第1章 第1節 若頭(仮)
下手は下手なりに足掻きます。至らぬ所多すぎですが、お付き合いくださると光栄な限りです。
窓の外から雨音が聞こえる。
8月7日、深夜0時。
幻妖出現の報せ。
さぁ、出勤の時間だ。
久遠楓夜。17歳、学生、そして祓魔師。戦闘スタイルは主に剣術。
魔術の名家である、久遠家の生まれにして、幼くして魔力の全てを失った、「一家の恥さらし」である。
目覚ましの音が聞こえる。
6月22日、朝7時半。
久遠楓夜、遅刻の報せ。
さぁ、登校の時間だ。
っじゃねぇ急げ俺!!
慌ただしい朝だ。
昨日、遅くまで起きていた影響で、寝坊をしてナチュラルに遅刻した。
「はよざーっす」
「おい、遅刻の紙は?」
ルールである、遅刻者の入室許可カードを持ってこいと言うこの人物は、我が2年6組担任の教師だ。まぁ、どうでもいいよね。
「一応聞くけど、なんで寝坊したわけ?」
「ああ、昨日夜遅くまでゲームしてましたぁ」
「お前はバカなのか」
「多分そうなんじゃないすかー?」
あくび混じりの会話。
いやぁ、眠い眠い。
というわけで、今日の授業、ほとんど寝たわけなんだけど。
実際、昨日寝られなかった理由は、ゲームをやっていたという訳ではなく。
夜のお仕事、というと、非常に人聞きが悪いわけなんだけど、夜にお仕事してるんです。
って、誰に言い訳してんだ。仕事云々より、二度寝したのが原因だろーが。そりゃ、ねぇ?睡眠時間2時間くらいなら、30分二度寝しても仕方なくない?
だから、誰に言い訳してんだっつーの。
「今日は寝たいなぁ……。」俺は呟く。学校であんなに寝たのに。
まぁ、この時点でもう、既に寝られないフラグ立ってるんですけどね。
あと、なんか忘れてる気がするんだよね。
まぁ、思い出せないってことはどうでもいいことなんでしょう。
とりあえず飯作って勉強して明日の準備しなきゃなぁ。
窓の外から、微かに虫の音を感じる。
6月23日、深夜1時。
ふぅ。
おやすみなさぁァァァァァァいッッ!!!!
すべきことを全てやり、無事にフラグをへし折った俺は。
幸せな気持ちで就寝する。そのこと自体が、さらに大きな悲劇のフラグであることに気づけない。
翌朝。否。早朝3時。俺のスマホがけたたましく鳴る。電話。
「あさっぱらからなんだよもぉぉぉぉぉ……」
画面みて愕然。
機能停止。その間に電話のベルは止まった。
現実(着信履歴)を見て。
就寝後30分から、メール、電話が鬼ほどかかってきていた。すなわち、緊急事態。その間、俺は爆睡。この処罰は………………。
さーて。
おやすみなさい(現実逃避)
目覚ましが鳴って、朝6時。お弁当を作って、学校の用意持って学校へ出発。
今日の昼は、職場に呼ばれている。もう理由は分かっている。
あぁぁぁ!!なんなんだよもぉぉぉぉ!!!!嫌だぁぁぁぁ!!!!
さて、駄々はほどほどにしよう。
今日の授業は真面目にしっかり起きてた。だって昼までしか居られないから。「本部」に行かなきゃいけない。(ちなみに公欠扱いだ。)
「本部」…「対幻妖防衛対策課」。役所の一部署である。俺はその中の夜間防衛部隊に属している。通称『ヨル』。(まんまじゃねーか)
そして、俺は今、ヨルの事務所ではなく、対策課本部にいる。大目玉食らうのは確実だ。
コンコンコン、とノックして、「失礼します」と言って入室。いかにも、みたいな椅子に座った本部長と対面する。
「やぁ、昨日はよく眠れたかい?」
あからさまな皮肉。わかりやすい。
「はい」
「ヨルの同僚から、何か聞いているかい?」
思ったより怒られないのが逆に怖い。
「いいえ、何も。」
「そうかい。それではこのことは初めて聞くことになるのだね。」
本部長は少しだけ間を開け、そして。
「君、ヨルの若頭を継ぐことになったらしい。」
「え。」
俺の脳裏には、一昨日起きた出来事が颯爽と駆け抜けて行った。
ヨルの頭である、生涯現役、無敗を誇る化け物ジジイ、有明吉満(享年90歳)が天寿を全うし、大往生を遂げた。そのため、リーダー格である頭が不在となってしまったことを。
そして、その後継者を昨日、決めることになっていたことを。
「おめでとう。」
「あ、はい、どうも……。」
「はい、それだけ。これから頑張ってね、寝坊助若頭くん。」
イマイチ心の整理がつかない。けど、よく考えてみたら、メールも「起きろ」とかだったし、別に緊急事態であったわけじゃないと、冷静になってみれば分かる。
とりあえず、寝過ごしたことに言い訳をさせて欲しい。
~言い訳スタート~
いやいや、夜の2時から始めるって言うのがそもそもおかしいだろ。
何考えてんだ?そんなに昼が嫌いかよ?いくらヨルだからってそれはないんじゃねーの?
だって俺高校生よ?オマケに一人暮らしなんだよ?無理でしょ、出動命令出なけりゃそりゃあ寝るよ?だって弁当作んなきゃいけねーもん。
どうせあれだろ?「来ねぇからアイツでよくね?」みたいな雰囲気で決められたんだろ?
あぁぁぁもう!!
~言い訳(愚痴?)終了~
で、俺はどうしたら……?
わからん。
とりあえず学校戻ろう。
で、戻ってきたはいいけど、結局授業全く集中できなかった。
――――幕間――――
俺の名前は久遠楓夜。普通の高校に通う、普通とは言いきれない高校2年生。
対幻妖防衛対策課の、夜間防衛部隊の若頭(仮)です。
一人暮らししてます。
役所の一部署であるはずのヨルが、なぜリーダーを若頭と呼ぶのかと言うと、ヨル、とは、300年前、幻妖討伐を生業としていた一族のことを、人々が「ヨル」と呼び始めたのが始まり。つまり、元々はひとつの討伐集団であったというわけなのだが、様々に変化を重ねながら、大きな集団となったあとも、補助もなく幻妖を狩っていた。しかし、暮らしが近代化していくのに連れ、自給自足を行うことに限界が来たため、国が保護するという形で役所の一部署となった。って感じ。そのためか、昔からのしきたりや、暗黙のルール、構成員の傾向など、部署ではなく、「組」としての特徴が大きく反映されているからだとされている。
ヨルの戦闘スタイルというと、ヨルは東風の戦闘スタイルである武器戦闘、西洋の魔術戦闘が折衷した感じ。基本的には、「破魔具」と呼ばれる武器を媒体とした魔術を扱う。ちなみに俺は、魔術使えないんで、武器で直に戦うんだがな。
破魔具には色々と型があり、弓、剣、斧など、西洋の武器が主流。破魔具を持つ手から、様々な効果が所持者に付加され、身体能力などが強化されている。
ちなみに俺は東風の「刀」です。(誰も聞いてねーよ)
服装は、基本的に黒い服であればいいとされている。みんな西洋風の服なのに、俺だけ東風だから、凄まじく浮いてる。だって刀使うもん。合わないじゃん、西洋じゃ。
基本的な情報としてはここまで。
そういえば、「ヨル」以外に、昼間を担当する部隊もあるのだが、それについてはいずれ。
昼間の部隊とはすごく仲が悪く、あんまり関わらないらしいから、話すことはないかもなんだけど。
―――本編―――
うん、どうやらその時が来たみたいだ。
只今の時刻、午後4時。
しきたりで、昼と夜の防衛部隊は、午前4時、午後4時を境にシフトが入れ替わるんだけど。
4時ちょうどに幻妖出てくると、ちょっと判断つかないんだよね……。
というわけで、「ヨル」の方から出動命令が出たわけなんだけど。
案の定。
昼の部隊、通称、「ビャク」はそこにいた。
ビャク…午前4時から午後4時までの幻妖討伐を担当している、同じ対幻妖対策課の1部。
純西洋の系譜を源泉に持つ部隊であるために、西と東との折衷であるヨルとは違い、完全に東風の戦闘スタイルを禁じている。
戦闘スタイルは杖や魔導書などを媒体とした、魔術による直接攻撃。防御、攻撃、エンハンスなどを駆使して戦う。
服装は白を基調とした貴族のような制服で、「夜の徒党」といった雰囲気の俺たちとは明らかに違い、騎士のような印象を受ける(まぁ、武器使うの禁止なんだけど)。
これが若頭としての最初の仕事なんだが。
おい!!!
誰も来ねぇじゃねぇか!!!!!!!!!
仲悪すぎだろ!?
今回の幻妖は、100人単位の大人数。対して、ビャクのメンバープラス俺で総人数は10人。しかも今回、霊魂型の幻妖。しかも、トレースした亡霊が落ち武者。一体一体が強い。
恐らく、ヨル、ビャクでの共同戦線にして然るべきなのだが。効率的に。
残念ながら、ビャクが先にいるなら任せてしまおうという主義らしい。
クソか。
もういい、1人でやってやらぁ。
俺は、仮面をつけ、刀に手を当てる。
行くぜ!!!
敵の軍勢目がけ、刀を抜いて突っ込む。
「だぁぁりゃぁぁあああ!!!!」
刀を振り下ろし、ガードに回した敵の刀ごと斬り伏せた。
その先にも大量の敵が周りにいる。それを、先の斬撃のモーションをそのままに体を回転、先にいた2体を横薙ぎに斬り倒す。
周りにいるビャクのメンバーもしっかりと戦っているのだが、何故か俺の方を見ている。すげー冷たい目。いやん!
軽口叩いてる暇はない。多分このあとビャクの方々と喧嘩することになるだろうけど(リンチ?)、今はそれどころじゃない。
推定残り75体。ビャクの魔術攻撃は斬撃等様々だが、敵の装甲がかなり硬い。魔力消費が大きいからか5人は後衛に控えて援護、他が高火力の魔術で敵を倒すスタイルを取っている。
存外、俺というソロファイターは邪魔かもしれない。ので、アシスト側に回ることにしよう。
アシストしている5人は、何やら詠唱をすることで実戦担当に魔力を供給している。
攻撃対策をしているとは思うのだが、不意な攻撃など、戦場では当たり前のようにある。だから、アシストに集中出来るよう、俺はその前で敵を減らし、障害物、傷害物を消す。気付かれぬように。極力素早く、迅速に。
5、6人倒した位のところで、後ろのアシスト軍に気づかれた。そらそうだ。魔術攻撃は目に見える。わかりやすい。それがないのに敵が消える。
「おい、てめぇ、なんでいやがる?今は俺たちの時間だ!邪魔すんじゃねぇよ」
……仲悪いってのは本当らしいな。
「あー、わりぃわりぃ、でも、今もう4時過ぎてるんだから、別に文句ないよね?あとさ。」
「あ?」
「みんなでやった方が早く帰れるじゃん?まぁ、俺しか助太刀に来てねぇんだけどなぁ!!!…というわけで、俺の八つ当たりに付き合ってよ、ビャクの皆さん?」
それきり彼らは何も言わなかった。なんだ、話せば分かるじゃん。
尚も戦闘は続く。魔力はないけど、俺は現状最強、という位置づけらしい。全く自覚ないけど。ヨルは実力至上。その若頭に選ばれるということは、つまり、そういう事だ。確かそんなようなことを化け物ジジイが言っていた気がする。
流動的に、無駄なく敵を斬る。落ち武者ならば、首を斬るのが正攻法だろう。
横斬り、腕を回して斜め下に、そのまま二回転斬り。敵の攻撃を躱し、時に刀で受け、反撃。
すると。
銃声が聞こえた。
遠方より鉛弾が飛んできた。古来東洋の飛び道具、「ヒナワジュウ」。喰らうとヤバい。
はっ!!アシスト軍達!!!ヤバっ!!!
鉛弾を弾くため、彼らの前に出たその時、
見覚えのある魔法陣がそれらを弾いた。
その術の主は。
ビルの上からこちらを見下ろしていた。
そいつは。
俺の『元』父親だった。
名は久遠常夜。
最強の魔術師である。
魔術を捨て、剣の道へ走る俺を家から追放した。俺にとって……。
赤の他人だ。
何やらそいつはこちらを見ている。俺だと気づいてないといいが。仮面つけてるからまぁ大丈夫だろうけど。
バレると面倒なので、これが終わったらさっさとおいとましよう。
必殺技があれば、一掃、と言った感じでここで「ちゃっちゃと片付けるか」的なことを言って終わらせられるのだが。
何やらまた、ビルの上の人間は魔法陣を形成している。
これは御役御免かな。
じゃ、おいとましまーす。
めっちゃダサいけど、この前ビャクとの喧騒とか、マジで勘弁なんでここで帰ります。
上のやつの魔法陣から光弾が大量に発射され、残りの敵を貫いた。
終わりをそこに見たので俺は帰ろうとする。
その時。
「ねぇ。」
後ろから声をかけられた。女の声。
仮面をつけたまま振り返ると、何やら知った顔がいた。
「なんですか?」
「君ってくおn……」
「誰のこと?」
やっべ、食い気味に否定しすぎた……。バレるかもしんない。あ、怖くなってきた。逃げよ。
全力疾走。
なんか。この時の逃走の方が、先刻の闘争より疲れた気がした。
よし。今日はゆっくり寝よう。
ちょっと中途半端でごめんなさい。
文句、感想、批判、くださるととても嬉しいです。