検証会
「あれ?オウカは作らないの?」
「申し訳ありません、私は料理があまり得意ではないので、今回は簡単な作業しかしないんです」
「へえ。あ、ベニオはやるんだ?包丁持つ手付きぎこちないし、料理初めて?」
「…悪い?」
「いいね、誰にでもハジメテはあるからね!それにしてもルリは本当に上手だね!食べるのが楽しみだな~」
「はは…ど、どうも」
クセがあるってこういう事かー!!
カルロス=カーネリアン
類稀な聖属性魔法の使い手として、若くして王宮魔術師団に入団。
聖属性以外にも幾つかの属性魔法を持ち、優秀な魔術師だと認められている。
ーーーその、魔力に関しては
「でも、素行がね…」
「軟派ですわね」
「あ、黄華さんも思っちゃいました?実は私も…」
紅緒ちゃんなんて完全に引いている。
近付くなオーラが見えるよ。
私も今まで出会ったことのないタイプだから、その、ちょっと苦手かな~とか思っちゃってるけど。
でも確かに見た目は格好いいのよね。
薄い桃色の猫っ毛の髪に、赤みがかったオレンジの瞳。
タレ目の下の泣き黒子が何とも色っぽい。
ウィルさんとはまた違ったタイプの色男、って感じ。
…ごめんなさい、正直すごく遊んでそう。
いやいや、人を見た目で判断しちゃいけないよね。
「大丈夫よルリ。アイツ見た目通りの女好きだから」
「気を付けて下さいね、ルリ様。ラピスラズリ団長に叱られるのは私ですからね」
「え、アルそこで自分の心配なの!?」
冗談ですよ、と言われたが絶対半分くらいは本音だ。
「それにしても、どうしてそんな方が聖属性魔法持ちなんでしょうねぇ?こう言っては何ですが、もう少し誠実と言いますか、純粋な方が持つイメージなんですけど。彼、既に私達のこと呼び捨てですのね」
それが誰にも分からない謎なのよ…とシーラ先生が溜め息を零した。
「さあさあ何遊んでるの?ルリ様、次の行程をみんなに伝えて頂戴」
「るりせんせい?やさいきれたよ?」
「あ、ごめんなさいベアトリスさん、リーナちゃん。ええと、次は…」
そうだった、今日の本来の目的を忘れる所だった。
聖属性の魔法の源が、術者の心にあるのではないかという仮説。
魔法レベルの低いリーナちゃんでも料理に効果が出ていることから、レベルに関係なく、身近な聖属性持ちを集めて料理での検証を行っている。
料理の得意不得意もあるので、作るのは割と簡単にできるサンドイッチにした。
メンバーは紅緒ちゃん、黄華さん、リーナちゃんとカルロスさんに私。
料理指導にベアトリスさん。
そしてアルをはじめとする護衛騎士の皆さんが集まっていた。
「聖女様方に今話題のラピスラズリ侯爵令嬢の料理か~僕達も食べられるかな!?」
「…リオ、職務中だぞ」
「えー別に良いじゃん。アルフレッドは良いよね、いつもルリ様に作ってもらえて」
「まあ、そうですね。ルリ様の料理はいつも美味しいですからね」
あ、珍しくアルが素直に褒めてくれてる。
ちょっと嬉しいぞ。
アルからの評価に私がにまにましていると、騎士さん達の会話にカルロスさんが割って入った。
「ちょっとちょっと~そこでオレのことを無視して話さないでくれる?オレの料理も意外とイケるかもよ?期待してよー」
「「野郎の料理に興味はない」」
「…ないな」
「ひどっ!いやいや、普段作ってもらってる王宮の料理人も、ほとんどは男でしょ!?」
「いや、料理人とカルロスさんは違うし」
「そうですね、美味しいかも分からない素人野郎の料理に興味を持てと言う方が無理でしょう」
「ぐっ」
…なんだかわちゃわちゃ楽しそう。
女子会も楽しいけど、男の子で集まるのも楽しそうよね。
「あ~ん~た~た~ち~~~!!」
はっ!!
殺気を感じて振り向くと、そこには物凄い迫力のベアトリスさんが仁王立ちしていた。
「やる気がないなら出ていきなさい!!護衛騎士共!職務中の無駄話は職務怠慢と見なすわよ!!第一の団長に報告されたくなかったらこれ以上邪魔しないで頂戴!!!それとカルロス、第三の訓練に参加させてその根性叩き直してあげましょうか!?」
「「「「…大変申し訳ありませんでした」」」」
「シーラ様。申し訳ありません、騒々しくて」
「いいえ。さすがね、ベアトリス。うちのカルロスまで黙らせるなんて」
ほんと、ベアトリスさん最強。
「さて、気を取り直して再開するわよ」
ベアトリスさんの一喝で静かになった男性陣。
まあ、カルロスさんは手を動かしつつ、咎められない程度におしゃべりしてるけど。
あ、紅緒ちゃんかなり真剣ね。
包丁も緊張してたしな…でも、慣れれば普通に使えるはず。
因みに黄華さんは最初から包丁を使う気なかったので、ベアトリスさんが切った材料を挟むだけにしたらしい。
やれやれ、とみんなの様子を眺めていると、くい、と袖を引っ張られた。
「せんせい、わたしできたよ!ほら、ひとりでぜんぶできたの!すごい?」
キラキラした瞳で、出来立てのサンドイッチの乗ったお皿を見せてくれるリーナちゃん。
その可愛さに胸がキュンとなる。
「本当だ!うん、お野菜も上手に切れてるわね。すごいすごい!とっても美味しそうだわ」
「えへへ。あのね、このつぎはだれかのことをおもってつくるんでしょ?わたし、おとうさまとやくそくしたんだ。できたらおとうさまにたべてもらうの!」
何ですと!?
お仕事を頑張るパパに差し入れとか、すっごく可愛い!!
「うん、とっても素敵ね!きっとエドワードさん喜ぶわ」
「わたし、がんばってこれよりもおいしくなるようにつくる!!」
「リーナちゃんっっ!!」
天使の天使すぎる発言に、私は思わずリーナちゃんを抱き締めるのであった。
「ねえ、あそこだけマイナスイオン出てない?」
「本当ですわねぇ。私達、もう別にいらないんじゃないでしょうか?」
「いやいや、聖女様方。確かに大変微笑ましいシーンですが、一応これは検証会ですから」
「ちょっと、僕あそこに混じりたい」
「しっ!気持ちは分かりますが、またルビー料理長に叱られますよ」
「…見ているだけにしなさい」
皆から暖かい目で見られている事になど気付くはずもなく、私はリーナちゃんとのほのぼの会話を楽しむのであった。




