比例
「ルリ、会えて嬉しい。今日も何か作ってくれたのか?」
うっ、何かキラキラしてる!?
頬まで染めて、やたら笑顔が眩しいのは気のせい!?
「え、えっと…私の国の料理を作ったから、食べてくれる?」
勿論だ、とさらに笑みを深くすると、眩しさも増した。
ちょっと待って、この状態ずっと続くの!?
まともに目も合わせられない。
「はい、ストーップ。レオン、落ち着きなさい。嬉しいのは分かるけど、その色気駄々漏れモード、しまって。ルリがあてられてるから」
「…別に出してなどいない」
「まあまあ。レオンも、嬉しいのは分かるけど浮かれないの」
シーラ先生が間に入って止めたのを、邪魔されたと思ったらしい。
ムッとしたレオンをベアトリスさんが宥める。
レオンも、その、浮かれてるのかな。
私はかなり浮かれてるけど。
「取りあえず温かいうちに頂きましょ。まあ!すごいわー!美味しそう!!」
盛り付けられた料理を見て嬉しそうなシーラ先生。
「ベアトリスさんと、アルもどうぞ」
「私の分まで…いいの?」
「職務中なんですが…。そうですね、折角ですから頂きます」
目で訴えたらアルも折れてくれた。
みんなの口にも合うと良いな。
「あ、そう言えばお箸、は無いですよね…。ナイフとフォークで食べましょうか」
「あるわよ、お箸」
じゃーんとベアトリスさんがお箸を出してくれる。
「聖女様に聞いて用意してみたの。でもコレ、使うの凄く難しいのよね…」
「オハシ?使った事がないな…どうするんだ?」
「私もです。初めて見ました」
「あら、私はそれで頂くわ」
皆がお箸に戸惑う中、明るい声が上がり、え?と皆の視線がシーラ先生に集まる。
「うふふ。ちょっと使った事があってね。ほら、なかなか上手でしょ?」
いや、なかなかどころか持ち方も完璧ですけど。
「お前、器用だな…」
レオンも絶句している。
因みに初見のレオンとアルはかなり四苦八苦していたので、いつものナイフとフォーク、スプーンで食べることにしたらしい。
それではいよいよ実食!
炊きたてのホカホカご飯もよそって、いただきまーす!
「…!この肉、しっかり味が付いているな。タレが絡んで美味い」
「本当ですね。とても美味しいです」
よし!やっぱり生姜焼きは好きな味だったみたい。
もりもり食べてくれている。
「ご飯も間に入れると美味しいよ?」
「ああ、この間食べたコメだな?…うん、このタレに合うな。もっと食べたくなる」
良かった、ご飯も口に合ったみたい。
「あら、きゅうりも良い感じよ。うーん、お肉がこってりだからサッパリして良いわね」
「こちらの汁物も美味しいです。お味噌を使っているのよね?体が温まって、ほっとする味だわ」
日本の定番定食、みんな気に入ってくれたみたいで、お箸も進んでいる。
まあ、カトラリーの人もいるけど。
ところで美味しく召し上がってくれてるのは良いんだけど…
「あの、ところで実験は良いんですか?」
「あ」
やっぱり食べたいだけでしたね、シーラ先生。
「やぁね、今やろうと思っていたのよ?」
…ほっぺにご飯つぶ、ついてますよ?
「実験?シーラ、今度は何をやろうとしているんだ?」
「あのね、ルリの「ストーップ!!!」
「回復量の違いの実験です!成功したら後からお話しますから!後から!!」
またもやあんな恥ずかしい事をつるっと暴露されるところだった。
あの仮説が正しいならともかく、結果が分からないのに言う必要はないだろう。
レオンは怪訝な表情をしたが、必死な私の様子に黙ってくれた。
「そうね、結果を見てからにしましょ。じゃあいくわよ。"鑑定"」
ご飯、生姜焼き、味噌汁、浅漬けの順に鑑定をかけている。
鑑定の内容は術者にしか見えないので、シーラ先生以外は分からない。
へぇ、とかふーん、とか言ってるけど、どうなんだろう。
「取りあえず結果は、回復効果の高い順に、生姜焼き、味噌汁、ご飯と浅漬けはほぼ同じ、と出たわ。ご飯と浅漬けに関しては普段とあまり変わらないけれど、前者の二品に関してはかなり高い回復量みたいね」
「?何故料理によって違うんだ?何か分かっているのか?」
「さあ、それはルリに聞いてみないとねぇ?」
「えっ!?」
によによとシーラ先生がこちらに視線を送る。
「ではルリ様、調理中の心情解説をして下さいな」
ベアトリスさんまで意味あり気な表情だ。
いやいやいや!人前どころか本人を前にして語れと!?
た、確かに実験だから必要なことかもしれないけれど!!
「ルリ様、もうこの際羞恥心はお捨てになった方が良いかと」
いいから早く言って下さいよ、って顔に書いてあるからねアル!!
「もう良いじゃない。恋人になったんだし、隠し事はナシよ」
「隠し事…?ルリが、私に?」
くっ…!レオンがショック受けた顔してる。
シーラ先生め………!!
「わ、分かったから…」
今日は何ですかね、こんなことばっかり。
厄日なんでしょうか…?
そして。
生姜焼き→美味しく食べてもらいたいと思いながら味付けも考えていた。最近の激務の為、スタミナがつくように工夫していた。
味噌汁→体が温まるように、また健康のことを考えて野菜がたくさん摂れるように配慮していた。
ご飯・浅漬け→普段通り美味しくなるようにと考えて作っていた
「なるほどね。確かにルリがレオンの事を考えている程度で回復量も変わっていると見て取れるわ」
「ソウデスネ」
私ってば無意識だったけど、検証しやすく作っていたのね。
ちゃんと作っている時の感情と回復量が比例している気がする。
因みにレオンにも内容は知らされ、私は非常に居たたまれなくなっている。
当の本人は嬉しそうに生姜焼きをおかわりしていたが。
「取りあえず、私の仮説はほぼほぼ合っていたようね」
「そうですね、何度か作ってみないと正確には分かりませんが、恐らくは」
シーラ先生とベアトリスさん、まだもぐもぐしながら話している。
まあ、お役に立てそうで良かったけど…。
ちょっと私の心の犠牲は大きかったけどね!
でも、みんなが美味しそうに食べてくれる姿を見ていると、まあ良いかって気にもなってしまう。
回復効果のある食事って、遠征食だけじゃなくて病院とかでも需要あるだろうしね。
少しずつ魔法の謎が解けて実用化されると良いな。
公園設立もそうだけど、みんなの為になって喜ばれる事をさせてもらえるって、嬉しい事だよね。
うん、まだまだこれからだけど、頑張っていきたい。




