ルーシュ視点《3》
「ごめんなさい、マナ」
次の日、昨日の連れて行けとごねて断れたことで拗ねていたことを私は反省していました。
親友だからと、色々な所について回ってはきっとマナも息苦しくなってしまうわよね。
「…は? なにが?」
「昨日の事ですわ、マナの用事なのに着いていきたいとごねてしまって、反省しましたの私」
「それを馬鹿正直に言ってくるあたり頭に花咲いてそうよね…」
深いため息を吐かれながら頭を撫でられる。どうしたのかしら、いつもより撫でる力が弱いような…?
首を傾げてマナの綺麗な顔を見上げていると、力強く教室の扉が開けられました。バン!って音がしました。耳がキーンってなりました。マナの眉間にぐっとシワがよりました。
よってしまったシワを丁寧に手でグイグイと伸ばそうとしていると「ちょっと!」と肩に手を置かれる。
何かしら? 私は今忙しいのだけれど…?
「はい?」
「無視するなんて…最低です!」
くるんくるんの髪が可愛い女の子は軽蔑したような視線をこちらに向けて来ます。でもマナの方が怖い顔しているし気のせいかもしれません。
「ご気分がすぐれませんの? 保健の先生お呼びしましょうか?」
「まぁっ! ご自分が悪いのに私が悪いと仰るの?!」
うーん? 話が食い違っている気がします。どうどうとなだめ落ち着かせようとしてもきーきーと騒がれるので意味がなさそうです。
「無視したつもりはございませんが申し訳ありません、それで私になにか御用ですか?」
「っあなたねぇ!」
その後に語られた言葉は私にはピンとこないお話でした。曰く、貴女が男にだらしないから婚約者が別の女性へ心を寄せてしまうのだと。だから婚約者や相手を責めるのはお門違いだと。
「婚約者…」
「婚約者ねぇ…」
浮かぶのは入学式初日に出くわしたあの初対面の方を罵れる妄想力の高い人。
あの人を私が責める?
そんなことする意味もなく、あれ以来会ってもいません。
「どういうことですの?」
「転入生に貴女の婚約者が貢いでいるのよ!」
「貢ぐ…」
確かにお金はありそうでしたわね。貢ぐのも容易そうです。にしたって仮にも私の婚約者を名乗っているというのにそれはいかがなものか。
「…貴重な情報ありがとうございました、こちらでも調べてみますわ」
「なにを…」
「あの人に興味がなかったのが良くなかったのでしょう、なんだか勝手に悪化していっておりますし本当に助かりました…そう言えばあなたのお名前をお伺いしてませんでしたね? お名前をお聞きしても?」
私にわざわざ教えに来てくれるような心優しい子だからもしかしたら友達になれるかもしれない。ちょっと口は悪いけど人が悪いって訳でもなさそうですし。
少し心躍らせながら、マナに肩を叩かれてハッとする。
いけません。流石にあちらが私のことを知っていたとしても名乗ってない私が名を聞くなんて失礼ですわよね。
「名乗らず名前を聞いてしまい、申し訳ありません、私はルーシュ・バハールと申しますの、どうぞよろしくお願い致します」
にっこりと軽く礼をすると顔を真っ赤にした彼女と目が合いました。この方も随分可愛らしい人だと思う。勝気に取れるつり目だけど、優しい光があるし、きっと仲良くなれると思うの。
「っ覚えていなさい!!」
「え?」
扉の近くで待っていただろうご友人と教室を出ていく彼女を唖然と見送る。何故?
「なぜ、あの方は怒ってらっしゃったの……仲良くなれると思っていたのに…」
「時々ルーシュってとてつもなく凄いわよね」
「凄い?」
「ええ、普通に話しているはずなのにまともに相手に通じないんだもの。」
相手に通じていないから、お友達になってくれないのかしら…。反省致しますわ! 次こそは完璧な自己紹介を致します!
ぐっと拳を握る私をマナがなんとも言えない視線を向けて見守っていた。
ルーシュ「私はルーシュ・バハールと申します、あなたのお名前は?」
が
「私はルーシュ・バハールと申します、あなたのお名前は?(そんな私に文句が言えるあなたはどこのどなたなのかしら)」
と取られる悲しき天然




