外と内
さて!今日は久しぶりのお休み。
最近私も忙しくなってきて、なかなかリーナちゃんとゆっくり遊ぶ機会が持てなかったから、前々から約束していたのだ。
「今日は一日リーナちゃんと一緒だからね!たくさん遊んでくれる?」
「うん!」
わあ、満面の笑みととってもいい返事。
嬉しい、って全身で表現してくれているのが分かる。
本当に素直で可愛いんだから。
思わずリーナちゃんの頭をなでなで、では済まず、わしゃわしゃと撫で回した。
「るりせんせい、いたいよー!えへへ、まずはね、いっしょにかみしばいとうたのやつ、れんしゅうしたいな」
「あ、前に私が作ったやつ?そっか、リーナちゃんもやってみたくなったのね」
前のやつ、とは、この世界に来たばかりの頃、初めてフォルテで弾き語りをした、くまと女の子が出てくる歌の事だ。
実はそれに合わせた紙芝居も作ってあり、何度かリーナちゃんの前でも披露している。
フォルテや紙芝居を読むのはともかく、歌詞はもうほとんど覚えているし、話に合わせて歌うことはリーナちゃんにも出来そうだ。
読む人、歌う人、弾く人って分担してやれるからね。
「じゃあ一緒にフォルテのある部屋に行こうか」
「はーい!」
元気よく手を上げて答えるリーナちゃん。
フォルテを使っていつか弾き語りも出来るようになるかもなぁ。
この世界にはないらしい、"弾き語り"。
幼少教育の場を作るなら、あった方が良いとは思うのよね。
まあ日本みたいに園にフォルテを常設できるか?って話はあるけど。
電子ピアノやキーボード的なものなんて、この世界で見たことないし。
とりあえず貴族のご家庭から広めるとか?
うーんと考えていると、繋いでいた手がくいと引かれる。
「るりせんせい、どうしたの?」
ちょこんと上目遣いで尋ねられる。
可愛い。
「何でもないの。ごめんね、せっかくリーナちゃんと一日一緒にいるのに、考え事なんてしちゃだめよね」
そうよね、今日は仕事のことは考えずにリーナちゃんと遊ぶことを楽しもう。
器楽室に着くと、フォルテの椅子に並んで座る。
「じゃあまず私も弾きながら一緒に歌うね。慣れてきたらリーナちゃん一人で歌ってみようか?」
「うん!」
目をキラキラさせ、ワクワク顔で歌い出す。
この歌に出てくる女の子も、きっとこんな感じなんだろうなって思う。
好奇心旺盛で、明るくて、だけど優しい。
そりゃくまさんだって忘れ物を届けてあげたくなっちゃうよね。
私が描いた紙芝居の女の子も、実はリーナちゃんをモデルにしている。
もう少し大きくなったら、こんな可愛らしい子になるかな?と想像しながら描いた。
それをラピスラズリ家の皆さんに伝えると、とても喜んでくれた。
エレオノーラさんなんて『あなた!このお話を本にして出版しましょう!』とか言ってたし。
またまた~って返しておいたけど……冗談、だよね?
ま、まあとにかくお墨付きを頂けた自信作だ。
リーナちゃんも自分がモデルのお話とあって、すごく気に入っている。
自分が演じ手をやってみたい!と思うのも当然かもしれない。
「ーーうん。リーナちゃんすごいね、歌詞も完璧!」
「えへへ」
ちょっぴり頬を染めて照れ笑いするところも、相変わらず可愛い。
一緒に孤児院に行けるようになったら、子どもたちの前で披露するのもいいかもしれない。
そこで以前、大きくなったら私の手伝いがしたいと言ってくれたことを思い出す。
人見知りもほとんどなくなったし、エレオノーラさんについていってお茶会にも参加しているから、お友だちも増えたらしい。
誕生日パーティーのこともあって、リーナちゃん、人気があるんだって。
それにフォルテのレッスンや勉強も順調で、令嬢としてのスキルも上がっている。
"私の手伝いをする"が実現するかは分からないけれど、ひょっとしたら私なんかよりもずっと素敵な先生になるかもね。
「?せんせい、どうかした?」
「ううん、楽しみだなぁって思っただけ」
あなたの、成長が。
「リーナちゃん、大好きだよ」
「!わたしも、るりせんせいだいすき!」
元の世界で一緒にいられなかったあの子達の分まで、ずっと見守っていけたら良いな。
そんなことを思いながら、私はリーナちゃんをぎゅっと抱き締めた。
その夜の夕食の席。
パンをかじりながらリーナちゃんがうとうとと船をこぎ始めた。
「おや?今日はかなり眠そうだね、リーナ」
「私と一日中いるのが久しぶりで、はしゃいじゃったみたいで」
そうかとエドワードさんが笑うのに、少し申し訳ない気持ちで頷く。
「ではリーナは先に休むと良いわ。マーサ、お願いね」
「はい。リリアナお嬢様、参りましょう?」
エレオノーラさんの言葉にマーサさんが声をかけると、うーん?と目を擦りながらリーナちゃんが席を立つ。
フォルテにお料理にお散歩にと盛りだくさんだったからね、疲れたのも無理はない。
「おやすみ、リーナちゃん」
「ん……みんな、おやすみなさい」
とろんとした目で手を振り、リーナちゃんはマーサさんに手を引かれながら退室した。
よく眠れると良いね。
パタンと食堂の扉が閉まると、エドワードさんが話しかけてきた。
「ところでルリ、明日は王宮で聖属性魔法の特訓らしいね?」
「あ、はい。シーラ先生と、あとカルロスさんにも教えて頂くことになっています」
そう、カルロスさんは私たち聖女を抜かすと、この国で一番聖属性魔法のレベルが高い魔術師なのだ。
というわけで、二人に教えてもらいながら回復魔法の練習をする予定だ。
「カーネリアン殿ですね。彼、魔法はとても素晴らしい使い手だと聞いています。頑張ってきて下さいね」
レイ君もカルロスさんのことは知っているみたい。
失礼だけどそんな風には見えないが、結構優秀な人なのね。
まあ明日はカルロスさんが先生な訳だし、きちんと教わろう。
うん、とこっそり気合いを入れると、エドワードさんが苦笑いをした。
「魔法はか。なかなか手厳しいな、レイモンド」
「尊敬できるのは、その点に関してだけですからね。素行は褒められたものではないので」
ピシャリとした言葉に、エレオノーラさんもそうねと肯定する。
「けれど、あの方意外と女性関係のトラブルは少ないのよね。あれだけとっかえひっかえしているのに、不思議だわ」
うーん?と首を傾げるエレオノーラさんは、どうやらカルロスさんを好ましくは思っていないようだ。
「さて、何故だろうね?まあ、外から見ているものと内の真実は違うこともままあるからね。ルリも、彼と一度向き合ってみると良い」
何かを知っているのかのようなエドワードさんの口ぶりが気にはなったが、はいとだけ返事をした。
外から見ているものと真実は違う、か……。




