試食会
イーサンさんによると、呼ばれていたのは彼だけだったらしいのだが、ここに来る前に仕事で第二騎士団の団長室に訪れた際、レオンとウィルさんも誘ってみたのだという事だ。
丁度仕事が一段落したので、誘いに乗ったのだとレオンが言う。
「ところで…カーネリアン殿とは、大丈夫だったか?」
「え?カルロスさん?うん、まあ、ちょっと個性的だなーとは思ったけど、普通に仲良くやってるよ」
小声でそう聞いてきたレオンは、少しクセのあるカルロスさんと上手くやれているか心配してくれたらしい。
でも結構楽しかったし、嫌な人ではない。
そう思っていたら、黄華さんに手招きされ耳を貸すよう言われた。
「鈍いですねぇ、彼に言い寄られなかったかと心配されているんですよ」
「!?え、あ、全然!そんなことないから大丈夫!!」
横からそっと囁く声に、そうなんですか!?と聞き返す。
すると、レオンの隣でウィルさんが呆れたような視線を送ってきた。
「相変わらずですね貴女は…これはレオン、苦労するぞ」
「ぐっ…」
悔しいけど反論できない。
これには黄華さんもフォローできないのか、困ったように微笑むだけだ。
「良いんだ、ルリも少しずつ気を付けようとしてくれているしな。それに、私は誰も彼もが自分に気がある、と勘違いするのもどうかと思うからな」
「まあ、確かにな」
「そうですわね、それはちょっと…」
これにはウィルさんと黄華さんも納得したように頷いてくれた。
流石にそこまで自意識過剰になるつもりはないけど、私も無防備にならないように気を付けなければいけないのは確かだし、ウィルさんの忠告は甘んじて受け入れよう。
「それで、そっちの話はもう終わったのか?そろそろ食べるぞ。俺は腹が減っている」
私達がこそこそと話し合っているのをじっと待ってくれていたイーサンさんが、話し終わったのを見て、声をかけてきた。
「ああ、無事を確認できたし、問題ない。…一応、感謝する」
「良いってことよ。約束、守れよ」
ニヤッと笑ったイーサンさんに、レオンは苦い顔をし、ウィルさんは苦笑した。
約束?一体どうしたんだろう?
レオンに聞いても何も教えてはもらえず、私はただ首を傾げるだけなのであった。
「リリアナ!」
「あれ、おとうさま?」
エドワードさんの所に差し入れに行こうと、リーナちゃんと準備をしていると、当のご本人が現れた。
ははあ、さては待ちきれなくて来ちゃったかな?
「レオン達もいると聞いたからね。折角だから皆で食べた方が美味しいだろう?」
「うん!あのね、リーナ、おとうさまのためにあまいのもつくったの。イチゴサンド、すきでしょう?」
「ああ、好きだよ!お父様の為に好きなものも作ってくれるなんて、リリアナは優しいな。ありがとう!」
それらしい事を言っているが、顔が緩んでいる所を見ると、やはり待ちきれなかったが正解なのだろう。
まあでもリーナちゃんの天使っぷりはすごいからね、仕方のない事ですよ。
「それにしても大所帯になってしまったわね…」
意外な大人数になってしまい、試食用にシーラさんが借りてくれていた部屋もぎゅうぎゅうとなり、ベアトリスさんが苦笑した。
たくさん作ったとは言え、男性が多いのでお腹が満足するまでには至らないのではないだろうか?
「ああ、量の事を心配されているようですが、私の分は気にしなくても結構ですよ。予定外だったでしょうから」
「ルリ様、私もご遠慮します。ルビー団長の機嫌が悪くなると厄介なので、そちらに回して差し上げて下さい」
察しの良いウィルさんとアルがそう言ってくれたが、そんな訳にはいかない。
「材料が余っているなら、作らせてもらったら?ベアトリスに聞いてみると良いわ」
「あ、そうですね。シーラ先生、ありがとうございます」
そこでベアトリスさんに相談すると、そんな事気にしなくて良いのに、と言った後、材料はまだあるから使って良いわよ、と追加で作る許可をくれた。
「私もお手伝いしますよ、具を乗せるだけなら」
「あ、あたしもやる。折角習ったんだし、忘れないようにもう一回作りたい」
「わたしも!るりせんせいのおてつだい、する!!」
黄華さんと紅緒ちゃん、それにリーナちゃんも一緒に作ってくれる事になった。
うん、四人でやればすぐに戻って来れそう。
先に食べていて下さい、と言い残し、私達四人と護衛騎士の皆は厨房に向かった。
「リリアナの手作りサンドイッチ、今日も美味い!さすが私の娘!!」
「良かったですね、兄上」
「本当に美味しいですよ。それにパンのカットもとても綺麗に出来ている。…一部、愉快な見た目のものもありますが」
「あ、それオレが作ったやつ。見た目はアレだけど、美味いと思うよ?」
「ああ、私は遠慮します。腹ぺこのルビー団長にどうぞ。何でも美味しく食べてくれると思いますよ」
「アクアマリン副団長もひどい!!」
聖女達が追加分を作りに退室した後、残された者達はお言葉に甘えて、先にサンドイッチを食べていた。
「それにしてもルリとリリアナが作ったものは相変わらず美味いな。…それで、シーラ。あの四人がいない場を作って、私達に何か話でもあるのか?」
レオンハルトの呼び掛けに、ご明察、とシーラはにっこりと微笑んだ。
「まさかこの面子が揃うとは思っていなかったのだけれど、丁度良い機会だから一応報告をね。私、ルリと話をしたわ。他のお二人には随分前に話していたのだけれど、ルリとはなかなか機会がなくてね。それで、決めたの。私、シーラ=アレキサンドライトは、何時如何なる時も、聖女達の味方でいると。彼女達を害する者がいたら、私はそれを許さない」
ひゅ、とシーラを纏う空気が変わって、誰のものだろうか、ごくりと息を飲む音が聞こえた。
「特にルリ、彼女は王宮の外にいてなかなか行動の把握が難しい。ラピスラズリ侯爵、レオン。貴方達が必ず守りなさい。王宮や侯爵家の"影"やアルフレッドの魔法が付いている事は承知しているけれど、もしもがあるわ。…彼女達には、幸せになってもらいたい」
シーラの言葉に、レオンハルトとエドワードは深く頷く。
何があっても彼女を守る、レオンハルトは心の中でそう呟いた。
「ーーーで?それを俺の前で宣言した理由はあるのか?」
ずっと黙って食べていたイーサンの、何処か試すような声と表情に、シーラは眉間に皺を寄せた。
「相変わらず無礼な奴ね。…貴方、余計な事はしないでよ。彼女達を利用しようなんて考えないで頂戴」
「はっ!無礼なんて今さらだ。それに、俺は俺のやり方でいく。指図はされない」
コイツを呼ぶのを許可しなければ良かった…とシーラはさらに顔を顰めた。
「あの、団長。何でオレにまで?」
「この先、関わる機会が増えるだろうから、一応ね。いつもの調子で口説こうとしているようだけど、彼女達に近付きたいのなら、相当な覚悟を持つ事ね。半端な気持ちで近付いて良い女達ではないのよ」
普段の行いを知っているシーラの、釘を刺すような言葉に、カルロスは参ったな、と頬を掻いた。




