待ち続けている人達
最終電車を見送ったあとホームに人が残っていないか確認していた、今年この駅に配属された部下が真っ青な顔をして戻って来て私に報告した。
「ホ、ホームに人の姿が無いのに、沢山の女性の声や泣き声が聞こえるのです」
部下の言葉を聞き私は彼に謝罪する。
「あ! ゴメン、注意事項を伝えるのを忘れていた」
部下に謝罪しながら私はデスクの引き出しから線香の束を1ツ取りだし、「ついて来るように」と言う。
ホームに向かう階段を下りながら部下に注意事項を伝える。
「昔この駅から沢山の将兵が前線に向けて出陣していった」
「えっと、太平洋戦争ですよね?」
「お、よく知っているな。
それで今日、8月15日に戦争が終わり出陣していった沢山の将兵が帰ってきた。
でも帰って来られなかった人たちも大勢いる。
帰って来られなかった人たちの母親、妻、恋人が一途に彼等が生きている事を望み、このホームで帰りを待ち続けたのだ」
多数の女性の泣き声や祈りの言葉で満ちているホームの真ん中付近の柱の下に、火をつけた線香の束を置きその前で手を合わせる。
「でも戦争が終わったのって、100年以上昔の事でしょう?」
「ああ、それでも待ち続けているのだよ。
生きていた頃は1年中ここに通っていたらしいが、亡くなってからは8月15日の今日だけ来るようになる。
だから今日だけは最終電車を見送ったらホームの見回りをせずに、戻って来なさい」
「ホームで寝込んでいる人がいるかも知れないのにですか?」
私はベンチや階段の下で眠っている人たちを見ながら部下の問いに答えた。
「あの人たちには人身御供になって貰っているのだ。
7~80年程前から、息子や夫それに恋人を待つ女性達の中から老衰等で亡くなる方達が出始める。
その頃の駅長が霊感のある人で、お亡くなりになってもここに通う霊を観察していて気がついたそうだ。
ホームで寝込んでいる酔っ払い等に霊が抱きつくと、抱きついた霊が成仏する事に。
抱きつかれた酔っ払い等も心筋梗塞で亡くなる。
それは何時も私達駅員の手を煩わしている迷惑な酔っ払いが1人でも減ると言う喜ばしい事。
だから会社も彼女達の除霊を行わず、放置しているのさ」




