祝福
腰を痛めているという院長先生にはゆったりと座ってもらって、フォルテの周りに集まった子ども達と歌を披露することにした。
元気な歌、楽しい歌、可愛い歌、それからおまけに独奏で院長先生が好きだという月の曲も。
確かに月をイメージした静かな音色は、心が洗われるようで癒される。
そのメロディに、院長先生だけでなく子ども達もうっとりと聞き入ってくれていた。
「わたし、るり先生がこの曲をひくと、きれいな気持ちになるんだ」
弾き終わると、ラナちゃんがぽつりと呟いた。
「ラナおねえちゃんも?あのね、わたしも!うんとね、ここらへんがふわってあったかくなって、やさしいきもちになるの」
リリーちゃんが胸に手をあててそれに同意する。
「俺も。なんか、ずっと聞いてたくなる」
「あ、私も!」
「ぼくも!!」
それに続いて次々と声が上がる。
うーん、やっぱり"癒しのフォルテ"のスキルの効果なんだろうか。
回復効果だけじゃなくて鎮静効果もあるのかな?
やんちゃな男の子達も静かに聞いてくれてたし。
そうだ、院長先生はーーー?
「皆さん、素敵な歌をありがとう」
ぱっと振りかえると、院長先生が椅子から降りて私たちの所に来てくれていた。
スキルの効果か、腰の痛みを感じさせない様子で歩いている。
「せんせい、こし、だいじょうぶなの?」
「ええ、皆の歌声で元気になりましたよ。…ルリ様も、ありがとうございました」
こっそりお礼を言ってくれた院長先生は、私の魔力の事を分かっているので、きっとスキルの効果だと理解したんだろう。
「いえ。お体、大切にして下さいね。子ども達の為にも」
本当に、と呟く穏やかな微笑みに、ほっと安心する。
「良かったですね。子ども達も嬉しそうだ」
「うん、効いたみたいで良かった。みんな院長先生が大好きだから、心配だったのよね」
アルとそんな会話をしていると、子ども達がまた集まって来た。
「ねえ、先生次は絵本読んでー?」
「その後は一緒にお昼作ろう?」
「ある!たたかいごっこしよー!?」
子ども達のお誘いに、私とアルは顔を見合わせてくすっと笑う。
「うん、分かったわ。お昼を食べたら用事があるから行くけど、それまでは一緒に遊んだりご飯を作ろう?」
「ええ、私もあまりルリ先生からは離れられませんが、お相手しましょう」
「「「「やったーーー!!」」」」
皆は私のスキルや魔法で癒される、なんて言うけれど。
私だって、子ども達のこの笑顔からたくさん元気をもらってるし、癒されている。
結局、心なんだよね。
私のこの力、皆のためにもっと使えると良いな…。
ひとしきり子ども達と遊んで昼食を食べた後。
私たちは着替えを済ませて公園建設予定地を訪れていた。
そういう式みたいなのをするらしいので、一応シンプルだけどそれらしい格好をしてみた。
「ところでこの世界の建設ってどんな感じでやるの?」
まさか重機なんて出てこないよね?
「そうですね、主には魔法で行います。まあ木材の加工や組み立ては人力ですが、その他はほとんど魔法ですね」
なるほど、魔法って便利。
「おや、早いですね。ルリ様、サファイア殿、今日はありがとうございます」
アルとのんびり話していると、シトリン伯爵がやって来た。
よく見ると官僚さんらしき方々も続々と集まっている。
「初日と言っても祈祷と地面を整えるだけですがね。しかし聖女様に祈って頂けるとなると、きっと御利益があるでしょうな」
ははは、と伯爵が笑う。
そう、元の世界でも地鎮祭ってあったよね?
こちらでも似たような儀式を行うんだって。
創世記に出てくる女神様に、土地をお借りするお願いと工事の無事を祈るらしい。
今回は国が建てるものだし、事業の成功もかな?
とにかく、だいたい意味は同じだ。
でもそこはやっぱり宗教の違い、準備物は全然違うしお祈りするのも教会の方だから、雰囲気は少し違う。
御神酒とかは無くて、その土地で採れる農作物と聖水、あとダイヤモンド。
どうやら女神様はダイヤモンドの化身らしい。
そこでこういう国が建てるものには、土地の繁栄を祈って建設前に祈祷して地面にダイヤモンドを埋めるんだって。
国の成り立ちとか伝統とか、元の世界とは違うはずなのに何だか似ている所や納得できる所があって面白いな。
「ルリさん!やっぱり来てたんですね」
「あ、ルイスさん。リーナちゃんのパーティー以来だね。元気だった?」
わくわくしながら準備を見学していると、騎士服姿のルイスさんに声を掛けられた。
「はい、まあ相変わらずです。サファイア殿も、お疲れ様です」
「ああ。君も応援か?」
「はい、今日だけですけどね」
アルとの会話から、どうやらルイスさんは仕事で訪れているらしい。
そう言えば孤児院の砂場も彼に作ってもらったのだったと思い出し、恐らく土壌の整備か何かで応援に来たのだろうと思い至る。
「俺と、魔術師団からも何人か来てます。孤児院の砂場を作った、って知られちゃったので呼び出されたんですよ」
「ルリ様、彼の土魔法は騎士団でも指折りでして。その魔力を買われて呼ばれたようです」
「やっぱり。ルイスさんの魔法、凄かったもの。あ、でも仕事増やしちゃって悪いことした、かな」
「いや全然!むしろ団長の鬼特訓を免れてラッキーって思ってるくらいです!」
団長、ってレオンだよね?
鬼特訓?
「ルリ様の前ではかなり甘いですが、元々ラピスラズリ団長は厳しい事で有名です。ルビー団長とはまた違って、身分意識の強い貴族連中を纏める第二騎士団の団長ですからね、当然と言えば当然でしょう」
そう言えば、以前私に剣を飛ばしてしまった騎士さん達にも、凄く厳しい態度だった事を思い出す。
氷の魔王様モード、あれは怖かった。
「巷では青銀の騎士、とか呼ばれてるみたいですけど、俺たちの中では氷結の魔王って言われてるんですよ。優しいのなんて、ルリさんにだけですって」
「あ、はは…」
私の知らない顔があったのだなと驚きはしたが、確かに私が見ているのは家族や気心知れた人といる時のレオンだ。
仕事モードになると違うんだな。
…ちょっと見てみたいかも。
「ルリ様、そろそろ始めますよ」
そんな事を考えていると、シトリン伯爵が祈祷の開始を知らせてくれた。
教会の司祭さんらしき方が台に置かれた聖杯に聖水を注ぎ、祈りの言葉を唱える。
私も皆に倣って、目を閉じ両手を組んでお祈りする。
素敵な公園になりますように…。
「ルリ様」
祈りの言葉が終わって目を開けると、シトリン伯爵にダイヤモンドを差し出された。
「?これ…」
「はい、折角ですのでルリ様に埋めて頂こうかと思いまして。ほら、あそこにある小さな穴に入れて土をかけたら、両手を組んで軽くお祈りして下さい」
ニコニコと伯爵に言われたら断れない。
失敗しないだろうかと心配するような難しい事でもないし、まあ良いかとダイヤモンドを受け取る。
皆からの視線が少し痛いが、気にしないように意識して歩く。
穴の前にしゃがみ、ダイヤモンドの粒をそっと手に取ると、キラリと輝いた気がした。
きっとカットが綺麗なんだろうなと思いながら穴のなかに落とし、柔らかく土を被せる。
それが終われば後は祈るだけ。
そっと手を組み目を閉じる。
ーーーダイヤモンドの化身の女神様、どうぞこの土地を子ども達の為にお貸し下さい。
緑の多い、笑顔溢れる公園になりますように。
そして、未来ある子ども達の行く末が、素晴らしいものとなりますようーーー
『そなたの願い、聞き入れた』
「え?」
頭の中で声が聞こえたような気がしてぱちりと目を開けると、そこにはーーー
「なに、これ…」
キラキラと輝く金と銀の光の粒が、辺りに煌めいていた。
その輝きに、周囲から歓声が上がる。
「祝福だ!女神様からの祝福だ!!」
「聖女様の願いを聞き入れて下さったんだ!!」
…これは、ひょっとしなくても…。
「ルリ様…」
ごめんアル、また私やらかしたみたい。
いつもありがとうごさいます(*^^*)
ここでお知らせです。
なんとこの度、書籍化させて頂くことになりました!
これもいつも読んで下さる皆様、評価や感想、ブクマ、誤字報告等で応援して下さる皆様のお陰です!!
そこで、三月から編集作業に入ることになりました。
できるだけ毎日、と投稿して来ましたが、作業の際はそれが難しくなりそうです…。
しばらく更新が滞ったら、いっぱいいっぱいなんだな、と思ってやって下さい(^^;)
作業のない時は出来るだけ頑張りますので、どうぞこれからもよろしくお願い致します。




