第1章 第3節 決断と強敵
誰一人として待っていないであろう続編です。
幻妖に対しての説明は今のところ一切ありませんが、妖怪、亡霊、悪霊の類だと思って読んでいただけると納得が行くと思います。
更新遅れてすみませんでした。
突然の告白。
あらまビックリ愛の告白。
「一目惚れしました」なんて一生言われることなんてないと思ってたからすごい嬉しい。
しかし。
呑気に嬉しく思って居られるほど、感じの良い状況でもないということに意識を向けなければならない。
でも、人間とは単純で、ついつい告白の方に意識が持っていかれる。
しかし、それを振り切って考えると、やはり、告白に気を取られている場合ではなく、むしろその切り返し、そしてその先について考えるのが先決。
しかしながら。
やはりこいつはアホの子なのだろうか?
ビャクとヨルは仲が悪い。周知の事実。
俺は別段ビャクの人達が嫌いではないし、仲良くなろうと思えばできるだろうが、俺は創始者を祖先に持つ久遠家をとことん恨んでいる。やはり、それでもビャクの人達を嫌う理由にまではならないのだが。
いずれにせよ、互いに確執があることには間違いがない。
さらに特筆すべきは俺はこいつのことをほとんど知らないという事だ。
だから、好きになれるか、付き合えるか、そんなことは考えられないし、告白に対する対応にどうにも困る。
まぁ、「一目惚れしました」とは言われても、「付き合ってください」とは一言も言われてないからここで迷うのは早とちりもいいとこだか、それを引いてもこの状況は困るのだ。
相手が一方的に好意を向けてくれるこの状況で、それを軽くあしらえるほどの利己心も恋愛経験も俺にはない。
後者においては、「俺、こいつのことを好きかもしれない」とかいう愉快な勘違いまで産んでしまいそうなレベルだ。重症だ。
先の自己紹介で、俺の身元と状況と、(元)親に対する心情も、「あるかも」なんて言って本当はない答えを知らせるために事細かに説明をした。……っていやちょっと待て、要は、どういうことだ?「一目惚れ」について話したかったら何故、久遠常夜について聞く必要があったのか分からなくなる。
もし仮に、久遠常夜が父親にあたる人物であるかという質問が本命の話題なのだとしたら、考えられることは2つだ。
1、父親に一目惚れしているので、俺から伝えて欲しい、という事。
しかし、これには重要な欠陥があり、それは、確かに俺の父親であった、しかし、確執がある。そして、その事を知った上で何故告白するかという疑問が残ってしまう、という点だ。
2、ヨルに属しているという時点で既に父親となにかあったか、あるいは父ではないのかがおおよそわかっていた上で、確認を取り、告白しても良いのか判断、それを踏まえて告白をした。
後者であると考えるのが一番理性的且つ合理的且つ理想的且つ楽観的だが、そこには俺の認められない部分を擁している。
それは、「こんなラブコメ展開は落ちこぼれにふさわしくないのでは?」というくだらない心持ちだ。
確かに、俺はラブコメに縁遠い生活、人生で、なんならいじめにあって自殺ルートまで存在していたレベルだ。
だから、自分の良い方向に進むと考えるのに抵抗があるのだ。
そして何より、この解が不正解だった場合に自らの受けるダメージが即死級であるという点だ。
いや、ちょっと待て、いやいやいやいや、おかしいおかしい。そもそも、俺に対する告白かなんて、迷うべくもないことだろう。
なぜなら、俺がテンパって聞いた「マジ?」は頷きで返され、しっかりと確信に変わったのだから。
「……ちょっと楓夜くん!どうかしたの?あと……その、返事が、気になるんだけど……。」
はっ、深く考えすぎだ。損得勘定で迷うなんて、嗚呼、何たるクソ野郎。割とあんじゃねぇか利己心よォ。
「悪い、考え込みすぎた。……うん。『一目惚れしました』、なんて、とても嬉しいんだけど、悪いが、俺は君のことをほぼ知らない。これから君がどうしたいのかは分からないけど、恐らく、その気持ちには応えられないだろう。どちらにしても、俺なんかよりもっといい人がいるはずだから、他を探した方がいい。言ったはずだぜ?俺は落ちこぼれだ。そして、ヨルの若頭だ。もし付き合うとかしても、障害は必ず待ち構えてるし。」
そう、答えると彼女は。
「うん、分かってるよ、でも、諦めないから。私は、それでもいいから付き合って欲しいの!」
嘘や迷いを一切感じぬ真っ直ぐな瞳。一途だなぁ。俺には眩しい。
その眩しさに耐えきれなくなり、
「本っ当に付き合いたいの?」
などとぬかしてしまった。
「うん。」
生真面目に、そして、照れた様子で、迷いなくそう返す彼女。
「俺はまだ君をよく知らない。好きでもない。可能性はあるけど、そんな状態で関係を結んでも、続かないと思うけど?」
「うん。」
「それでもいいの?」
問答をしつつ、早くも揺らぎ始めている自分が情けなくなってくる。表情も、どんどん迷いに満ちていっていることだろう。
しかし。
「うん。」
そんなことは気にしないとでも言うかのように、強く、頷く。
分かっている。分かっている。こんな暴挙、許されるわけがないことも。分かっている。分かっていた。それなのに。
「じゃあ、わかった。付き合おう。これからよろしくね。ただ、周りには隠すし、無理だと思ったりしたらすぐ別れよう。」
どうしても、断る勇気がなかった。
俺は最低だ。
こんな俺と付き合うことに意味なんてあるのか。後悔させてしまうのではないか。
そんな後ろ向きな疑問は、目の前で喜びはしゃぐ彼女の前には無意味なのだった。
「じゃあ、よろしくね!楓夜くん!!」
そう言って俺に向けたその笑顔は、俺の脳裏を焼き尽くし、惹きつけ離さない程に魅力的だった。
その時、俺が感じた動悸を、緊張を、火照りを、どの言葉で表すのが正解か、俺は考えることすら出来なかった。
その後、俺は「彼女」と連絡先を交換し、別々の方へ歩いた。
帰宅した後でも、なし崩し的に付き合うことになってしまった罪悪感と、何より強く残ったあの笑顔が、俺の目を冴えさせていた。
今日という日に限って仕事が入らない。
いつもなら早く寝たいと思う所だったが、今日ばかりは何かに没頭して一瞬でも気を紛らわせたいと願っていた。
迷いに迷い、罪悪感に駆られながらもこの先の事を考え、そして、途方に暮れた。
そんなこんなで、眠りに落ちた。
目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴る。
朝だ。
今日も自分の手でお弁当を作り、いつも通りの時間に家を出て、徒歩で登校する。
いつもと変わらぬ、日常。
玄関を開けると、そこには見慣れた風景と見慣れぬ顔があった。
柳原朝妃。
朝にまで来るとは思ってなかったので、思わず驚いてしまった。
「おはよう楓夜くん!」
元気のいい挨拶。
「おはよう!……って、えーっと、なんて呼べば……。んー……。柳原?」
なんか、俺は下の名前で呼ばせているけれど、付き合って初日で、(しかもなあなあな関係で)突然下の名前で呼ぶのはかなりハードルが高い。
「ちょっとー!君は私に下の名前で呼ばせておいて、君だけ名字呼びなんておかしいでしょ!ちゃんと下の名前で呼んで!!……つ、付き合ってるんだから……。」
また、あの感覚。あの時の笑顔と対面した時の、あの感覚。
昨夜、しっかり寝ても、まだ分からなかったこの感情の全貌が、少しずつではあるが、見えてきているような気がしている。
「え、じゃあ、おはよう朝妃。」
喰らえ、全力スマイル。
「うん、おはよう……」
……俺の迂闊な笑顔のせいで、そこから会話が生まれてこなかった。
本日の授業は、2日連続の休みのおかげか、あるいは別の理由からか、しっかりと起きて受けていた。
いつも通り帰ろうとしたら、自分の中で、いつも通りでないことに気づいた。彼女がいるという状況で、1人帰るのはなにか違う気がした。
成り行きで付き合い始めたけれど、だからといってテキトーなのもダメだ。
とかいって俺がただ一人で帰るのが嫌なだけかもしれないけどな。
というわけで、隣のクラスを覗いて見た。
いない。
携帯を開いてメールボックスを見てみる。
着信は1件。
朝妃から。
「幻妖がでたので、途中から学校いなくなる。学校いなかったらそういう事だから、一緒に帰れない。ごめんね。」
なるほど。
「いつも通り」1人で帰ります。
家に着いた。今日の授業は5時間授業だったから、今は3時半を回ったくらい。
あと30分後、もし幻妖が出た場合、俺らが出動しなければならない。それが憂鬱で仕方がない。
4時。
携帯の着信音だ。
本部から。
通話ボタンを押す。
「もしもし。」
『楓夜くんかい?』
「はい。」
『幻妖が出現、怨念型。2時頃の出現だ。つまり、未だにビャクが交戦中。』
「要は、助太刀に行けということですか?」
『そこは、若頭の君に任せよう。それでは。』
「ちょっ……」
切られた。
ヨルのメンバーに一斉送信。
「出動命令。否、命令、2時頃よりビャクが交戦中の幻妖の討伐の助太刀に行く。だから来て。助太刀だから、仲良くしろ。というのも、久遠常夜がいるのに倒せないほど厄介らしい。ぶっちぎったらたたっ斬る。」
これで来なかったらまじでぶった斬ってやる。
本部から送られてきた位置情報。そこに到着した。
そこには既に、ヨルのメンバーがいた。
「おいおせぇぞ若頭!」
お調子者の「トバリ」が言う。
「2分前に来たばっかの奴が偉そうには言えないでしょう」
と、男なのにあだ名が“ママ”の「ツクヨミ」。
「まぁ、言い出しっぺなんだししっかりしてくれよ?なぁ、若!」
最年長の「ヨカゼ」。
ああだこうだと、色々な人が色々言っていたが、他は略。
どうでもいいが、俺の偽名は「カゲン」だ。
「マンゲツ」、「ミカヅキ」、「ジョウゲン」はかつてにいたらしい。なんてこった。
ちなみにヨルのメンバーは10人のみ。
ビャクが15人ほどであるのに対し、こっちはだいぶ少ないが、その代わりに男女比が違う。
ヨルが男:女が1:0なのに対し、ビャクは2:3だ。
まぁ、イマイチ、そこはどうでもいい。
とりあえず、全員集合した。あとは、戦うだけだ。
この場所から戦場までは5分とかからない距離だ。距離にして2キロ。
みんなは空を飛ぶので、5分ほど、全力で急げば2分ほどで着くが、俺は生身の全力疾走でも10分はかかる。
魔力によるエンチャントがなければ遅れてしまう。
俺の体にエンチャントするものは、刀だ。
鞘から抜かれ、刀身が顕になることで、俺の体にエンチャントが付加される。
ので。
刀を抜いて、全力疾走!
2分で着いた。
まだ彼らが来るまでには時間がある。
しかし、若頭、とは言っても、指示をできるほどリーダーとしての才能はないので、もう戦い始めよう。それしか出来ん。「俺の背中についてこい」方式を取ろう。
そう言えば、敵ってどんな……
……目の前に広がる光景に、俺は驚きを隠せない。否、初めから気づいていた上で、目を逸らしていたのかもしれない。無意識に。
ビャクが2時間をかけて戦い、未だ決着のつかぬ、その理由が分かる。敵それぞれがそこそこ強く、数が多いためだと思っていたがそうではなかった。
目の前にいた敵は。
ただ、デカく、ただ、強かった。
15人ほどいたビャクのうち、3人ほどが隅で治療を受けていた。副団長である柳原朝妃、もう1人の副団長と、団長である俺の元父は、以前最前線で戦い続けているが、攻撃が上手く入っていないと見える。疲れと、ダメージがそれ相応に蓄積しているのだろう。
思いのほか、一刻を争う状況のようだ。
眼前で攻撃を続ける敵、巨大なドクロのような風体を表す、「餓者髑髏」と呼ぶにふさわしい、怪物。
俺は、そこに飛び込む。
途中、ルビ振るのがめんどくさくなってしまったので、これから、その節に初登場人名以外は振らないこととします。ご了承ください。
また今回も中途半端な終わり方ですが、第1章の中では2番目くらいに大きなイベントですので次回盛り上げます。
今回も、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
お気に召しましたら、感想、レビュー、批判等下さるととても嬉しいです。
それでは。