4.新しい日々の始まり
窓からの柔らかな日差しに目を覚まし、
いつものようにベッドから体を起こす。
リビングについたらおばあちゃんと朝の挨拶をして、
朝食の準備をして。今日の薬草取りの話をして。
いつものハーブティーを飲んで、食後のひとときを済ませたら、
私は早々にキッチンに立った。
料理は家事の中でも好きな方で、中でもお気に入りの
「ナナン草のキッシュ」を作ろうと思っている。
少しだけ甘みのあるナナン草をメインとした、
私の自慢のキッシュ。
(竜の守り人様…喜んでくれると良いのだけれど…)
相手の事を思いながら作る料理は、相手の笑顔を思い浮かべるから
自然と鼻歌を交えるくらい、幸せな気持ちになる。
手早くキッシュを完成させたら、小さめのカゴへ入れて布でフタをした。
(薬草取りを済ませたら、竜の守り人様の元へ昨日のお礼に行こう。)
家のドアを開けると、私は足取りも軽く、森へと歩みを進めて行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これは初めて食べる食べ物だが、ほんのり甘みがあって美味いな。」
会って早速、竜の守り人様に渡した「ナナン草のキッシュ」を
竜の守り人様はとても美味しそうに食べてくれた。
「お口に合ったみたいで良かったです。私の料理の中でも
お気に入りの料理で、竜の守り人様にも気に入って貰えたらな…って
思ったので。上手に作れたみたいで良かった…。」
「お前の手作りなのか?これは。こんなに美味しい物を作れるなんて、
すごいなお前。」
そう言うと、竜の守り人様はまだカゴに残っているキッシュを
まじまじと見つめた。
「そんな事ないですよ。料理は家事の中でも好きってだけなので…」
「あ~…それ、やめないか?」
「え…?」
「その「話し方」。そんなに畏まらなくていい。
俺も別に偉いわけでもないし…。
出来るなら、お前が友達と話す時のようにして貰いたい。」
「で、でも、竜の守り人様にそんな…」
「それも! 俺の名は「エルドグランド」だ。名前で呼べ。
「様」とかもいらない。」
「エ…エルドグランド…?」
「うむ。…んん?ちょっと長いか?」
竜の守り人様がゆったりと首を傾げた。悩んでます、のポーズ。
「そうだな…。「エルド」。よし、「エルド」と呼べ。」
「え、ええと…。「エルド」…。」
「そうだ。」
…正直、竜の守り人様を相手に、すごく呼びにくいのだけれど…。
「話し方は?ほら?」
「あ、えっと…こんな感じで、良い…のかな?」
「ふむ…及第点、ってとこか。」
しどろもどろな感じで答える私に、目を閉じて納得した感じのエルド。
「よし。話しやすくもなった事だからな、本題と行こうか。」
私は話しやすくはないです、守り人様…。
「リーリア、と言ったな。お前の村の話を聞かせてくれないか?
それから、家族や友人の話もだ!それから…!」
「わ、分かったから!順番に話すから落ち着いて?エルド…。」
それから私は、村の人口は50人程度とか、疫病が流行った事とか、
友人は教会でお手伝いをしているとか、色々な話をエルドに聞かせた。
私もエルドの話を聞いたり、お互いがお互いの話をし、
他愛もない会話を続ける日々を、私はこの日から毎日送り始めた…。