聖女会議6
一月は紅梅、二月は椿に山茶花。
三月に桃の花が開き、四月は桜が風に舞う。
それが当たり前だった、幼少期の記憶。
「あの桜の木、どうなったのかしらね」
この世界ではまだ見たことがない、華達。
「え、黄華さんてそんな特技あったんですか?」
「ええ、まあ」
「ホント怖いくらい当たるわよ。瑠璃さんも一度見てもらったら?」
「嫌ですよ、面白くない。恋人と順調で薔薇色しか見えない予感しかしませんもの」
「面白くないって…」
「それ、幸せな人間は興味ないってこと?」
もうすぐこの世界に来て一年が経とうとしている。
冬も終わり、暖かい日の増えてきた頃。
いつもの交流会で、黄華さんの意外な特技が発覚した。
「それにしても、オーラが見える人って本当にいるんですね」
「まあ鑑定の方が詳しく分かりますし、あまりこちらの方には驚かれませんけどね」
「一部には畏れられてそうだけどね」
…確かに。
「でも、それなら元の世界にいた時は周りの人から視てほしい!って言われたでしょう?」
「うーん、あまり大っぴらには言っていませんでしたから。それに詳細が分かるわけじゃないので。さりげなく車の運転には気をつけて、とか言うくらいはしてましたけど」
「まあ、そんなに物珍しく見られても迷惑だしね。あたしだったら面倒くさいから必要以上には視たくないかも」
「ええ、私もそうでした。気が合いますね、紅緒ちゃん」
嬉しそうな黄華さんの笑顔に、紅緒ちゃんの眉間に皺が寄る。
一緒にしないで、と顔に書いてある気がする。
ま、まあ特殊な能力のある人にはそれなりに苦労があるって事ね。
「いや、瑠璃さんだって癒しの力、隠してたじゃない。同じだからね?」
「そ、そうでした…」
つるっと自分の事を忘れていたが、確かに似たようなものだ。
あの時は平凡が一番、って思っていたのに、すっかり聖女様扱いされるようになってしまったものだと思う。
「そう言えば、リリアナちゃんでしたっけ?シーラさんの鑑定を受けて、正式に聖属性魔法持ちだと認められたらしいですね」
「ああ、ちらっと見たけど天使みたいに可愛い子だったわね」
「そうなの!!そう思う!?やっぱり!!」
そう、あれからリーナちゃんとも話し合って、みんなで王宮で鑑定を受けることに決めたのだ。
光と聖という二つの稀少な属性魔法の使い手が見つかったという事で、宰相様達は大喜びだったそうだ。
シーラ先生の予想通りレベルは低かったけど、これから上がる可能性もあるし、何よりまだ4歳だ。
まだまだ成長するのは間違いないので、期待はかなり高いみたい。
「それはまた…これから大変でしょうね。主に結婚相手探しで」
「ああ、お見合い写真とかたくさん届きそう」
「…お二人ともよくお分かりで」
そう、誕生パーティーで悪い噂を払拭したリーナちゃんは、今回の件で更に人気が爆上がりした。
言うなら、今お嫁さんにしたいご令嬢ナンバーワンだ。
可愛くて高位貴族で可愛くて魔力もあって天使で将来有望なんて、そりゃ人気出るわよね。
「可愛いと天使が半分を占めてるわよ」
「それが大事なのよ、紅緒ちゃん。あの可愛さは異常よ」
「リリアナちゃんが絡んだ時の瑠璃さんもなかなかですけどねぇ」
だって可愛いんだもの!!
4歳の誕生日が来てからお話も上手になったし、少し背も伸びてお姉さんらしくなり、ますます魅力的になった。
その上あの純粋で優しい性格、そりゃお近付きになりたいと思うわよ。
「まあとりあえずその話は置いておいて…。リリアナちゃんも加わった事だし、聖属性持ちを集めて、回復効果付き料理の実験をやるらしいですね。私達にも協力してもらえないかと要請が来ました」
「あ、そうそう。そうなんです」
そう、以前私が実験をしてシーラ先生が立てた仮説が正しいのではという結果になったため、身近にいる聖属性持ちを集めて料理教室を行う事になったのだ。
参加候補は私達三人とリーナちゃん、そして魔術師団に所属しているという男性。
殆どが料理未経験者なため、先生はベアトリスさんで、アシスタントに私。
私は参加決定らしい。
紅緒ちゃんと黄華さんは出来れば参加して欲しい、なのに何故…。
因みにリーナちゃんは私が一緒ならと快く参加を決め、魔術師団の方は仕事なので当然参加。
あとはこの二人だが…。
「あたしは参加しても良いわよ。でも聖属性魔法はLv.5だし、大した効果は出ないと思うけど。…あと、味がどうなるか分からない」
料理はお母さん任せって言ってたもんね。
大丈夫、誰にでも初めてはある。
「私はLv.15ですし、まあまあ効果が付くかもしれません。だから別に参加しても良いんですけど、味がねぇ…」
うーんと首を捻る黄華さん。
以前、料理はしない主義と言っていたが、ひょっとして…。
「一人暮らしをしていた時に何度か作ったことがあったのですが、何故か焦げたり味が濃いか薄いかだったり、あと変な臭いがしたり…。もう自分で作ることは諦めました」
開き直った爽やかな笑顔に、私と紅緒ちゃんの顔がひきつる。
「ま、まあ今回は王宮の料理長さんが教えてくれますし、大丈夫かもしれませんよ?」
「そ、そうね!一緒に教えてもらいましょう!」
珍しく紅緒ちゃんが黄華さんに優しい。
「これなら美味しくできる!っていうのはないんですか?」
しかし、料理が苦手でも何か一つくらい美味しくできたものがあるのでは?と思い、作るメニューの参考にしようと聞いてみる。
すると、うーんと考える黄華さんの口から、意外な答えが飛び出した。
「料理、とは違うかもしれませんが…。お茶なら、まあまあ美味しくできますよ」
「お茶くらいなら誰でもそれなりに美味しく淹れるでしょうよ」
「いえ、急須で淹れるお茶も普通に出来ますけど…。お抹茶、茶道です。抹茶なら、今でも割と美味しく点てられると思いますよ?」
「え?」
「は?」
「「えええええーーーーー!?」」




