7.迫る悪夢
柔らかな陽射しが窓から差し込む。
今日もゆっくりとベッドから体を起こして…。
…。何だか、少しだるいような…。
手をついて起き上がろうとして、私は自分の手の甲の「それ」に
息を呑んだ…。
黒い、紋様が浮かんでいる…。反対側の手の甲にも…。
ままならない思考のまま、自分の足元へ視線を向ける…。
両足にも、同じ……。……。
「……疫病。」
あの日のエマの言葉が蘇ってくる。15年前の疫病。
私の両親の死んだ、あの疫病…。
助かる方法なんて聞いた事のない…、疫病。……。
「あ……あ………。」
手足がガタガタと震え出す。
怖い… 怖い… 怖い……!
あまりの恐怖に、押し潰されそうになった時だった…。
「リーリア、起きたかい?」
部屋のドアへ顔を向けると、おばあちゃんの姿があった。
「……っ! リーリア…!」
私の姿を見てすぐ、おばあちゃんが私を強く抱きしめた。
その優しい温もりに、涙がぼろぼろ溢れて零れた…。
「おばあちゃん…! おばあちゃん…!!」
「なんでこの子がこんな目に…。」
ゆっくり、何度も、おばあちゃんは私の頭を撫でてくれた。
私が泣き止んで落ち着く、その時まで……。
………。
……。
…。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
おばあちゃんの温もりに、優しさに、少し気持ちが落ち着いてきた時…
「もし、竜の血があれば…」
「…え?」
ぽつりと、おばあちゃんが呟いた。
「この疫病には、治療法があるんだよ。呪いのような病だからね、
清らかな竜の血を大量にその身へ触れさせれば、体を清められ、
病を治せるんだよ。でも竜はもうこの世界では絶滅しているからね…。」
「「竜の血」…。……。」
一瞬、エルドの姿が浮かんだが、すぐに私は頭を振った。
「大量に」…? そんな事出来るわけない!
……。
「すぅ……ふーー。」
1度大きく息を吸って、思い切り息を吐いた。
少しだけ、気持ちが落ち着いてきた気がする。
「おばあちゃん… もう、大丈夫だから。」
「リーリア…。」
「他の治療法もあるかもしれないし…。ね…?」
つたない笑顔を作った。
「さあて、ハーブティーが飲みたいな。
おばあちゃん、リビングに行こう?」
優しく私の頭を撫でてくれていたその手を引いて、
私はリビングへ向かう。
考えてはいけない事に、フタをして……。
………。
……。
…。