新しい友達
「ところでルリ様、何を作っているの?」
「え?あ、これですか?」
私の手元には、おにぎり。
土鍋で炊いたご飯が余ったので、塩おにぎりにしていたのだ。
「おにぎりって言って、持ち運びに便利な料理?です。今日はお塩で味付けしただけですけど、中に具材を入れると美味しいですよ。ご飯が結構余ったので、持って帰って食べようと思って作ったんです。あ、ベアトリスさんお土産のお味噌とお米、ありがとうございます!」
そう、なんとベアトリスさん、沢山あるからと少し譲ってくれたのだ。
「いえ、貴重なレシピを提供してくれたのでそれは良いんだけど…。それ、それも遠征食に使えないかしら?」
「あ、確かに。保存方法をしっかりすれば一、二日はもつかも。お米は腹持ちも良いし」
「良いですね、食べやすそうですし。もし良ければ一つ、頂けますか?」
珍しくアルがおねだりしてきた。
勿論、こんなので良ければどうぞと渡す。
「私も、夜食にあると、嬉しい」
執務室の書類を思い出したのか、真剣な顔でレオンも訴えてきた。
今日も頑張ってね、との思いでそっと3つ渡す。
アルより数が多いのは察して下さい。
「明後日は公休日だから、遅くなるかもしれないが明日ラピスラズリ邸に帰る。待っていてくれるか?」
「そうなの!?うん、待ってる」
まだ忙しそうだし、ゆっくり会えるのはいつかなと思っていたので、すごく嬉しい。
あの日から二日しか経っていないのに、こんなに会いたくなるなんて不思議だ。
「あ、そうだシーラ先生、ベアトリスさん。これ、いつもお世話になっているお礼です」
「え?わ、チョコレート?ありがとう、ルリ様!」
「あら、例のバレンタインのやつ?嬉しいわ、ありがとう」
危ない危ない、バレンタインのチョコレートも忘れずに渡すことができたし、お二人にも喜んでもらえて良かった。
「今日はたくさん収穫があったわね。この調子で遠征食の開発も頑張りましょう!」
というシーラ先生のお言葉でこの日は解散。
因みに生姜焼き定食はその日、紅緒ちゃんと黄華さんの夕食として振る舞われた。
ベアトリスさんがしっかりと再現してくれて、二人は感激のあまり涙ぐんでいたらしい。
気持ち、良く分かる。
ベアトリスさんも、お米や味噌を使った美味しい料理をたくさん思い付くだろうけど、またレシピの提供もしようと思う。
やっぱり故郷の味って忘れられないものだから。
そして次の日。
アメリアさん、オリビアさんとのお茶会のため、私はトパーズ子爵家にいた。
「本日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ、お忙しい中ありがとうございます」
「本当に!来ていただけて嬉しいですわ」
オリビアさんはともかく、アメリアさんが先日よりもかなり柔らかい雰囲気になっていたのに驚きながらもほっとする。
これなら渡しても受け取ってもらえそう。
「あの、お土産と言うほど大したものではないんですが、私が作ったチョコレートです。受け取って頂けますか?」
善は急げだ。
バレンタインの話をしながら二人にもチョコを渡す。
ついでに、お友だちになれると良いなアピールもしておいた。
「まあ、聖女様の手作りなんて恐れ多いわ。ふふ、でも可愛くて美味しそうですね。ありがとうございます、大切に頂きますね」
「…ありがとうございます。私も後で頂きます」
お、アメリアちゃんがまじまじと大きな目でチョコを見つめている。
これは恐らくかなりのチョコ好き、喜んでもらえているのだろう。
若干目がキラキラしているし、間違いない。
そのままバレンタインの話になり、和やかにお茶会は進む。
話も砕けた物になり、少しずつ打ち解けてきた気がする。
と、会話が途切れた所で、アメリアさんがぽつりと零した。
「…先日、レオンハルト様と話しました」
「え?レオンと?」
そんな話聞いていなかったので、ただ純粋に驚く。
「ふふ、お忙しいのに、わざわざ此方に出向くと言って下さったのよね?まあ結局アミィが王宮に行きます、と押し切ったみたいだけれど」
「ええ、忙しいのにお手間をかけさせる訳にいかないもの。当たり前よ。…それで、私、振られたんです」
「…へ?」
思いもよらない内容に頭が回らなくて、緊張感のない声が出てしまった。
「可笑しいんですよ。たかが子爵令嬢の私に、頭を下げて、『貴女の想いには応えられない』って。今まで私のように彼に懸想していた女性は山のようにいらっしゃいましたが、レオンハルト様はどなたにも目を向けず、まさに氷のような冷たい対応でした。それなのに、先日はしっかりと私の目を見て、ありきたりな物ではなく、心からの言葉でお話して下さいました。ああ、この方を変えたのはルリ様なんだろうなと、その時思いました。それで私、あんまり驚いて、振られた悲しさなんて飛んでいってしまいました」
アメリアさんを見ると、その表情は穏やかだ。
「…貴女と心を通わせる事ができて、とても幸せだと。好きだという気持ちを知ったからこそ、きちんと私に伝えたい、ルリ様ならきっとそうするとおっしゃってくれました。私、これでレオンハルト様の事をちゃんと諦められます。心から幸せを祈ることが出来る。それが、こんなに嬉しい」
以前とは違う、憂いのないふわりとした微笑みは、本当に綺麗で。
「愛称で呼ぶような関係になられたんですね。ルリ様からも、私などのためにありがとうございましたと、お礼を伝えて頂けますか?そして、レオンハルト様とどうかお幸せに。お許し頂けるなら、友人としてその時をお祝いしたいわ。お願い出来ますか?」
「…私からも。どうか、これから友人として接して頂けませんか?」
二人の晴れ晴れとした表情に、否定の言葉なんて出るわけが無い。
勿論、答えなんて決まってる。
「ーーーはい!こちらこそ、お友達になって下さい!」
その日、私には新しい友人が二人、出来たのだった。
いつもありがとうございます。
第三章、一つの区切りという事で次話で終わりとなります。




