聖女会議7
「ルリ様……平穏って言葉の意味、ちゃんと分かっておられます?」
「ルリ、あなたついに女神様までタラし……いえ、何でもないわ」
「……もう俺は、お前から何を言われても驚かないぞ」
女神様との突然の出会いについて、報告をするため王宮に出向いたその日、私はそんな言葉を浴びせられた。
順にアル、シーラ先生、そしてカイン陛下だ。
確かにアルにはものすごく苦労させてます、ごめんなさい。
シーラ先生!タラシこむって言おうとしましたよね!?
……陛下、お願いですから胡乱な目付きで私を見るのは止めて下さい。
三者三様のリアクションに、私もこっそり溜め息をつく。
いや、原因が私っていうのはちゃんと分かってますよ!
さすがにやらかしている自覚はある。
「お前は本当にそれで良いんだな?」
陛下は難しい顔をしながらも、もう一度私の気持ちを確認してくれた。
「はい。レオンとも、ちゃんと話をして決めました。正直、まだどうやって力を使えば良いのか分かりませんし、討伐とか戦闘の知識もないのでご迷惑をお掛けするかもしれませんが、精一杯やらせていただきます」
背筋をぴんと伸ばしてそう伝える。
出来るだけ足手まといにはなりたくない。
すぐに紅緖ちゃんや黄華さんのようにはいかないだろうし、恐くないわけではないが、やると決めたのなら、ちゃんとやり遂げたい。
「……別に戦闘で活躍しろとは思っていないが」
「へ?」
これからは戦いについても勉強しないと!と意気込んでいた私は、陛下の言葉に出鼻を挫かれたのだった。
「成る程、陛下もよく考えていらっしゃるんですねぇ」
「あいつ意外と頭も回るのよね」
黄華さんと紅緖ちゃんが感心したように言う。
報告の後、陛下が二人とも話してみてはどうだ?と言ってくれ、シーラ先生からも女神様の事を話す許可を頂けたので、急遽このお茶会が開かれた。
そう、失礼だけど陛下は意外と気配りやさんだと思う。
本当に失礼だけど、見た目は冷たそうなのに実は優しい人なんだろうな。
紅緖ちゃん、見る目あるね!
「……何であたしをそんな目で見るのよ」
うんうんと紅緖ちゃんに視線を送っていると、ものすごく嫌そうな顔をされた。
正直に言うと絶対怒られるので、何でもないと答えることにした。
「それで、女神様とやらのお言葉もあるから、遠征にはついて行くことになったんですね。ただ瑠璃さんはとりあえず戦闘には加わらず、テントで待機されることになるということですか?」
「あ、そうなんです!お祓い?の仕方も分からないし、とりあえず怪我人の手当てや回復役に回ることになりました」
紅緖ちゃんの気配を察して黄華さんが話題を変えてくれた。
こちらも普段は面白がることが多いけど、意外と気配り上手なお方だ。
そして陛下が提案してくれたのは、私の力の使い方について。
『話を聞いていると、女神はお前の力で魔物を一匹ずつ倒せと言った訳ではないのではないか?"魔物の大量発生を祓う"ならば、何かしらの原因となる核のようなものを浄化する、という意味合いに思えるがな』
確かに、女神様は"有効な力"と言っていた。
一匹ずつ倒すこととは違う気がする。
ということで、もし大量発生が起きた時について行くにしても、戦闘の役には立てなさそうだし、救護用のテントで待機しましょうとなったのだ。
回復や解毒の魔法なら使えるし、役立たずにはならないだろう。
怪我に対しての回復魔法はほとんど使ったことがないので、騎士団の訓練にお邪魔してシーラ先生に教えてもらいながら練習することにした。
あと、ひょっとしたら戦闘には加わらなくてもその場にいることにはなるかもしれないので、騎士さんたちの動きも見ておいた方が良いと言われた。
みんなの邪魔にならないように護衛されていないといけないからね。
恐くなって変な方向に逃げちゃう、とか最悪だし、戦闘の雰囲気には慣れておいた方がいい。
「女神様、ねぇ。なんかいかにも異世界って感じね。あ、ということは、遠征中に瑠璃さんの手料理が食べられるのね!?しかも作り立て!」
「あ、うん。食事係も引き受けるつもり」
途端に紅緖ちゃんの機嫌が良くなる。
テントでぼーっと待ってる訳にはいかないからね、それくらいさせて頂きますよ。
「瑠璃さんに何かあっては大変ですからね、遠征に行く際は十分気をつけて下さいね」
「?そりゃ気を付けますけど、どうして私?」
聖女だから?でもそれなら二人だってそうだろう。
黄華さんの言い方に首を捻ると、にっこりと微笑まれる。
「瑠璃さんが怪我でもしたら、団長さんが大変なことになりますからね。あの方、意外と……いえ、必ずちゃんと守られていて下さいね」
「ああ、確かに。あの超美形な見た目のわりに戦闘中はかなり……い、いやなんでもないわ!そうね!瑠璃さんは安全なところにいて頂戴!」
……二人の様子から察するに、どうやら戦闘中のレオンに何かあるらしい。
私の知らない顔があるんだろう、きっと。
でもそれを言うなら……。
「それなら紅緖ちゃんでしょ。陛下が悲しむよ?」
「な、ななな何でよ!別に私がケガしたってあいつは何とも思わないわよ!」
「いやいや、この前だって結局サンドイッチ渡したんでしょ?あの後どうなったの?」
「ああそれでしたら、聞いたところによると陛下がーー」
「ストーップ!ちょっとあんた何を言うつもりよっ!!」
「そなたら、仲が良いのぉ」
……ん?
わーわー言い合っていた私たちだが、突然入ってきた声にピタリと動きを止めた。
そして三人同時に声のした方を向くと、そこにちょこんと座ってお茶を飲んでいたのは。
「赤と黄のは初めましてじゃの。わらわはこの国の創世の女神じゃ。邪魔しておるぞ」
何を隠そう、話題の女神様、その人だった。




