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ルーシュ視点《1》


 

 とある兄妹(きょうだい)の話をしよう。

 これはとても仲のいい兄妹の、いつも通り妹から近状報告された兄の届かぬ叫びと…周りの悪意が届かぬ天然な妹により構成された悲劇になりきれなかった話である。


 

 後に兄、ルリアルトは語る。学園に行かさずに自分が勉強を教えればよかった、と。

 

 後に妹、ルーシュは語る。お兄様はとても凄くて、素敵で、でも人の見る目はなさそうなので私が気をつけますね、と。


 さて、まず語るとするならば、妹に起きた不快なる元婚約者との出会いからだろう──────────

 ─────────

 

 

 

 

 「お前がルーシュ・バハールだな」

 

 中庭でご飯を食べようと歩いていたら、突然後ろから声をかけられ振り返る。深い青の髪に透き通るように綺麗な水色の瞳。程よく整った顔立ちの男の人はとても不機嫌そうに(わたくし)を見下ろしていました。

 

 「はい、私はルーシュ・バハールですわ、そちらはどなた?」

 「はっ、婚約者の名前すら覚えていられないとは、知能は獣以下か?」

 

 婚約者…?

 知能は…獣以下?

 思わず言われた言葉が理解出来ず固まる私を隣にいたマナが前に出て庇ってくれました。綺麗な白金の髪がふわりと舞うのを見ているとすぐ手を伸ばし触れたくなるのですがぐっと我慢します。マナが“この顔”をしている時にちょっかい出すととても怒られるのです。

 

 名もわからない男の人は目の前に出た美しいマナに目を一度奪われ、惚けたあとすぐに持ち直しました。素直に凄いですねと拍手しそうになりぐっと堪えます。マナに怒られたくありませんから。

 

 「聞き捨てならないお話が聞こえた気がしたのだけれど、あら?気の所為かしら?」

 「…勝手に俺の前に出るな、用があるのはルーシュ・バハールのみだ」

 「貴方こそ、勝手に“私の”ルーシュに声をかけないで下さらない? それもそんな紳士あるまじき声なんて聞いてて耳が穢れそうですの」

 

 マナは私の両親がまだ生きていた頃に知り合った子で、所謂幼なじみというものです。人嫌いで外がお嫌いなお兄様が居ないこの学園で私の事を守ると仰ってくださるとても素敵な女の子です。

 

 「なんだと!? 声を聞くだけで穢れるわけがないだろう! 穢れるとしたらその女のそばに居るからだろう!」

 「?」

 

 そこの女とはやはり私でしょうか? にしても全く記憶にない方に罵られるのは初めてです。なにか私したのかしら? でも学園に来る前はお兄様とずっと一緒に居て外に出る事の方が少なかったわよ?

 

 「獣以下の知能は自己紹介でしたのね! 失礼致しました! 私察しが悪くて!」

 「なっ!」

 

 マナがおほほと口元を隠して笑っているだろう事が簡単に想像出来る。怒られる時は大抵その顔なのです。とても怖い顔をしているので、そんなマナに言い返せる男の人は本当に凄いです。やっぱり拍手したらダメかしら。

 

 あ、私たちの方を見ていた方が可愛い小鳥たとにご飯をあげているみたいです。凄い勢いで小鳥たちがお弁当箱つついているのは微笑ましくて思わず口元が緩みます。

 

 可愛いわー!

 

 「っ! 取り巻きを前に立たせ自分は笑うなど! 本当に性根の腐った女だな!」

 

 あら、まだお話していたみたいです。私も話に参加してもよろしいのでしょうか? マナをちらりと見ると鼻で笑われました。ダメみたいです。でも鼻で笑うマナもとても様になってて素敵ですわ。

 

 にしてもこの男の人初対面の相手にそんなに罵ることを見つけられるなんて、実は想像力がとてつもなく凄いのね!

 

 「そもそも本当に貴方如きがルーシュの婚約者なの?」

 

 呆れたようにそう吐き捨てて、付き合ってられないわねと私の肩を抱いたマナが「その緩みきった頬どうにかしなさいよ」と寮へ送ってくれました。

 

 そんなに緩んでたのね!

 

 「あなたのお兄様よね、当主」

 「そうですわ! 当主はお兄様ですの!」


 「会ったことがないから分からないのだけれど、貴方の知らない婚約者って有り得るの?」

 

 会ったことない婚約者。浮かぶのはいきなり罵ってきた先程の男の人。

 

 確かに綺麗な人で、何人か周りの人に見つめられていました。 

 

 「…お兄様はとってもお優しい人です、私の知る人の中で一番お優しくて強くて、すごい人です」

 「…そう」

 「だからきっと訳があるのでしょう、そしてお兄様はお優しいから私に言えなかったのかもしれません」

 

 両親が死んだ日を思い出して。ぎゅっと制服の胸元を握り締める。お優しくて、強くて、すごいのです。

 

 

 私が泣いていると、いつだってお兄様は抱き上げてゆっくりと微笑んでくれます。

 


 お爺様に似たという灰色の瞳が柔らかく細められると涙は勝手に引っ込んで。灰色の結われた長い髪が光を少し含んで揺れているのを見ると何故か安心して。

 

 ルーシュと呼んでくださればとお父様もお母様もいない夜を越えられた。

 

 その後私が落ち着くまでマナがゆっくりと頭を撫でてくださいました。

 

 

 

 

拝啓、お兄様いかがお過ごしでしょうか?の連載版始めてしまいました!

お楽しみ頂けたらと思います!さらっとすすめてサラッと終えたいー!

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