ルーシュ視点《4》
学園でのパーティーの日付が具体的に分かってから、マナの寮で割り当てられた部屋のドアを開け放つ。
「パーティーですわよ!!」
「うるさいわよ」
「いひゃいいいい!」
左右に頬を引っ張られました!なぜです!?
ひりつく頬を自分で撫でて慰める。酷いです。私別に変なこと言ってませんのに。
「まさか本気で出ようって言うんじゃないでしょうね?」
「ダメですの!?」
学園に入ってから初めてのパーティーですよ!?そんな、そんな!
「せっかくの友人チャンスが!」
「だから煩いのよ」
「ひゃからにゃんじぇ!」
せっかく慰めた頬をなぜそんなにいじめますの!?別に何も悪いことしてませんわよ!?
「そもそも学園のパーティーに友人探しに来るやつなんて居ないわよ」
「…そうなの?」
「貴女、パーティーを何か勘違いしてるわよね? なんで?」
「お兄さまが嫌がるからパーティーに出たことがないんです」
人前に出る時顔色を悪くするお兄様がすぐに浮かぶ。私を守るように背に隠して、大丈夫だと必死に微笑んで下さるお兄様。
「侯爵の地位に居ながらそれってどうなの?」
「お兄様が嫌な事は私がするのです」
「…」
「私には友人が必要なんです、一人じゃダメなのですわ」
「私が居るじゃない」
「マナは大切な親友です、でもそれじゃダメなのです、だって貴女は」
マナは商家の産まれなのだという。お父様が歳が近いから話が合うだろうと紹介してくれた時からマナは変わらず私の一番の親友で。
でも
「学園を出ればもう会えないではありませんかっ」
「ルーシュ?」
私が嫁ぐ先が本当にあの婚約者の元なのかは分かりません。お兄様のお考えは分かりません。教えてくださいと聞いたところできっと答えてはくれない。
「友人が…欲しいのです 」
マナも大切で、大好きな事には違いないのです。きっとこの先マナ以上の友人には出会えないだろうことも分かります。ですが。
ですが。
「一人は寂しいのです…っ 」
我儘でも、成長しなさいと言われても。それが普通なのだと告げられても。
「ひとり、は」
「…はぁ、本当にあなた馬鹿よねぇ」
優しく撫でられるとさらに勝手に涙がこぼれます。それを拭ってもこぼれます。らしくもなく。
あぁ、お兄様がいない今でよかった。
「行くのはいいとして、あんたエスコート役どうすんのよ?」
「えす、こーと?」
「自称婚約者殿は転入生にご執心なんでしょう? あんたパートナーいないじゃない」
考えてもいなかった問題に体が固まる。エスコート役。パートナー。
「考えてもいませんでしたっ」
「でしょうね」
「ど、ど、どうしましょう!?」
正直あの婚約者様と一緒にダンスなど考えたくもありません。折角の友人作りの機会ですのに!
「お兄様に…いえ、人嫌いなお兄様を人前に出すのは忍びありませんし本末転倒ですわ! それに、そうなっては家に連れ返されかねません…っ」
「あんたも大概だけどお兄さんも結構やばいわよね」
「やばい…?」
「頭がおかしいって事」
「!?」
「まぁ、仕方ない…安心しなさいルーシュ」
マナが美しい笑みを浮かべて私の頬をするりと撫でる。そして綺麗な目を細めて私を見下ろして────。
「いい考えがあるの。貴女の願い叶えてあげるわ、仕方ないからね」
そうして私のパーティー参加が何とか決まったのでした。