10.輪廻
「じゃあ今日は、アムタの根とヤーノ草を頼めるかい?」
「うん、任せて。行ってくるね」
いつもの朝が来て、いつものやり取りをして、
私は家を後にした。
「アムタの根とヤーノ草、よしっと。」
頼まれた薬草を手早く採ると、持ってきた袋に詰めた。
(……あの時も、同じもの頼まれたんだっけ。)
ふと、森の先を見つめる。この先にあるであろう「もの」を。
あれから季節は何度も巡り、エルドと出会った季節にまたなった。
エルドの命の消えたあの日から、神殿へは一度も行けていない。
誰もいない神殿を見たら、エルドがいなくなった事を認めないと
いけない気がして、私は向き合えないでいた…。
でも、大切な思い出もたくさん詰まった場所だから…。
だから……。
………。
……。
…。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
森を抜けて広がる視界。
欠けた白い支柱の散らばったそこは、今も変わらずにあった。
ゆっくり見渡してみる…。
中央に、広く、大きな白い床が見える。
(いつもエルドが居た場所……。)
その場所へ近付くと、エルドとの楽しかった思い出がたくさん溢れてきた。
「……エルド」
ふと、一陣の風が吹いた。
頭上…かなり上空から何か物音がして、見上げてみた。
緑色の大きな体に、翼……
「……竜?!」
期待をした。そんなはずはないのに…。
地上に近づくにつれて大きくなるその姿に、
ほんの少しの期待は消えていった。
長いあご髭を生やし、その巨体は随分と老いぼれていた。
(……そう、だよね…)
そして私の目の前に、老いぼれた竜はゆっくり、慎重に降りてきた。
顔を近づけてきて私を覗き込むようにする。
その瞳は少し白く濁っていて、もう見えづらいのかもしれない…。
「ぬしが、リーリアか?」
ゆったりした口調で、少し枯れた低い声が聞こえた。
「は、はい。あなた、は…?」
「わしは成竜エルドグランドに最も近しかった者だ。」
「エルドグランド…。エルド…っ!」
その名前に心が震える。
「もうその者の肉体は存在しないがな。」
「「肉体」は?」
「長き時を生きる我ら竜は、肉体は滅んでも、魂はこの世界を巡るのじゃ。
その生前の想いの強い魂ほど、また新たな命に宿り、生まれてくる…。
このように、な。」
目の前に、光に包まれて小さな赤ん坊が姿を現し、私はそっと
その子を抱き止めた。
「エルドグランドの想いの結晶じゃ。大事に育てて、貰えるかの?」
「……エルド……。……。」
その子を見つめる。まだあどけない顔で、こちらを見つめてくる瞳は、
綺麗な金色で…。
エルドと、同じ瞳の色だ…。
「……はい。」
(貴方には、話したい事がたくさんあるの。
だから、貴方が大きくなったら、いつか話すね。)
ある少女と、大切な友人の、心優しい竜の物語を…。