9.もう灯らない光
あれから何日経ったのだろう…。
エルドは…どうしてるかな。
日に日に重くなっていく自分の体をベッドから起こそうと、
手に力を込める…
が、体を起こせない…。
とても体がだるい……。
病が重くなっている事… 「死」が迫っている事を、
否応にも感じさせられる…。
「………。」
意識が暗闇へ沈んでゆくみたい…
……。
重いまぶたに、意識に…
私は、ゆっくりと瞳を閉じた…
………。
……。
…。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……ん。」
あれからどれくらい眠っていたのだろうか…。
薄っすらとした意識の中、外がやけに騒がしい事に気が付き、
目だけで窓の外を覗く。
外はすっかり夜の帳が下りて真っ暗になっているのに、
時折、何かの明かりがちらついている。
「……。」
頭がぼうっとして、ぼんやりと窓を眺めていた…。
「「竜」だっ!!!」
「……っ?!」
今…何が聞こえた…?
その声に、心臓が跳ね上がった。酷く動悸がする…
嫌な思考が脳裏を巡る…
咄嗟に思い切りベッドから体を起こした。
「……ああっ!!」
だが力の入らないその体はそのまま床へと転げ落ちる…。
体が痛い…重い……思うように動かない……
外の騒ぎは収まらない…
こんな所で寝てる場合じゃないのに…っ!!
「動け… 動け……っ!!」
必死に自分を奮い立たせ、立ち上がり、
もたつく足のまま私は必死に家から飛び出していった…!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
声のする方へ、明かりのある方へ、倒れても倒れても必死に走って向かった。
やがて、村の入り口の辺りで人が群がっている場所が見えてきた。
人々の手に、ギラギラとした物が見えた。
何度も何かへ振りかざしては下ろされるそれの、先…
人々の間から見えた「それ」に、息が止まる、足を止めてしまう……。
私が、一番見たくなかった「それ」は…
緑色で、翼がついて………
「やめて……やめてーーー!!!!」
必死だった。人を割ってその体にしがみ付く。
そのほとんどを赤色で染めた体を必死で揺らした。
溢れ出るおびただしい量の血は、地面を赤に染めた…。
「エルド…ねえ、エルド…っ!!!」
必死に声をかけた。エルドの瞳を覗いた…。
既に… 光を宿さない、その瞳を……。
「なんで、どうして……っ。」
溢れる涙なんてどうでも良かった…
竜の血なんてどうでも良かった…
なのに、私の足元に大量に出来た血の塊は、
私にかかった病を、呪いの紋様ごと、浄化してゆく……
その事実が…エルドはもういないと言われているみたいで
悲しくて… 辛くて…。
「傍にいてくれるだけで良かったんだよ…?
私、エルドに会えるだけで幸せだったんだよ……?」
どんなに強く抱いても、どんなに声をかけても、
もう応えてくれる事はない…。
「ねえ…… エルド………。」
私は、ずっと、触れていた…
僅かに感じた温もりが、冷たさに変わるその時まで、
ずっと……
………。
……。
…。