6.幸せと不安と
エルドとの出会いから1ヵ月が経とうとしていた。
私は、あの日から毎日、キッシュを片手にエルドの元へと
訪れては他愛のない会話をして、のんびりとエルドとの日々を
過ごしていた。
最初の頃は、お互い身の上の話なども話していたけれど、
今は、「今日は風が気持ち良い」とか…
「今日はどの薬草がたくさん採れた」とか…
何のとりとめのない、他愛のない会話ばかりしている。
ふと、とても心地のよい風が吹き抜けた。
「風が気持ち良いね…」
風に遊ばれた髪に手を添えて整えるようにし、
私は目一杯息を吸い込んで堪能した。
「そうだな…」
エルドもゆったりを目を閉じて、安らいだ表情をしている。
ゆっくりと、ゆったりとした時間が流れる。
私はそんな、幸せに満ちたこの日々が大好きだった。
………。
……。
…。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ねえ、リーリア、知ってる?」
「え?何?エマ。」
いつものように、村の道端でエマとおしゃべりをしていると、
急にエマは声のトーンを下げて話してきた。
「これは、神父様から聞いた話で、まだほとんど広がってないんだけど…
15年前のあの「疫病」と同じ疫病にかかった人がこの村にいる…って。」
「え…。」
あの「呪いのような病」がまた…?
「まだそんなに広まってはいないし、亡くなった人もまだいないみたいだけど、
あの疫病だとしたらいずれ…」
「……。」
重い空気が二人にかかる。
今度もし、自分がかかったら… おばあちゃんがかかったら…
エマが、ダットが… …。
考えが悪い方向にしか向かない。
そんな不安を抱えながら、その日から日々を過ごす事になった。