第1章 第2節 柳原朝妃
続編です。
フラグ立てるのも伏線張るのも苦手ですので、面白みに欠くかもしれませんが、お付き合いいただけると嬉しいです。
また、今回では、個人的に大きな挑戦となるような部分でありましたので、感想やブクマ、批判批評、下さるととても嬉しいです。
「おはよう!」
辺りに沈黙が染み込むようだ。
一人暮らしバンザーイ⤵︎⤵︎⤵︎
今日も朝食とともにお弁当を作り、学校へと向かう。
昨日、実は夜も幻妖発生したらしいけど、昨日1人で戦ってたのは知られてたので、他の人達がやってくれてたらしい。
6時間睡眠バンザーイ⤴︎⤴⤴︎
俺の通う学校は、家から徒歩で20分くらいのところ。近いとも遠いとも言えない。ギリギリ魔術による飛行が許可されない(なんと、道を挟んで向こう側の家は許可される)ので、毎日徒歩だ。まぁ、魔術使えねぇからカンケーねぇけどな!!
10分ほど歩いたところで、上から声をかけられた。
「おはよーう!」
悪いけど、この時間めっちゃ人いるので、誰から声かけられたのかはわからん。
しかし、声に聞き覚えがあり、俺の本能が「逃げろ」と言うけど、逃げては不自然なので、無視を取るとしよう。
すると今度は……
上から降ってきた。
俺の頭の上に。そして俺は、今そいつを肩車している。
すなわち、スカートの中に頭がすっぽり。なにこいつ、狙ってやってんの?
パンツなんて見たかないけど、パンツ見える訳でもないし、まして息苦しいしそして何より、重い。まじで重い。俺になんも得がねぇよ。
ので。
「降りてくれません?」
「あ、ごめんごめん、テンパっちゃって。」
テンパってんなら落っこちろよ。
思ったけど、口には出さぬ。俺、優しいからね。
「ねぇ久遠くん、君って……」
「非常に申し訳ないんだけど、俺久遠って名字今すぐに捨てちまいたいくらい嫌いなんで、その呼び方はやめてくれない?」
嫌いな理由は、まぁ、察してよ。
「分かった。けど、私君の下の名前知らないんだ!」
「あっそう、俺は君の名字すら知らないけど。」
「えっひどい。」
「は?どの口が言うか。名前知らないくせに人を呼び止めたコミュニケーション能力が高い柳原朝妃さんには、下の名前も知らないような人に声をかけられるんだろうけど。俺は俺の名前も覚えてないような関係の薄いやつとは喋ることなど出来ないので。コミュニケーション能力ないから。」
ツッコミどころ満載のねちっこい話術。ツッコミどころの分からないおつむが残念なバカの子には、ただの鬱陶しいやつでしかなくなる。しかし、ツッコミどころがちゃんとわかるやつなら、ある程度会話が成立する。ついでに、そこまで悪い印象もつかない。
さて、こいつは?
「なんだよー。名前覚えてんじゃーん!ツンデレくんだなぁ君はー!!」
馬鹿じゃないけど、馬鹿だな。うん。1番めんどくせぇよ。
「まぁ、ツンデレじゃないけど。デレゼロパーセント状態をみてよくツンデレとか言えるな。ただの皮肉だわ。」
「で、本題なんだけどー……。」
はぁ、皮肉が一切効かないわけね。
あーーー、心底鬱陶しい。
皮肉を受け付けず、こいつは続ける。
「この前の仮面の少年は、君で合ってるよね?」
「その根拠は?」
「寝癖だよ?」
なるほどな……。クソが。こんなことになるなら毎朝早起きして直すわ!
「あと、これは根拠になりにくいけど、声も似てたし、学校だと、怒ったり、冗談でも、『ぶっ殺すぞ』とか、『ぶっ飛ばすぞ』とか、『ぶん殴るぞ』が主流なのに対して、君の口癖は『ぶった斬るぞ』だったから。君、剣で戦うでしょ?」
こっちの方が明確な根拠じゃねーかよ。
そしてコイツ、地味に頭回りやがる。
あああ!!本っ当にめんどくせぇ!
しかしながら、どうやら抵抗は無駄らしい。
というか、避けたい相手は皮肉でなんとかなってたから、こんな皮肉耐性MAXみたいなやつは対処できん。ろくに人間関係作りしてこなかったせいか。友達が居れば別にいいとか思ってたしなぁ。
ということで、俺は。
降伏する。
「はい、そうですそうです。いかにも俺がヨルの若頭、久遠楓夜ですよ。下の名前わかったんだから、これからはそっちで呼んでな。」
「じゃあ、後で話あるから、放課後また、会おうねー!」
学校まで、残り5分くらいの場所にいた俺は。
詳しいことの分からぬ、困った約束を突きつけられた。
ぼんやりと授業を受けていたら、放課後になっていた。
あれ、約束どうしよう。
当然だが、俺はアイツの電話番号も連絡先も知らない。
まぁ、一方的な約束だったし、相手から来るか、最悪、帰っても文句を言われる筋合いはないんだけど、約束を破ることには抵抗がある。
とりあえず、柳原朝妃の在籍する、隣のクラスを覗いてみた。
そこにはヤツがいた。
なんと寝ていやがる。
「これ、帰っても文句言われねぇよな?」
いや。
でも。
さすがに。
……良心VS利己心。圧倒的良心の勝利。
「おい起きろ。」
「はっ!!!」
物凄い勢いで机から顔を上げた。
「あぁ、ちゃんと来たんだね。えっ……と、ふ、ふうたくん?」
「残念、俺の名前は楓夜。ふうたくんに用事なら他を当たれ。」
まぁ、呼ぼうとしただけマシとしよう。
「さて、なんで俺を呼んだわけ?」
「ねぇ、フーヤ君は、久遠常夜さんの息子さん?」
分かってた。
「はいストップ。めんどくさいので、深く細かく自己紹介するわ。もしかしたら、その中にお前の欲してる答えはあるかもしれない。」
では。聞いてもらおうか。
俺の話を。
くどいようだが、俺の名前は久遠楓夜。そろそろ覚えてくれ。
6月17日生まれ、現在17歳。
久遠常夜、久遠楓果の間に生まれた。
久遠といえば、みんな誰もが知っている。
最強の魔術師の一族として名高い、高貴なる家柄にして、「ビャク」の創始者が祖先にいるとされている、とても有名な家。
そして、久遠常夜は、現在、「最強の魔術師」と呼び声が高い。実力は、類を見ぬ強さ。なんだそう。
ちなみに、俺の魔力の属性は風属性。色が少し特殊で、魔力の本来の色は緑であるはずが、何故か紫色だった。
こういう、魔力の色が違うとかいうことは、世界的に珍しいと言えば珍しいけど、そこまでじゃなくて、案外よくあることなんだそうだ。
実は。
これが原因でイジメにあう者が多いらしいのだが。
俺にはその心配がなくなってしまうんだよ。
結果として。
ある日、ガキの頃。俺は魔力の扱いを上達させるために夜まで家にある修練場で練習していた。家から徒歩5分ぐらいの所にあるそこから帰る最中、幻妖に襲われた。
集団で襲ってきたそいつらに、少しは太刀打ちできた俺だったけど、やはりガキは無力。2体くらい倒して魔力が切れた。
そこに、ヨルは来た。
そこには、当時のヨルの若頭、そして、剣術の名家として有名だった日向島一門の当主だった日向島黒刀さんがいて、俺を助けてくれたのだ。そう。刀で。
その時の戦いを見た俺は、刀に魅入られた。翌日、日向島黒刀の元を訪れ、弟子入りを志願。
しかし、元々俺は久遠家の息子。武器による戦闘は、禁止されていた。
だから、俺は親に隠して弟子入りをした。
まず、刀の打ち方から学び、その後、剣術を教わる。という流れだった。つまり、刀を打てるようになったら、剣術を磨き、それが大成したら、自らの手で、この先の愛刀となるべき刀を打つ。というカリキュラム。
2年ほど修行し、刀の打ち方をマスターし、また2年ほどが経ったとき、剣術は大成した。
そして、自らの刀を打つ時に、事件は起きた。
刀の素材となるのは、「魔鉄鋼」と呼ばれる金属の1種だ。それには、刀を打つ工程である「タタラ」の際、不純物が抜けると、その開いた隙間に魔力を染み込ませることができるようになる。
それを行うことによって、自分の魔力が刀と適合するようになり、魔術と組み合わせた攻撃が可能になり、そして硬度が高まる。(おまけだけど、魔力の色によって刀身の色も変わる)
それは魔力を込めれば込めるほどより強くなるのだが。
俺は少々、やりすぎちまって。
その時の俺は小学六年生と幼かった。刀を打つのには腕力が必要だった。そして足りない腕力を、あろう事か、魔力で補ってしまった。
……元来、魔力を供給、放出する器官は(マナベースと言ったり、魔力基と言ったり)は最も放出に使う場に限られる。(幼い頃はテスト期間のようなもので、どこからでも出せるということらしい)
つまり、タタラを打つこの手から、ハンマーへ魔力が伝わり、それがさらに刀身に伝わって、結局放出されたのは刀身及び刀の本体。
そして何より運が悪かったのは、刀を作るのに2年もかけて、魔力基が定着するには十分すぎる時間だったこと。
つまり。
俺の魔力基は刀に移ってしまった、という事だ。
ちなみにだが、この事例は世界でも片手で収まるくらいの件数しかない超超超レアケースらしい。依り代が刀になっているのは人類で俺が初だ。ちなみにそれによって家を追われたり、今後に支障をきたすパターンは、その全員には当てはまらず、というか、俺のみらしい。
そんな世界初いらねーよ。
このことが直接家を追われる原因になる。
武器を使っての戦闘を固く禁じている家柄。
そして俺は刀を使わず魔術を使うことができない。
そりゃ家から追われるわ。
ここからが俺の悲劇の始まりと、ヨルへ入るきっかけだ。
家から追い出された俺は、そのまま日向島家に置いてもらった。
するとなんと、その数日後に日向島黒刀さんが亡くなる。事故死、なんだそうだ。彼なら事故原因をぶった斬るくらいのことをしそうだったから、何だか怪しかった。
まぁ、それはそれとして。
日向島家は黒刀さんで末代だった。なぜなら黒刀さんは当時25歳。結婚していないし、子供も当然いなかった。
つまり、俺は家族に一番近い人すら失った。師であり、若いお兄さんとして、尊敬しつつ友達のような、家族のような関係だった人だ。
既に隠居している彼の親は、彼の家の委任と、日向島一門の当主を俺に預けてくれた。
しかし、俺には職がないし、食費もないし、これから先の学費もない。
そうなると、もう、ヨルに入る以外に選択肢はほぼなかった。
……黒刀さんの意志を継ぐためにも。
……そういうわけで、俺は久遠家を追われ、ヨルに入った訳だが、ここで1つ疑問が残る。
それは、今の俺が魔力を使えないという点。
結論から言えば、俺は魔術が使えるはずだ。だが、使えない。
当然、それには理由がある。
魔力基というのは、元々、魔力の供給と放出を司る器官。
それが、俺にとって刀。
それを壊されてしまったなら当然魔術など使えるはずもない。
刀を折ったのは(元)父親だった久遠常夜だ。
めちゃめちゃ硬く、強い俺の刀も、最強の魔術師の、全力、最高火力の魔術を喰らえば、さすがに壊れてしまう。
その折れた鉄塊から、俺は刀を作り上げ、見た目、強度、色は元通りになったが、魔力基としての機能は、極一部しか残らなかった。
……だから、俺は「久遠」という名字を、肩書きを、今すぐかなぐり捨てたいのだ。
「なんか、脈絡のない話になって悪かった。」
話し終えて、そう告げると、彼女は黙ったまま動かなくなった。
そして2回ほど頷くと、
「なんか、悪いこと聞いちゃったね……。」
と、そう申し訳なさそうに言った。
それに対して、俺が返す言葉は決まっていた。
「そう思うのなら、これからは、俺の事を下の名前で呼んで欲しい。そして、この話を内密にして欲しい。それと、そこまで気負わなくていいし、謝らなくてもいい。そもそも、イエスノーの質問だったのに呼ぶに答えた俺が悪い。こっちこそやな気分にさせてしまってすまない。」
何故かかしこまってしまったけど、まぁそこはいいか。
「じゃあ、私もすこしだけ自己紹介するね。」
表情に、その頬に、赤らみがほのかに映り。
「私、柳原朝妃。17歳。ビャクの副団長やってます。で、その……とても言い難いんだけど……。」
「ん?」
「あなたに一目惚れひました!あっ!!」
「ん?」
噛んでる……。なに?テンパってるってこと?マジなの?今のマジなやつなの?
「ちょっ。ごめ……えっと……。マジ?」
目の前の女の子は大きく頷く。こいつァ困った。
な、なんか、なんだか盛大な何かのフラグが物凄い突然にドーンと建築された……。
今回もちょっと中途半端になってしまいました。
次話投稿、もう少し早められるようがんばります。拙い文章でしたが、お付き合いありがとうございました。