優しい時間
本日2話目の投稿です。
一応マリアさんと私にも水の膜を張る。
さあ、まずは土づくり。
用意してもらったスコップで土をならしていく。
肥料も混ぜたら出来上がり。
「リーナちゃん、上手だね!」
「ん、いつもあるとおじいちゃんやってるの、みてる」
おお、ひょっとしたら嫌がるかなぁと思っていた工程だったが、結構楽しそう。
ワンピースだからちょっと動きにくそうだけど、汚れる心配がないのは良いよね。
「よし、じゃあ種を入れる穴を空けるよ。指でこうやって…できたら、種を二・三粒入れてね」
「では、わたしはトマトを」
「なす…きらいだけど、やってみる」
嫌いなものこそだよね。
リーナちゃん、えらい!!
そういう事こそしっかり褒めないとね。
褒められてさらにやる気になったリーナちゃんは、次々と種蒔きを終え、水やりも率先してやってくれた。
「はい、じゃあ仕上げに…大きくなーれ、美味しくなーれってお祈りしようね」
「うん!おいしくなってね、みずやり、がんばるからね」
植物って話しかけると成長が良くなるって説、あったよね?
まあそれがなくても、育てている物への愛着が増すという意味でも、是非子どもにはやってもらいたいと個人的に思っている。
「さ、じゃあ今日はここまで。お腹も空いたでしょう?そろそろお母様とお茶の時間だよ。野菜の種を蒔いたこと、教えてあげよう?」
「うんっ!」
いやー良い笑顔だよ。
なかなか笑わないって言ってたけど、リーナちゃん、私には結構笑ってくれるよね?
マリアさんに聞いたら、それだけルリ様に心を開いているのでしょうね、と言われた。
いつか、そうやって笑顔を向ける人が増えると良いな。
「へえ、リーナが自分で?すごいわね」
「あのね、まいにち、おみずあげないといけないの。そうしないと、おおきくならないんだって」
「そう、じゃあリーナはお野菜たちのお母様ね。しっかり育ててあげてね」
「おかあさま?」
「そうよ。リーナがお世話しなかったら、お野菜にはなれないの。美味しく育つか枯れちゃうかは、リーナ次第よ」
エレオノーラさん、良いこと言う!!!
侯爵夫人様だし、土いじりなんて!と言う人も多いだろうに…。
リーナちゃんの責任感を育てるには、とっても良い話だったよね。
リーナちゃんもキラキラした目をしてる。
「さあ、お腹も空いたでしょう?サンドイッチ、食べる?」
「うん!」
お茶の時間、と言ったが、この世界で貴族の人達は昼食=お茶の時間という認識らしい。
サンドイッチのような軽食を中心に、ケーキやクッキーなども食べるらしい。
まあ、貴族でも官僚さんとか庶民は軽食だけらしいけど。
そりゃそうよね、国政に携わる人が仕事中優雅にティータイムとかあり得ない。
因みに3時のおやつは子どもだけ。
…やっぱり子どもにとって優しい食生活じゃあないわよね。
それについては追々だと思ってる。
そんな感じでエレオノーラさんとのティータイムは和やかに終わり、リーナちゃんのお昼寝の時間だ。
今日は素話の後の子守唄。
素話は、絵本や紙芝居なんかの小道具に頼らず、声のみでお話すること。
これはこれで絵に影響されず、聞き手が自由に物語の情景をイメージできるので、想像力を豊かにするのに有効だとされている。
絵がない読み聞かせはイメージつきにくいとか色々言ったけど、結局のところ、愛情がこもっていれば、子どもにとっては良いことなのよね。
私たち話し手にとっても、既存のお話を自由にアレンジしたり、声の抑揚をつけて誇張したりして楽しめるから、やっていて楽しい。
今日は覚えたばかりのこの世界の童話を、私なりにアレンジしてお話してみた。
リーナちゃんも楽しんでくれたみたいだし、良かった。
「さあ、じゃあそろそろお休みなさい。歌うね」
「ん…おや、すみ」
午前中たくさん体を動かして疲れたのだろう、歌い始めるとすぐにリーナちゃんは眠りについた。
「今日もお見事ですね。でも分かるわ。ルリ様の歌、本当に癒されますもの。他の使用人達の中にも、お嬢様のお部屋の近くを通った時に歌が聞こえて、不思議な旋律に何だか心が洗われた、なんて言う人もいるくらいですから」
"癒し"と聞くと、ドキッとする。
私が聖女だということは、自分自身、まだ信じきれていないのだ。
でも、こんな言葉を聞くと、自分が確かに人に影響を与えているのだと思い知る。
「…気のせいですよ。聞き慣れない曲だからそう思うだけで。」
「ふふ、そうかも知れませんね。でも、実際こうしてお嬢様がすやすやと眠って下さるし、それに昨日今日ととても楽しそうで、私も嬉しいんです!ルリ様、この屋敷に留まって下さって、ありがとうございます」
明るい笑顔でそう言ってもらえると、救われる。
思い悩んでいても何も変わらないし、私は私の出来ることをしよう。
「それなら、良かったです。でも私だって、マリアさん達にとても良くしてもらってるんですから。お礼を言うのはこちらの方です。ありがとうございます。あと…せっかく同い年なんだし、お互いに敬語止めない?」
「あら。ルリ様が宜しいのなら、是非。これからもよろしくね、ルリ」
私達は、顔を見合わせてくすくすと笑い合った。
こんな、何気ないことが嬉しい。
こうやって、少しずつ、嬉しいことが見つけられると良いな…。




