身勝手な兄を持つと妹が苦労するのだと思います
前作より、少し長めのお話です。
妹視点のお話になりますが、楽しんで頂けましたら嬉しいです。
「全く、男って…!」
怒りを露わにするアデライン王女に、侍女のエマとライリーは苦笑する。
ここは、アデライン王女の部屋の中…勿論、女性しか居ない。
扉の外では近衛騎士ディランが、警護している。
ゾワッ…!と、ディランに意味の分からない悪寒が走った。
ぼてっとした体つきに、美人には程遠い顔立ちを更に歪めて文句を言う、王位継承権三位のアデライン第一王女。
「確かに、私はレイモンドお兄様を応援しましたよ!ですが、勝手に王家を飛び出してしまうなんて…もっと、やり方があったでしょうにっ!」
そう、全てはアホ王太子のエドワードお兄様が、男爵令嬢のまさかの魅了魔法に引っかかって、婚約者の公爵令嬢を確証も無いのに糾弾したのが一番悪い。
居合わせた者の話で、エドワードお兄様が公衆の面前で婚約破棄騒動を起こした…と、報告された時は血の気が引いた。どう考えても、正しい手順を踏まないそれは大問題になってしまう。
宰相でもあるクリフォード公爵を敵に回す事は、王家としては絶対に避けたい。
しかも、あのコンスタンス公爵令嬢は美人なのに全く自覚無く、レイモンドお兄様の想像の斜め上を行く人らしい。
だから、まぁ、コンスタンス公爵令嬢が全くショックを受けていなかった上、物凄い勢いで帰って行った…と、聞いたレイモンドお兄様が慌てて追いかけて行った事は、仕方無いとは言えなくも無いのだが…。
エドワードお兄様がやらかしてしまった今、王妃教育も完璧にこなしていた彼女には、レイモンドお兄様と婚約し直して…是非とも王妃になって欲しかった。
その為に、色々と準備をしたのに…。
「…もう!私が次期女王になるしかないじゃないっ!」
「それには先ず、その外見をどうにかされた方が…。」
失礼な事を平然と言う、侍女エマ。
「絶対に、イ・ヤ・よ!このスタイルが気に入っているの。外見で寄ってくる男なんて、こっちから願い下げよ。」
美しい二人の王子に比べて、髪と瞳の色以外は何故そんなに似ても似つかない顔立ちなのか?…そう噂されている事は知っている。
魔力量は兄達より余程多く、王女という地位に居るにもかかわらず、縁談の話は全く無い。
「取り敢えず、クリフォード公爵を呼んでちょうだい。」
「かしこまりました。」と、ライリーは直ぐに手配に動いた。
………………………………
「アデライン殿下からのお誘い、恐悦至極に存じます。」
品の良い高級茶葉の香りが漂う中、秘密のお茶会は始まった。
「クリフォード公爵、私の我が儘を聞いて下さり、ありがとう存じます。これからお話しします事は、ここだけの話という事でお願いいたします。」
クリフォードの目が面白そうに光ったのを、アデラインは見逃さなかった。
先ず、長兄エドワードの失態を詫びると、次いで次兄レイモンドとコンスタンス公爵令嬢の事業計画を話した。
エドワードが勝手に言った国外追放の刑は、当然ながら執行される訳も無く、レイモンドが国内に用意した土地に二人は今居るのだ。
そして、薬になる植物を育て、調合し、平民でも安価で簡単に手に入れる事が出来るように、色々なルートを模索している。
上手くいけば、多くの民が治る病気で苦しまなくても済むのだ。
コンスタンス公爵令嬢の薬師としての能力は、素晴らしかった。レイモンドは、それを全力でサポートしたいと言っていた。決して、欲に目が眩んだ貴族が介入してこないように。
「…レイモンド殿下は、随分とコンスタンスを想ってくれている様ですね。」
「此方が落ち着いたら、クリフォード公爵邸にご挨拶に向かいたい…と、申しておりましたわ。」
「此方が…とは?」
柔和な表情で、クリフォードの目だけ鋭くアデラインを見る。
「勿論、お父様…いえ、国王陛下が私を、正式に次期女王であると発表したらですわ。」
「それは、それは…。あれ程、アデライン殿下は…王位継承を嫌がられていらっしゃったのにですか?」
「…仕方ないのです。私は王族であり、身勝手な兄達には任せておけませんもの。まぁ、昔の習わしから言えば…魔力量の多い私が継ぐのが相応しいですから。」
そう…この国は、代々王家で最も魔力の多い者が国を治めてきた。いつの頃からか、ずば抜けて魔力が多い者が生まれなくなり、自然と第一王子が継ぐのが当たり前になったのだ。
今更、元の風習に戻す必要性は無いが…今回ばかりは、それを利用したい。
「ですので、これからは社交界のパーティーへもっと出席するつもりでおりますの。」
「では、アデライン殿下もご結婚をお考えになると?」
「そうなりますわね。」
「それは、是非…我が息子も候補に入れて頂きたい。」
アデラインは、不思議そうに首を傾げる。クリフォード公爵家に子息がいるとは聞いた事がない。
それを察した、クリフォードは笑う。
「どうも、うちの子供達は少々変わっておりまして。コンスタンスには兄がおります。抜け駆けは良くありませんので、パーティーでご紹介致します。」
「まあ!それは楽しみですわ。」
ふふふ…と、アデラインは微笑む。
子供二人共が変わっているとか…いったいどんな子育てをしたのか疑問だ。まあ、自分達も相当だと思うが。
そして、秘密のお茶会を終えてアデラインは自分の部屋に向かった。
………………………………
アデライン王女が、社交界のダンスパーティーへ参加することは珍しく、すぐに彼方此方で噂になった。
レイモンド第二王子が失踪した事は伏せられている為、アデラインは夫候補を探すためだけにパーティー参加するのだと思われた。
色々と準備を進めていく中、近衛騎士のディランの様子がおかしいことに気付いた。
「…ディラン?顔色が優れませんけど、どうかして?」
「いえ、何でもありません。」
そう言いながらも、やはり表情が暗い。
ディランは、程よく焼けた肌に、整った顔立ち…ダークブラウンの髪が良く似合う。兄達とはタイプは違うが、眉目秀麗の青年だ。
いつも、感情を表に出さないのに珍しい。
思わず近寄り…背の高いディランを見上げ、もう一度聞いてみる。
「…本当に?」
「…………っ!!」
ディランは、真っ赤になり、自分の口元を押さえて慌てて外方を向く。
アデラインは、ディランの態度にポカンとする。
これでは、まるで…目の前に好きな人でもいる様な反応みたいだ。こんな美青年がそんな態度すると、勘違い令嬢が多発してしまうではないか。
「ねぇ、ディラン。何があったのか存じませんけど…その態度は、相手を好きだと勘違いさせてしまいますわよ?」
相手が私のような兄達でイケメン慣れした、非モテ人間でなければね。
「………勘違いでは、ありません。」ボソりと呟く。
「はい?今、何て?」
よく聞こえなかったので聞き返す。
「…殿下は、本当に次のパーティーで夫を選ぶのですか?」
「そうですわね…。次と言うか、お相手探しはするつもりですわ。」
顔面蒼白になったディランは…
「私は、もう殿下のお側にはいられませんっ!」
と、走り去っていった。
「…え?」
「…男心は難しいですね。」
呆けるアデラインに、エマがそう言った。
翌日から、ディランではない近衛騎士が立つようになった。
………………………………
「…アデライン様。やはり、体型だけでもどうにかなりませんか?」
パーティードレスをぎゅうぎゅう着させられているアデラインは、侍女エマの暴言を軽く聞き流す。
「…そうね、考えておくわ。」
この丸みのある体型…可愛いと思うのに。
そして、支度を終えると、国王の後をついてパーティー会場へ向かった。
「アデライン。本当に良いのだな?」
「勿論ですわ、お父様。」
扉が開かれると、会場内がザワリ…と、なった。
会場の雰囲気が何だか変だった。
いつもなら、二人の兄ばかりが注目され、アデラインには見た目を憐れむ視線が向けられるのに…。明らかに、その場に居る貴族やその令息の目は、獲物を見ているようだった。
ゾクっと背中が粟立つ。
二人の兄が王位継承から外れた事がバレている。…それしか考えられなかった。
パーティーが始まると、アデラインにダンスの申し込みをしたい令息達が、次々と集まってきた。
こういった場合、まず爵位が上の者からと決まっている。
人混みをかき分けてやって来た、かなり高級な衣装を身に纏った男性が、スッ…と手を差し出した。
「私と踊っていただけますか?」
順番からして、この人がクリフォード公爵令息だろうと、差し出された手を取ろうとして、顔を見た。
「……ん!?ディ…ディラン?」
「はい、アデライン様。ディラン・クリフォードと申します。」
ディランは、照れ臭そうに微笑んだ。
戸惑いながら、国王とクリフォード公爵を見ると…二人はしてやったり顔をしていた。
まさか…。
取り敢えず、曲が始まってしまうのでディランにエスコートされて、ホールの真ん中に向かう。
曲が始まり、踊りながらディランに問う。
『…どういう事?』
『すみません…。どうしても、アデライン様のお側に居たくて、近衛騎士を志願しました。』
『意味が分からないのだけど?』
『…一目惚れしたのです。』
『どう見ても、一目惚れされる外見ではないでしょう?』
『そんな事ありません!可愛いです!』
『………。』
さて、困ったぞ。
この姿は、私的には気に入っているが…本当の姿ではない。外見重視のアホ令息の牽制用スタイルだ。
ディランは、この外見が好みなのか?…ならば、本来の姿になったら、好きでは無くなってしまうのか?
あれ?私…ちょっと、悲しい?
『…ディラン。この姿が偽物でもいいの?』
『私は、アデライン様ならどんな姿でも、す…す…好きですっ。』
不覚にも、可愛い…と思ってしまった。
『では、これでも?』
もしかしたら、好みでなく嫌われてしまうかもという不安を抱えつつ…曲が終わった瞬間、アデラインは魔法を解いた。
――会場が響めいた。
魔法を解いたアデラインは、二人の兄を超える美貌に、金髪と紺碧の瞳を輝かせ、線は細いが凛とした佇まい、正に王女と呼ばれるに相応しい姿を現した。
ディランは、真っ赤になりながら言った。
「私は、アデライン様の全てが好きです!そのお姿も、貴女の心の様に美しいです!…どうか、私と結婚して下さいっ!」
「はい。私も、ディランが好きみたいです。」
アデラインは、パーティーが始まって一曲目で夫になる人を決めた。
ディランは満面の笑みで、アデラインを抱きしめた。
ハッとして振り向くと…国王と公爵がニマニマしていた。
「あっ…やられましたわ…。」
全ては、アデラインが魔法で作った偽物の姿という鎧を脱がせる為に、二人が画策したのだと気がついた。…純情なディランを使って。古狸めっ!
「ねぇ、ディラン。私は、女王となって民のため、手強い大人達を相手にしなくてはなりません。私を支えてくれますか?」
「もちろんです!貴女を一生守ります。」
――そして、この日。この国に次期女王が誕生した。
お読みくださり、ありがとうございました
m(_ _)m