりあえず、アルがお泊まりのことを聞いていたなら話は早い。
ラピスラズリ邸に一度戻って、エレオノーラさんやリーナちゃんに話さないと。
もう大丈夫だとは思うけど、外泊なんて初めてだから、リーナちゃんに夜いないことをちゃんと伝えておきたい。
突然夜いない、ってなると子どもは不安になるからね。
それに着替えとかも取りに行きたいし。
多分だけど、手ぶらで行っても王宮で用意してくれる。
でも王宮御用達ってことは、すごく高価だったりきらびやかなものだったりするんじゃないかな、と。
使い慣れたものが一番よね、うん。
「リーナちゃん、ただいま」
「るりせんせい!おかえりなさい!」
いつものように出迎えてくれたリーナちゃんに、まずはお泊まりの話をする。
ちょっと寂しそうではあったけれど、黄華さんの話を聞いてあげたいことを伝えると、頷いてくれた。
「るりせんせいとべにおちゃんなら、だいじょうぶ。おうかさんに、やさしくしてあげてね!」
と気遣うリーナちゃんは本気で天使なんじゃないかと思った。
この前も黄華さんのこと、心配してたしね。
すぐに元気になるとは思ってないけど、いつか黄華さんが幸せだって言える日が来ると良いな。
エレオノーラさんにもお泊りすることを伝え、私はアルと王宮にとんぼ返りしていた。
エレオノーラさんはエドワードさんとレオンにも通信魔法で了承を得てくれ、レイ君も楽しんできて下さいねと見送ってくれた。
そういえば王宮に泊まるってことは、アルはずっと私の側にいるのだろうか?
黄華さんのことを思っての発言だったとは言え、アルに急な夜勤を迫ってしまったのではと、王宮に向かう馬車の中で聞いてみたが、気にしないで下さいと笑われてしまった。
「それに貴女が寝床に入ってからは夜勤の騎士と交代になりますから。他の聖女様の護衛騎士もそうしています。我々は基本的には日中の警護を担当していますから」
でも、いつもよりも長く勤務してもらうってことには違いないよね?
「普段あまり貴女の側にいないのですから、こんな時くらい仕事させて下さい」
うう、ごめんねアル。
甘えてばっかりで本当に申し訳ない。
今度個別にお礼のお菓子か何か渡すべきだなとひとり考える。
「……本当は、あのふたりのように、いつもお護りしたいと思っているんですけどね」
「?何か言った?」
「いえ。黄の聖女様は倒れた後ですから、程々になさって下さいね」
「うん、ありがとう」
優しい表情と言葉に、ここにも黄華さんを気遣う人がいることを嬉しく感じる私だった。
「なんかこういうのドキドキするわね」
「私もです。紅緒ちゃんも初めてですか?」
「はい、飲み物とお菓子も。夜の飲食は太るけどね。今日は特別!」
夜、紅緒ちゃんの部屋にみんなでお邪魔してテーブルを囲う。
ちなみにちゃんとみんな夜着姿だ。
パジャマとは言えないかもしれないけど。
初体験にワクワクドキドキな表情の紅緒ちゃんと黄華さんの前に、お茶のセットや焼き菓子を並べていく。
元の世界だったらお酒やジュース、おつまみにスナック菓子といったラインナップだけど、そんなものはないからね。
ちょっとお上品だけど仕方ない。
「太るー!でも美味しいー!」
「いけないことって楽しいし美味しいのよね……」
砂糖多め然り、マヨネーズたっぷり然り。
次々とお菓子を口に運んでいく紅緒ちゃんに、黄華さんもくすくすと笑いを零している。
ずいぶん顔色も良くなったし、体調も良さそうだ。
治癒をかけたから大丈夫だとは思っているが、やっぱりゆっくり休むのも大切だからね。
アルの言うように、今日は程々にしておこう。
――――と、その時は思っていたのだが。
「だいたいねぇ!一体何だってのよそのクソババア!黄華さんが悪いんじゃないじゃない!家に相応しいだの何だのって、時代遅れも甚だしいわ!それを言うなら結婚前に子ども作ったあんたの息子をまず責めなさいよ!!」
「べ、紅緒ちゃん落ち着いて……」
怒りに任せてマシンガントークな紅緒ちゃんを、どうどうと宥めようとするが、それでもよく動く口は止まらない。
「あとねぇ、秀秋だっけ?その男と嫁も器が小さいわよね!父親の面倒見させといて遺産の分配に文句言うとか!ちっさ!あーヤダあたしだったらそんな男、願い下げだわ!」
「……紅緒ちゃん、お酒飲みました?」
いやいや、シラフですよ。
黄華さんがそう思うのも無理はないけれど、アルコールなんて一切用意してません。
「最後に父親!遺産で揉めるのなんてよくあることなんだから、死ぬ前にちゃんと根回ししときなさいってのよ!そんなんでよく社長やってこれたわね!そんなツメの甘い会社なんてすぐ倒産しないワケ!?」
だ、誰もが思ってるだろうけど故人相手に口にしにくいことを……。
それでも紅緒ちゃんの勢いは止まらない。
「そりゃ誰かのせいにすれば自分は楽なのかもしれないけどさ!でも言われた方は傷付くんだからねってこと、分かってるのかしら!?みんなみんな、そうやって全部黄華さんのせいにして、そんなの……辛すぎるよ」
最後にはうううっと泣き始めてしまった。
でも、紅緒ちゃんの言っていることは正しい。
「良い子だね、紅緒ちゃん」
テーブルに項垂れる紅緒ちゃんの頭をよしよしと撫でる。
そんな私達の姿を見て、黄華さんも徐に口を開いた。
「ありがとうございます。私の為に、泣いたり怒ったりしてくれて。……おふたりを待っている間、夢を見たんです。聞いてくれますか?」
そして、ぽつりぽつりと話し始めた。




