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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第四章

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第三騎士団長

「ルビー団長、ですか?」


「うん、確かベアトリスさんのお兄さんなんだよね?どんな方なのかなと思って」


王宮の帰り道、馬車の中でアルに聞いてみた。


レオンやウィルさんに聞くのも、忙しそうで悪いかなって思ったからね。


その点、ベアトリスさんと知り合いのアルなら、そのお兄さんの事も知っているはずだと思ったのだ。


しかし、その名を聞いた途端、アルは険しい顔をして溜め息をついた。


「…第三騎士団の団長なのはご存じですよね?第三騎士団に平民が多いのも?」


「あ、うん知ってるよ。えっと、確か第二は魔法騎士団って呼ばれてて、魔法に明るい貴族出身の人が多いんだよね?第三は基本的に腕っぷしで選ばれるから、平民出身が多いってレオンに聞いた事があるわ」


「ええ、そして貴族と平民の混じる、しかも血の気の多い猛者達を束ねているのがルビー第三騎士団長です」


それは、つまり…


「かなりの実力者であり、かなりの曲者です」


う、やっぱり。


()()ベアトリス様の兄上ですからね。血筋というものは恐ろしいもので、彼もまた、人をからか…手玉に取るのがとても好…上手な方ですよ。勿論剣の腕前は飛び抜けていて、見た目はいかにも騎士団長、という感じですね。赤髪・赤目で大柄、強面、大ざっ…器の大きな方です。見た目は恐そうですし、実際恐いですけど、それ位でないと第三の連中は纏められませんからね」


ちょっと待って、言い直しがたくさんあったことが気になるんだけど。


「因みにうちの長兄とは同い年で幼馴染みです。混ぜるな危険、です」


「うん…アル、だいたい分かった。ありがとう」


アルが苦労してきたって事も。


末っ子には末っ子の苦労があるのよね…。


そんな遠い目をしなくても良いのよ…?







「ルビー団長、失礼する」


「ん?おお?ラピスラズリの次男坊じゃねーか。珍しいな、そんなに恐い顔をしてどうした」


「どうした、ではない!どういう事だこの書類は!これは第三の管轄のはずだろう!何故私のところに回されるんだ!!」


レオンハルトはルリと別れた後、第三騎士団の団長室を訪れていた。


問題の書類の束をバン!とその机に叩きつけて抗議をする。


しかしそれを歯牙にもかけず、第三騎士団長、イーサン=ルビーはかっかっかと豪快に笑い飛ばす。


「ああ、それか。宰相に言ったんだよ、俺よりもレオンハルトの方が上手く捌けるってな。俺に任せたままにしておくと、仕事が滞ると思ったんじゃねーか?お前も俺が書類仕事苦手な事、よぉく知ってるだろう?第二も合同で行ったから、お前だって内容を分かっているはずだ。頼んだぞ」


「頼んだぞ、じゃない!苦手だからと此方に回すな!私にも通常業務があるんだ!!」


「良いじゃねーか。お前には聖女サマの回復メシがあるんだろ?書類仕事で完徹くらい余裕だろーが。俺には無理だ。寝る、速攻寝る。活字見たら五分で寝る」


真面目な顔をして何を言っているんだこの馬鹿は、とレオンハルトは思った。


いや10程歳上のしかも団長職にある人に失礼だとは思うが、良い意味でも悪い意味でもそれを感じさせない、このイーサンという男がレオンハルトはよく分からなかった。


難しいとされる第三騎士団を見事に纏め、魔法の才能こそ無かったが剣の腕も超一流であり、見た目も実は悪くない、…だが結婚はしていない。


「おい、何か失礼な事を考えているだろう。俺には分かるぞ。貴様、恋人が出来たくらいでいい気になるなよ」


「いい気になどなっていない」


心を読まれたかと内心思ったが、それを表情には出さずに目を逸らした。


しかし今の発言で、十中八九あの書類は嫌がらせなのだと確信した。


先程の聖女様の回復飯がどうとか言っていた事からも分かる。


「くっ…余裕か!?余裕なのか!?貴様は女になどうつつを抜かさない、生涯独身を貫く奴だと思っていたのに!あっさりとこの一年で上手く纏まりやがって!!」


だん、とイーサンは机を叩きつけて立ち上がった。


この部屋の執務机は超頑丈に作られていると聞いていたが、本当らしいとレオンハルトは心の中で思った。


…いくつかへこみは見られるが。


「それと仕事は関係ない。これは自分でやれ」


衝撃で飛び散った書類を指してそう言い放つ。


「ほう?そんな事を言って良いのか、レオンハルト」


「…どういう意味だ」


訳あり顔のイーサンに、レオンハルトは眉を寄せた。







アルにラピスラズリ邸に送ってもらった後、私はリーナちゃんを訪ねていた。


セバスさんに、まだレッスンは終わっていないはずだと聞いたから。


フォルテの置いてある部屋の近くまで来ると、微かに音色が聞こえてきた。


良かった、間に合ったみたい。


それにしても、すごく上手になった。


可愛らしい曲で、リーナちゃんにぴったり。


そう思いながらこっそりとドアを開けて中を覗くと、クレアさんの声が聞こえた。


「はい、とてもお上手で宜しいですよ。では、今日はここまでにしましょうか。…あら?ルリ様、どうされました?」


早々に見つかり、にこりと微笑まれてしまった。


「えっと、こんにちはクレアさん。リーナちゃんも、お疲れ様」


「るりせんせい!」


私の顔を見ると、途端にぱっと表情が明るくなる。


うーん、やっぱり可愛い。


リーナちゃんに癒されたところで、クレアさんには一応ちゃんと謝っておかなければ。


「すみません、中を覗くなんてはしたないことをして…」


「お分かりならば宜しいのですよ。何か私にご用事でも?」


「あ、ええと、ちょっと二人と話したくて…。もしお時間があれば、少しだけお茶していきませんか?」


私からの提案に、二人は快く頷いてくれた。

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