傍観者
すぐにアルがどこからか馬車を用意してくれて、私たちは三人で王宮へと向かった。
道中、馬車の中で私は、レオンに先日のウィルさんとのやり取りを話していた。
「ーー確かに、黄の聖女様からはルリや赤の聖女様のように、元の世界への未練がある様子を見たことがないな」
「副団長は黄の聖女様を"自分を大切にしていない"と言っていましたね。恐らく、元の世界で何かあったのでしょう」
レオンもアルも、同じことを考えているみたいだ。
そういえば三人でいる時も、会話の端々で向こうでの生活のことが出てきてもおかしくないのに、黄華さんからその話題が出たのはつい最近だ。
しかもはぐらかされた。
「やっぱり、あの時もう少し踏み込んで話を聞いておけば良かったのかな……」
思うのは、後悔ばかりだ。
「いや、その時に聞いていたからといって話してくれたとは限らない。あの時ウィルも言っていたが、本人が言いたくなった時でないと本音を話してもらえない可能性がある」
レオンの言葉は、どこか経験談のように聞こえる。
「それってーー」
「着きました」
何気なく聞こうと思った言葉を飲み込み、馬車を降りる。
レオンを先頭に、早足で廊下を歩いていく。
「確か今日は第三の連中と訓練を行っているはずだ」
「え?第二のみんなは?」
「先日合同で訓練を行った際に、イーサンが大層お二人を気に入ってな。第二だけで囲うなと。たまには俺達だけの訓練にも参加しろと要請があったんだ」
ああ……なんかものすごく言いそう!!
ちらりとうしろを見ると、アルも眉間にしわを寄せていた。
多分、同じことを考えているんだろう。
「とにかく、お二人とも第三の訓練場にいるはずだ。急ごう」
レオンの言葉にこくりと頷きを返す。
黄華さんーー。
行き慣れたところとは違う、第三騎士団の訓練場に着くと、思った通り、紅緒ちゃんと黄華さんが騎士さんに混じって訓練をしている最中だった。
とりあえず緊急の事態ではなかったことにホッとする。
第二騎士団とは違って、ふたり以外は魔法なしの戦いだ。
どことなく騎士さんも肉体派な人が多い気がする。
振りかざす剣の勢いはすごく、剣同士がぶつかる音も激しい。
そんな中、紅緒ちゃんは相手の気を逸らすように攻撃魔法を打ち込んでいる。
そして黄華さんはというと、後方でバリアなどの支援魔法を施していた。
相手が攻撃するタイミングを図って呪文を唱えているのが分かる。
「ーーすごい」
「ああ。あの方は周囲をよく見ており、欲しいタイミングで支援魔法をくれるんだ。あれは恐らく、元々気配りができる性格からなのだろう」
ゲームが好きだったという紅緒ちゃんも、かなりのカンの良さで仲間の騎士さんをサポートしているが、それにしても黄華さんの活躍には驚きだ。
しかしその時、僅かだが黄華さんの表情が歪んだ。
「!いけない、止めて!!」
がくりと足の力が抜けたように、黄華さんの体が傾く。
それに気付いた紅緒ちゃんからも、悲鳴のような声が響いた。
倒れるーー!そう思った時、大きな体が黄華さんを支えた。
「おっと。あっぶねーなぁ。もう少しで倒れるところだったぜ」
イーサンさんだ。
「よ、良かった……」
安堵からへなへなとその場にへたり込む。
だが、気を失っているのか黄華さんはぴくりとも動かない。
すると、護衛騎士のリオ君が血相を変えて黄華さんの元へと駆け寄ってきた。
「オウカ様!」
「大丈夫だ。気を失っているが、寝不足か何かか?ったく、仕方ねーな」
やれやれとイーサンさんは、黄華さんを簡単に抱き上げた。
え!?ちょっと待って!お姫様抱っこ!?
非常事態だけれど、不謹慎にもドキドキしてしまった。
「……ルビー団長、オウカ様なら僕がお運びします」
「ほぉ?まあ気にするな。お前じゃ体格に差がなさすぎて大変だろうからな」
ニヤリと挑発するようなイーサンさんに、キッと睨みつけるリオ君。
おや?これはまさか……。
「ルリ、私達も行こう。赤の聖女様と一緒に」
「あ、そ、そうね。紅緒ちゃん!一緒に黄華さんの所に行こう!」
訓練場の紅緒ちゃんにそう声をかけて、私達は医務室へと向かったのだった。
「なかなか目、覚まさないわね」
「うん……でも治癒が効いたのか、表情が穏やかになって良かった」
あの後、結局黄華さんはそのままイーサンさんに医務室へ運ばれ、レオンのはからいで私達三人だけにしてもらった。
もちろん護衛騎士のみんなは部屋の外に控えているけれど。
うなされて辛そうだった黄華さんに、私は治癒をかけた。
やはり寝不足だったのだろうか、息遣いが穏やかになったかと思うと、ぐっすりと眠りについてしまった。
「瑠璃さん、来てくれてありがとう。私一人だったら、何をすれば良いか分からなくてオロオロするだけだったわ」
真っ青な顔をして取り乱していた紅緒ちゃんも、黄華さんの容態が落ち着いて来ると、いつもの調子を取り戻していた。
「昨日から体調悪そうだったのに、止められなくて……」
「そっか、だからウィルさんが……」
え?と聞く紅緒ちゃんに、ウィルさんとのやり取りを話し、ここに来るまでの経緯を説明した。
「ーーなるほどね。確かに言われてみれば、黄華さんって、こっちに来たばかりの頃からどこか傍観者でいるのよね」
私達の推測に紅緒ちゃんも頷き、召喚されたばかりの頃の話をしてくれた。
二人は揃って王宮の召喚の儀式の間に喚び出されたこと。
不安で泣くことも多かった紅緒ちゃんに、黄華さんがいつも側にいてくれたこと。
大丈夫、を繰り返して、自分はちっとも不安な様子や帰りたい素振りを見せなかったこと。
紅緒ちゃんが騎士団の訓練に参加したいと言い出した時も、やりたいようにやれば良いのではと、反対も賛成もしてくれなかったこと。
「そんな態度に救われたことも多いけど、今になって考えてみると不自然よね。あ、あと関係ないかもしれないけど、黄華さんって召喚された時、ーーーー」
「え?」
「ん……」
紅緒ちゃんの言葉に目を丸くしていると、ベッドの黄華さんが身じろぎをした。




