争奪戦
「お、今日はルリも手伝ってくれるのか?レオンハルト様が来るんだろ?」
「そうなんです。お邪魔でなければ、良いですか?あと、終わったらお菓子も作らせて頂きたくて」
テオさんに手伝いを申し出ると、助かると笑って、すぐに了承してくれた。
今日のメニューは牛のステーキにポトフとサラダ、それにふわふわに焼いたパンだって。
春とはいえ、朝夕は冷えるからね、まだまだ温かい料理が美味しい季節だ。
「どうせなら新しいサラダ、教えてくれないか?他の二品はもう決まっちまってるから変えにくいが、サラダなら大丈夫だからな」
「分かりました!うーん…久々にシーザーサラダが食べたいかも」
リーナちゃんは卵が好きだし、温玉とベーコンが乗っているから、普通のサラダよりレオンのような男性も満足できる一品だ。
「ほう?初めて聞く名前だな。よし、作り方を教えてくれ。おい、みんなも聞いておけよ。ラピスラズリ家の定番になるかもしれんからな」
はははとテオさんが笑うと、料理人さん達が集まってきた。
確かにちょっとオシャレなサラダだけど、作るのは簡単だから、そんなメモとか出さなくても良いんですよ?
野菜は元々予定していたレタスやキュウリ、ベビーリーフにトマトで十分だ。
それにカリカリに焼いたベーコン。
ちょうど肉厚の物があったので、それを使わせてもらうことに。
あとは、温玉か……。
「オンタマ、って何だ?」
テオさんが首を傾げる。
そうですよね、知りませんよね。
でも、一度知ったら病み付きになるんですよ?
「作り方はとっても簡単です。お湯につける、ただそれだけ」
私の調理法にみんなが……は?と口を開けた。
「いやいや、ルリそれはゆで玉子だろ?」
「うーん、ゆで玉子の一段階前、って感じですかね。まあ聞くより見た方が早いです。まず、お鍋に水を1L沸騰させます」
ゆで玉子の一歩手前ってどんなんだ?と言いながらテオさんはじめ料理人の皆さんがザワつく。
ふふ、きっとびっくりするだろうな。
「沸騰しましたね。じゃあ火を止めて水を200cc入れます。少し混ぜたら、玉子を投入!とりあえず4つ入れますね」
何で水?ゆで玉子じゃないの?と言う声がちらほら囁かれる。
「蓋をして15分ほど待てば完成です。あ、今のうちにお菓子の下ごしらえしても良いですか?」
「あ、ああ」
テオさんが呆気にとられてるけど、本当にこれだけなんだもの。
シンプルイズザベスト。
簡単美味しいは正義!
そんなこんなでレオンのためのブランデー入りフルーツケーキの用意をする。
食後の紅茶に合うはずだし、お土産にも良いからね。
紅緖ちゃんもこの前美味しそうに食べてくれてたし、喜んでくれそう。
リーナちゃんと黄華さんはスノーボールとか好きかな?
簡単だし、お土産にするには可愛くて最適だ。
あとはレイ君も好きだし、フルーツゼリーも作ろう。
そんなことを考えながら材料を計量していると、あっという間に15分が経った。
玉子をそっと取り出すと、やはりゆで玉子と同じじゃないかと、不思議そうに見つめられた。
「では割ってみますね」
パカッと割って出てきたものを見て、みんなが目を丸くした。
「ええっ!?」
「何だこれ!?」
「黄身は固まってるのに白身がトロトロ……」
ふふふ、予想通りの反応ありがとうございます!
「おいルリ、どうなってんだこりゃ。普通黄身より白身の方が早く固まるハズだろ?何でこれは逆なんだ?」
「えーっと、確かに固まり始める温度は白身の方が低いんですが、"完全に"固まる温度は黄身の方が低いんです。このお湯は、丁度その絶妙な温度になっているんですよ。その証拠に、白身の部分も少し固まってドロッとしてるでしょ?」
なるほど……!とテオさんも目からウロコのようだ。
「まあ解説はこの辺にして。どうぞ、食べてみて下さい」
出来立ての温玉に塩を少し振ってテオさんに渡す。
テオさんがおそるおそるスプーンで黄身を割ると、程よく半熟になった黄身がトロリと流れる。
うーん、美味しそう!
テオさんも同じように思ったのか、スプーンに乗せた温玉を勢いよく口に入れた。
「!う、うまい!」
カッと目を見開いたテオさんに、他の料理人さんたちも温玉に手を伸ばす。
……が、温玉は残り三つ。
「み、みなさん?」
三つの温玉を前に、ものすごい形相で睨み合う料理人さんたちに、すぐ作れますから!ケンカしないで!と慌てて仲裁に入る私だったーー。
「へえ、それは大変だったな」
「ウチの料理人たちも大人げないわねぇ」
夕食の席で温玉争奪戦のことを話題に出すと、エドワードさんとエレオノーラさんが可笑しそうに笑った。
「でも、本当に美味しいですよこのサラダ。確かにこの玉子はクセになります」
「わたしも、このたまごすき!」
レイ君とリーナちゃんも気に入ってくれたようだ。
厚めに切ったベーコンに玉子が絡んで、とても美味しく出来たと思う。
「これなら野菜もたくさん食べられそうだな。リーナ、ちゃんと食べて偉いぞ」
約束通り夕食時に来てくれたレオンも、褒めてくれた。
ホントだ、リーナちゃん今日はサラダが進んでる。
結局あの後、大量の温玉を作らされ、見習いの料理人さんは玉子の追加まで買いに行っていた。
一人三つくらい食べたんじゃないかな?
でもその量はどうなのかな?と思ったので、玉子の食べ過ぎには注意しておいた。
うーん、温玉恐るべし。
「今日は食後のデザートもルリが作ってくれたんですって?楽しみね」
エレオノーラさんの微笑みに、私も嬉しくなる。
自分の作ったものをこうやって喜んでもらえると嬉しいよね。
「はい!二種類用意したので、良かったら少しずつ両方召し上がって下さいね」
こんな風に穏やかな時間を大切にしたいな。
……でも、自分の力とも向き合わないと。
夕食が済んだら、レオンにちゃんと話そう。
情けない、って言われるかな。
覚悟が足りない、とか。
それでも、こんな私を受け入れてくれるかな。
そうだと良いな……。
前回のシリアス吹き飛びました……
温玉で一話終わってしまいました(´・ω・`)笑




