8.竜の血
グルグル…。 グルグル…。
私は部屋の中を回っていた。
エルドに会いたい…。でも嫌な考えがまた浮かびそうで会えない…。
…でも会いたい。
「……ぅ~…。」
やっぱり、今日はもうエルドに会うのはやめようか…。
手足の紋様がばれても嫌だし…。
…。足はブーツで隠れるかな。手は…手袋、するとか?
体もそんなにだるくないし…。
って、会う方に考えがいってる。
もしあの嫌な考えが浮かんでしまったら…。
……ううん。私は絶対にしない、そんな事。
大事な友人を傷つけるような真似は、絶対に。
その思考に至った時だった。気持ちが少し楽になった気がした。
そしてそのまま、今日も私はエルドの元へと向かった。
手袋をはめて…。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「その手袋はどうしたんだ? 寒いのか?」
エルドが私の手元を覗き込んでそう質問する。
案の定、その質問がきた…。
「う、うん。今日はちょっと体が冷える感じがして…。
空気が冷たいのかなぁ…?」
両手を擦り合わせるようにして言う。
でも今日はポカポカ陽気で空気も暖かい…。
すんごく…苦しい言い訳だ…。
「ふぅん…。」
エルドは納得したのかしてないのかな返事をし、
覗き込んだ姿勢から元の姿勢へ戻った。
「所で、いつものキッシュはまだか?」
「あ、持って来たよ。ちょっと待ってね。」
いつもの雰囲気に戻り、私はホッと胸を撫で下ろし、
カゴに入ったキッシュを取り分け、エルドへとわた…
「…隙あり…だっ!」
「きゃ…っ!!」
キッシュと一緒に、私の手袋はエルドの手に持って行かれた…。
エルドの視線がその手に向く…。
「疫病、か…?」
「……。」
手を引いて、私は顔を俯かせるしかできなかった。
「……。」
「……。」
私は何を話したらいい…? エルドは今、何を思っているの…?
……
沈黙が続いた。
「「血」が必要か…?」
「…っ!!」
ドキンと、心臓が跳ねた。思わずエルドへ顔を向ける。
「ど、うして…それ…。」
「古き約束の時代にも流行った事のある病だ。
竜族には昔から伝わっている話でな…。それに、俺達に「関りのある事」
だから、な。」
「……。」
エルドなら、知っていて当然な気が、どこかでしていた。
「……。」
「……。」
また、沈黙が続く…。
「お前になら…」
「…いらない。」
即答する。
「それしか治療法はないんだぞ?
俺は、お前にだったら分けても…」
「いらないって言ってるでしょっ!!」
感情が溢れてきた…
「エルドが良いって言っても…
私は…私は絶対に、大切な友人を傷つけたりなんかしない!!」
強く、エルドを見据えた…
「それに、大量にいるんだよ?そんな事したら、もしかしたらエルドが…っ!!」
目元が熱くなり、ボロボロと零れ落ちる涙を止める事も無く、
私は一心にエルドを見つめた。
「リーリア…。」
私の泣き声だけが辺りに響く…。
「私は…こうして、エルドと会えるだけで良いんだよ…っ。
笑顔で二人で話せたら、それだけで良いんだよ…っ。
だから、私に大切な友人を傷つけさせるような事は言わないで…
お願い…エルド…」
「…リーリア…」
……。
……。
「…ごめん。私、今日は帰るね…。エルド…また、ね…」
「リーリア!!」
引き留める声がした。でも、いたたまれなくて… 悲しくて…
私は後ろを振り返らず、止まらず、その場を後にした…。
………。
……。
…。