お料理教室
ほぼ料理はしていません笑
「さて、とりあえず"普通に作る"の方は皆さん出来たみたいですね。ではシーラ様、ルリ様、お願い致します」
「ええ、"鑑定"」
みんながそれぞれ作ったサンドイッチに一つずつシーラ先生が鑑定をかけていく。
一応その後に私も鑑定を。
効果が低いと鑑定にも表れにくいかもしれないから。
"特に想いを込めずに"って意外と難しいと思うんだけど、お喋りしたりわちゃわちゃと色々あったからか、みんな出来ていたみたい。
回復効果があったのは、私の作ったものと、微量ではあるが黄華さんとカルロスさんのものからも出た。
魔法レベルが私はMAXで黄華さんが15、カルロスさんは10らしいので、恐らくレベルの高い三人だけとなったのだろう。
そして具を挟むだけでも"作った"と認識されるらしい。
これはかなり重要な事だ。
因みに紅緒ちゃんの魔法レベルは5、リーナちゃんは2である。
「見た目と味は兎も角、カルロスのにも効果がつくのね」
「団長ひどいですよー。オレ、初めてにしては結構上手くないすか?」
「…自分でお食べ」
にっこりと微笑むシーラ先生。
うん…ちょっと、いえだいぶ盛り付けが個性的ですからね。
「では続きまして"想いを込めて"作ってみましょう。各自、大切な"誰か"を思い浮かべて、その人に作るつもりでね。レシピは先程と同じですから、少しは気持ちを込める余裕もあるはずですよ。難しい所は私かルリに聞いて下さいね」
「え。じゃーオレ、ルリに手伝っ「却下」
素早くアルが私とカルロスさんの間に立った。
…流石エリート護衛騎士様だ。
ありがとう、アル。
ちえー、と言ってカルロスさんがすごすごと元の場所に戻る。
でもあの人、無理矢理とか、嫌がる事はしないんだよね。
意外と良い人かも?
「ああ、因みに作ったサンドイッチは、そのお相手に渡しても良いですし、こちらが用意した試食係に与えても宜しいですよ」
「え、まじで?うわー誰に作ろっかな。書記官のクリスティーンかなー。それとも魔術師団のイザベラかなー」
…前言撤回。
やっぱり女の敵だわ。
さてそれはともかく、誰に作るか、って結構重要よね。
リーナちゃんはもう決まっているから良いとして、二人はどうするんだろう?
ちらりと紅緒ちゃんと黄華さんを見ると、丁度二人と目があった。
「瑠璃さんは当然団長さんに、ですわよね」
「あ、えっと、はい。紅緒ちゃんは?」
「…別に。アルバートにでも作ろうかしら」
おや?ほんのり顔が赤いけど誰を思い浮かべたのかな?
にまにまと視線を送ると、紅緒ちゃんが顔を顰めた。
「何よっ、ルリさん顔、うるさい!」
「か、顔!?」
「自分は恋人がいるからって余裕ですよねぇ。さて、私もどうしましょう?」
うーん、と黄華さんが悩み始めると、またもやカルロスさんが近寄って来た。
「なになに、誰に作るか悩んでるの?じゃあオレに作ってよ。女の子の手作りって良いよね~」
「…別に構いませんよ。と言っても私は挟むだけですけどね」
「え。まじで?いいの?」
「はい、何の具がお好きですか?」
さっき抗議してたのに、結局女の子の手作りが良いんですね?と思っていると、意外にも黄華さんが了承した。
と言うか、黄華さんカルロスさんのお相手、すごく上手だ。
こうして見ると、カルロスさんも普通に明るい人懐っこい人って感じ。
「まじで嬉しい。オウカ、ありがとう!楽しみにしてる」
あ、笑顔も良い。
話しやすい雰囲気のせいか、黄華さんって結構王宮の人にも懐かれてるのよね。
情報収集の為です、って聞いたことあるけど、聞き上手だからじゃないかな?
そう考えると黄華さんもモテそうだよね。
ああやって普通に話してると、あの二人もお似合いの恋人同士に見える。
おや?これはひょっとするとひょっとするのかな?
「…ねえ、あの二人、結構良い感じじゃない?」
「あ、紅緒ちゃんもそう思った?実は私も…」
「瑠璃さん、紅緒ちゃん?よからぬ事を考えていらっしゃるみたいですが、余計な事はしないで下さいね?」
「ひっ!は、は~い」
「わ、分かってるわよ!」
黄華さんから黒いオーラが見えた気がして反射的に紅緒ちゃんと抱き合う。
危ない危ない、黄華さんって怒らせちゃいけない人だった。
「あの…聖女様方も、今日は恋する乙女のお料理教室ではないのですが…。お決まりになりましたか?」
「「ご、ごめんなさい!!!」」
こめかみピクピクさせているベアトリスさんに、私と紅緒ちゃんは声を揃えて謝ったのだった。
後ろでシーラ先生が笑いを堪えているのか見えたが、ベアトリスさんが恐くて何も言えなかった。
「さあ、では皆さん作りましょう!お仕事ですよ、お仕事!!はい紅緒ちゃんも頑張って~」
半ば無理矢理お仕事モードに切り替えると、リーナちゃんがとてとてと近寄ってきた。
「るりせんせい、おとうさまのために、あまいやつもつくっていい?」
「もちろんよ、リーナちゃん!ジャムサンドとフルーツサンドも作りましょう!!」
「わーい!!」
ここでもリーナちゃんの可愛さは通常通りだ。
リーナちゃんのお陰でほっこりした空気になった事だし、さて私もレオンに食べてもらえるように心を込めてサンドイッチを作りましょう!
「…ああして見ると、本当に普通の女性達だな」
「うん?ああ、聖女様方の事?そうだね、オウカ様も普段は少し神経を尖らせている時があるけど、あのお二人と一緒の時はリラックスしているように見えるよ」
「…ルリ様といると時々忘れそうになりますが、彼女達は異世界から突然転移させられてきた方々です。警戒するのも、無理のない事でしょう」
ルリ達とは少し離れた所で、護衛騎士の三人はその様子を眺めていた。
表情豊かな聖女達は、こうして見ると異世界から来たとはとても思えないくらい、自分達の身近な女性とそう変わらなかった。
「陛下は言っていた。必ず彼女達を守れ、と」
「僕さ、最初は聖女様なんて言うから、どうせお高くとまってるんだろうなって思ってたんだ。でも、あの三人って、何て言うか…良い意味で"普通"だよね」
「ええ。しかし、その力は本物です。それと、人を惹き付ける力も半端なものではないと思いますよ。…貴方達はまだ行動範囲がほぼ王宮だから良いかもしれませんが」
これまでのルリの行いを思い出してクラリと眩暈を覚えたアルフレッドに、アルバートはポンと肩を叩いて労った。
「…俺達は、あの方達に恩を返さなくてはいけない。それこそ、一生を懸けて」
アルバートの言葉に、リオとアルフレッドも頷いて同意する。
「…ルリ様がああして笑っていられる為になら、私は何でも致しますよ」
アルフレッドのルリを真っ直ぐ見つめる姿に、他の二人もそれ以上は何も言わなかった。




