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第一章 「少女と探偵」 2

『ファミリーマークK』

 目に痛い、桃色のストライプで装飾されたコンビニの自動扉が、『ブーン』という軽快な音を立てて開く。

 先ほどのオヤジと清水さんのやりとりをはたから見た人は、どこかのオカマバーへ客引きをしているように勘違いしたかもしれないが、オヤジが言っていたお店とは、このコンビニのことである。

 そう。オヤジはコンビニを経営している。

 と言っても、コンビニを副業で、このコンビニは言わば表の顔だ。オヤジと俺の本業は、様々な謎や疑問を解決するいわゆる探偵業を生業としている。

 そして、さっきはそのために現場へと聞き込みを行っていたら通報され、その結果、俺がオヤジを警察署まで引き取りに行ったというわけだ。

 ペロペロピローン。ペロペロピローン。

 派手な入店音が店内で木霊する。と同時に、

「帰って来たわね」

 レジのお姉さんが、俺たちを迎えた。

「おつとめご苦労様」

 そう言ってペットボトルを差し出す女性――立花百合さんは、オヤジが用事で外出する時などに、代わりにこのコンビニを切り盛りしている。加えて、オヤジと俺の探偵業の経理なんかも担当している何でも屋のような存在だ。

「ありがとうございます。今日もまた一段と綺麗っすね」

 百合さんは、「そんなことないわよ」と謙遜しつつも、「苺大福もサービスしちゃうわ」とレジ横にあった商品を手渡される。

 お世辞ではなく、百合さんの見た目はモデルのようにナイスバディである。いつも妙な色気を発していて、百合さん目当てでこの店へ来る奴もいるくらいだ。年の頃は二十代半ばといった感じだが具体的な年齢は分からない。そんな年齢不詳の綺麗なお姉さん的存在な人だけど、いつだったかどこかのガキんちょが百合さんを、『おばさん』と呼んだ時、百合さんに凄い殺気を感じたことがあり、以来、俺は百合さんをそう呼ばないように注意している。

「今度はどうしたの?」

 百合さんの大きな瞳がオヤジへと向けられる。

「コンドーはね――」

 俺はオヤジの尻を蹴って、代りに答える。

「いや、例の事件の聞き込みで大学病院内を聞き込みしていたらしいんだけど……」

 ――例の事件。

 それは、とある失踪事件だった。

 何でも近くにある医大の医学生兄妹がそろって失踪してしまったらしく、その調査依頼が、この探偵事務所に舞い込んだ。

 オヤジは、依頼を快諾して、まずはその兄妹の身辺調査とのことで、大学のキャンパスで聞き込み調査を始めたのだった。

「で、不審者として通報されたってわけね」

 百合さんは、オヤジの風貌を見て呆れる。

 勝手知ったるなんとやら。話が早くて楽チンだ。

「んも~。アタシは、不審者じゃないわよ」

 地団駄を踏みしめるオヤジを、まあまあとなだめる百合さん。それから百合さんは、「帰って来てそうそう悪いんだけど」とバックヤードの方へ視線を向け、

「お客さん、来てますよ」

 とオヤジへと告げた。

 ここで言う所の、『お客』とはコンビニの客ではなく、探偵に対しての依頼者を指す。

 ちなみに、俺はまだ探偵としてはまだ見習いなので、必然的にオヤジが依頼者の話を聞くことになっている。

 しかし、今は失踪事件の依頼を調査中だ。小さな依頼ならいいが、デカイ案件だと俺たちだけでは手が足りないよな……。

 何となく手持無沙汰になった俺は、自然と雑誌コーナーへと足を向ける。

「あ、武蔵ちゃんは、迷い猫捜しの続きをお願いね」

 さすがは我が事務所の会計担当。引き受けていた本人が忘れかけていた依頼を思い出させる。

 ウィンクで促す百合さんに従って、俺はその足でコンビニを出てスクーターへとまたがった。



                    *



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